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転生したら最強種だけどレベルが最弱でした。  作者: マッティー
第二章 広がる世界

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第二百三十一話 切り札

新たな戦い方を見つけたユウト。


しかし、本気となったゴルダンの力はそれでもなお強大でした。


果たして、この力の差をどう乗り越えるのか。


それでは、第231話をお楽しみください!

「望むところだ!」


 ユウトは勢いよく地面を蹴った。


 強く踏み込んだ足元が砕け、小石が後方へ弾け飛ぶ。ゴルダンとの距離を一気に詰めながら、ユウトは右拳へ意識を集中させた。


(……さっきの感覚、もう一回!)


 身体の奥から魔力を引き出し、右腕へと流していく。


 ただ炎を生み出すだけではない。発生した炎を外へ逃がさず、拳の周囲へ留め続けることが重要だった。


「……っ!」


 右腕を走った魔力が熱へと変わり、握り締めた拳の周囲で一気に燃え上がった。


 先ほどよりも明らかに発動が速い。炎の形も崩れることなく、拳の動きへ吸いつくように赤い炎が纏わりついている。


(……いける!)


「もう一発!」


 ユウトは勢いを落とすことなく、ゴルダンの懐へ飛び込んだ。


 しかし、炎を纏った右拳を見ても、ゴルダンの表情は変わらなかった。


「……またそれか。芸がないな」


「うるせぇ!」


 ユウトはさらに強く踏み込み、拳を振り抜いた。


 赤い炎が尾を引きながら、ゴルダンの顔面へ迫る。


 先ほどは確かに攻撃が届いた。ならば、今度も同じように――。


 そう考えた瞬間だった。


「同じものが何度も通用すると思うな」


「なっ――」


 拳が届く寸前、ゴルダンの上体が僅かに沈んだ。


 大きく回避したわけではない。ほんの僅かに身体を逸らしただけで、炎を纏った拳は頬のすぐ横を通り過ぎてしまった。


(……避けられた!?)


 完全に空を切った。


 そして、ユウトが体勢を立て直そうとするよりも早く、ゴルダンの手がその手首を掴んでいた。


「しまっ――!」


 慌てて振りほどこうとするが、すでに遅かった。


「攻撃しか見えておらんぞ」


 ゴルダンが腕を強引に引く。


 その力に抗うことができず、ユウトの重心が大きく前へ崩れた。


「遅いわぁ!」


「うおおおっ!?」


 次の瞬間、ユウトの身体が宙へ浮いた。


 視界が一気に反転し、天地が入れ替わる。何をされたのか理解するよりも早く、身体が凄まじい勢いで地面へ叩きつけられた。


 ドガァンッ!!


「がっ……!」


 背中に激しい衝撃が走った。


 地面が大きく陥没し、巻き上がった土煙が周囲へ広がっていく。


 肺の中にあった空気が一気に押し出され、ユウトは一瞬、呼吸することさえできなくなった。


「っ……ぐ……!」


 全身に走る痛みに、思わず顔が歪む。


 成体へ進化した今の身体でなければ、たった今の一撃だけでどうなっていたか分からない。それほどまでに、ゴルダンの攻撃は強烈だった。


「ユウト!」


 シエルの声が響いた。


 直後、舞い上がる土煙の向こうから銀色の影が飛び込んでくる。


 シエルは迷うことなくゴルダンとの距離を詰め、そのまま剣を横薙ぎに振り抜いた。


 狙いは首元。


 しかし、ゴルダンは迫る刃を一瞥しただけだった。


「邪魔だ」


 ギィンッ!!


「っ!」


 振り抜かれた剣が、ゴルダンの腕一本で弾き返された。


 耳を刺すような金属音が響き、予想外の衝撃にシエルの腕が大きく外側へ流される。


 その瞬間、彼女の体勢が僅かに崩れた。


「シエル!」


 ユウトが声を上げるよりも早く、ゴルダンの拳が振り上げられる。


 狙いは、無防備になったシエルだった。


「させないっす!」


 その時、横合いから飛び込んできた影が、シエルの身体を攫った。


「え――」


「捕まってるっす!」


 シアだった。


 シエルを抱えたまま翼を大きく羽ばたかせ、一気に上空へと離脱する。


 その直後、二人がいた場所をゴルダンの拳が薙ぎ払った。


 ブォンッ――!


 凄まじい風圧によって空気が弾け、周囲の砂埃が一斉に吹き飛ばされる。


「危なっ……!」


 シアが思わず顔を引きつらせた。


 あと僅かでも遅れていれば、シエルごと攻撃を受けていただろう。


「助かったわ」


 腕の中で、シエルが平然と言った。


「貸し一つっすね!」


「分かったわ」


「えっ!? 素直っすね!?」


「今それを話してる場合?」


「そうっすね!」


 シアは即座に表情を切り替えると、再びゴルダンへ視線を向けた。


 一方、ユウトも陥没した地面へ手をつき、どうにか身体を起こしていた。


「……いってぇ」


 背中を押さえながら立ち上がり、ゆっくりと呼吸を整える。


 身体のあちこちに痛みは残っているが、骨が折れているような感覚はない。少なくとも、まだ動くことはできそうだった。


(……強いな)


 ユウトは改めてゴルダンを見据えた。


 先ほどまでとは、まるで違う。


 攻撃の速さも威力も、こちらの動きを読む反応速度も、すべてが一段階上がっているように感じられた。


 新しく編み出したばかりの戦い方でさえ、一度見せただけですぐに対応されてしまったのだ。


(……これが、本気になったゴルダンか)


 先ほどまでは手を抜いていた……そう言われれば、それまでなのだろう。


 だが、実際にこうして向き合ってみると、その差は想像していた以上に大きかった。


「アニキ!」


 リトが駆け寄ってくる。


「大丈夫か!?」


「ああ」


 ユウトは背中の痛みを無視しながら拳を握った。


「まだいける」


「なら、もう一回合わせるぞ!」


「頼む!」


 短く言葉を交わすと、二人は左右へ分かれた。


 リトが右側へ、ユウトが左側へと回り込む。上空ではシアがシエルを下ろし、二人もそれぞれ位置を取り直していた。


 やがて、四人がゴルダンを取り囲む形になる。


「…………」


 しかし、ゴルダンは動かなかった。


 ただ中央に立ち、周囲へ散った四人をゆっくりと見渡している。


「今度は四人か」


「悪いかよ」


「いや」


 ゴルダンの口角が僅かに上がった。


「何人になろうと同じことだ」


「やってみなきゃ分かんねぇだろ!」


 ユウトは大きく息を吸い、仲間たちの位置を確認した。


 正面にはシエル。上空にはシアが待機し、右側のリトも剣を構えている。


 四人の視線が、一瞬だけ交わった。


「――行くぞ!」


 その声を合図に、全員が同時に動いた。


 正面からシエルが踏み込み、上空からはシアが急降下する。さらに右側からリトが迫り、ユウトも左側から一気に距離を詰めていく。


 四方向から逃げ道を塞ぎ、同時に攻撃を仕掛ける。


 誰か一人でも届けばいい。


(……これなら!)


 ユウトが拳へ魔力を集中させた、その瞬間だった。


「無駄だ」


 ゴルダンの背中から、巨大な翼が一気に広がった。


「っ!?」


 次の瞬間――。


 ドンッ!!


 音というより、衝撃だった。


 ゴルダンを中心に黒い魔力が爆発するように膨れ上がり、四方へ向かって一気に放たれた。


「うわっ!」


「きゃっ!」


「ぐっ……!」


 四人は攻撃を仕掛けるどころか、近付くことさえできなかった。


 ユウトの身体が宙へ浮き、そのまま後方へ弾き飛ばされる。シエルもシアもリトも同じように吹き飛ばされ、四方向から仕掛けた攻撃は、ゴルダンへ届く前にまとめて潰されてしまった。


「ぐっ……!」


 ユウトは地面へ肩から落ち、そのまま何度も転がった。


 咄嗟に腕をついて身体を止めると、痛む肩を押さえながら顔を上げる。


「……なんだよ、今の」


 ゴルダンは先ほどと同じ場所に立っていた。


 攻撃を避けたわけでもなければ、誰かを直接殴ったわけでもない。


 ただ魔力を解放しただけで、四人の連携攻撃を完全に止めてしまったのだ。


「その程度の力で我を囲んだところで、意味などない」


「……くそっ!」


 ユウトは歯を食いしばり、立ち上がろうとした。


 しかし、その瞬間、目の前からゴルダンの姿が消えた。


「――遅い」


「……っ!」


 声が聞こえたのは、真正面だった。


「なっ――」


 いつの間に移動したのか。そう考える暇すらなく、視界いっぱいにゴルダンの拳が迫っていた。


「ユウト!」


 遠くでシエルの声が聞こえる。


(……避け――!)


 間に合わない。


 ユウトは咄嗟に両腕を顔の前で交差させた。


 直後――。


 ドガァァンッ!!


「ぐああっ!!」


 腕越しに、とてつもない衝撃が全身へ突き抜けた。


 踏ん張っていた足が地面から離れ、身体が後方へ吹き飛ばされる。


 一度、二度と地面を大きく跳ねながら勢いを増し、そのまま背後の岩壁へ叩きつけられた。


 ドゴンッ!!


「がはっ……!」


 背中に激しい衝撃が走り、岩壁へ蜘蛛の巣状の亀裂が広がった。


 肺から空気が押し出され、口の中には鉄の味が広がっていく。


 視界が一瞬だけ揺れ、ユウトは岩壁へ背中を預けたまま、苦しそうに息を吐いた。


「アニキ!」


「ユウト!」


「主!」


 三人が一斉に駆け寄ろうとする。


「来るな!」


 ユウトは反射的に叫んだ。


「でも!」


「大丈夫だ……!」


 岩壁へ手をつき、歯を食いしばりながら身体を起こす。


 両腕が痛む。背中にも激痛が残り、呼吸をするたびに全身が軋むような感覚があった。


 それでも、立つことはできた。


「……まだ、やれる」


 決して強がりではなかった。


 成体へ進化した身体は、これほどの攻撃を受けてもなお、戦えるだけの力を残している。


 だが、戦えることと勝てることは、まったく別の話だった。


(……このままじゃ駄目だ)


 ユウトは目の前のゴルダンを睨みつけながら、頭の中で考えを巡らせた。


 魔法を拳へ纏わせる方法を掴み、実際に一度は攻撃を届かせることができた。


 成体へ進化したことで、身体能力も幼生体だった頃とは比べものにならないほど向上している。


 魔法まで使えるようになった今の自分は、以前なら考えられないほど強くなっているはずだ。


 それでも、本気になったゴルダンにはまだ届かない。


「……どうした?」


 ゴルダンがこちらを見据えた。


 その身体には、目立った傷すら残っていない。


「先ほどまでの威勢は終わりか?」


「……いや」


 ユウトはゆっくりと顔を上げ、口元に滲んだ血を腕で拭った。


「まだだよ」


「ほう?」


 ゴルダンの目が僅かに細くなる。


 ユウトは一度だけ息を整えると、静かに呟いた。


「できれば……これは取っておきたかったんだけどな」


 今までは、人の姿で戦えるならそれが一番いいと思っていた。


 この身体なら小回りが利くし、仲間たちとも連携しやすい。何より、本来の巨大な姿へ戻れば、周囲への被害も大きくなる可能性があった。


 だからこそ、できる限り今の姿で戦おうとしていたのだ。


 しかし、目の前の相手は、そんなことを言っていられるほど甘い敵ではなかった。


(……成体になってからは、初めてか)


 完全人化を獲得した時、同時に本来の竜の姿へ戻る力も解放されていた。


 だが、成体へ進化した今の身体で竜化したことは、まだ一度もない。


 幼生体だった頃とは違う。


 今、本来の姿へ戻ればどれほどの力を発揮するのか。身体がどれほど巨大になっているのかさえ、ユウト自身にも分からなかった。


 未知の変化を伴う以上、無闇に使うことは避けていた。


 だが、このまま戦い続けても状況が好転するとは思えない。


「……やるしかないよな」


 ユウトは静かに呟くと、意識を身体の奥深くへと向けた。


「補佐機構」


《はい、マスター》


 即座に、聞き慣れた声が返ってきた。


 ユウトはゴルダンから視線を外さないまま、はっきりと告げる。


「竜化する」


《承知しました》


「…………」


 その言葉を聞き取ったのか、ゴルダンの眉が僅かに動いた。


「……竜化、だと?」


 初めて、その声に僅かな揺らぎが混じる。


「貴様には……まだできないはずだ」


「……そうなのか?」


 ユウトは少しだけ笑った。


 ゴルダンの反応が気にはなったが、今さら引き返すつもりはなかった。


「だったら――」


 身体の奥で、何かが脈打つ。


「見れば分かるよ」


 次の瞬間、ユウトの身体から黒い魔力が溢れ出した。


「っ!」


 その変化に、シエルが目を見開く。


 リトとシアも反射的に身構えた。


「みんな、少し離れてろ!」


「ユウト……まさか」


 シエルだけは、ユウトが何をしようとしているのか察したらしい。


「早く!」


「二人とも、離れるわよ!」


「了解っす!」


「分かった!」


 三人が一斉に距離を取る。


 仲間たちが十分に離れたことを確認した、その瞬間だった。


 ドクン――。


「っ……!」


 心臓が大きく脈打った。


 身体の奥深くに存在する、今まで意識していなかった何かが、ゆっくりと動き始める。


 人の姿へ押し込めていた、本来の自分。そこへ繋がる感覚が、少しずつ開いていく。


 ドクン。


 二度目の鼓動が響いた瞬間、足元の大地が小さく震えた。


「……な」


 ゴルダンの表情が変わる。


 ユウトの身体から溢れ出す魔力が、さらに膨れ上がっていた。


 今まで人の姿に抑え込んでいた膨大な力が、堰を切ったように解放されていく。


 周囲には激しい風が巻き起こり、足元の砂塵が一斉に舞い上がった。大地には細かな亀裂が走り、近くに転がる岩までもが小刻みに震え始める。


「……この魔力量」


 ゴルダンが思わず一歩後退した。


 先ほどまで何をされても崩れることのなかった余裕が、その表情から初めて薄れていく。


「……アニキ」


 離れた場所でリトが息を呑んだ。


「これ……主の魔力っすか……?」


「ええ」


 シエルはユウトから目を離さずに答えた。


「でも……前とは違う」


 荒れ狂う魔力の奔流。


 その中心で、ユウトの身体が変化を始めていた。


「ぐっ……!」


 背骨を駆け抜ける熱とともに、全身が内側から押し広げられていく。


 腕や脚の感覚が変わり、胴体もまた、これまでの人の姿では収まり切らないほど大きくなっていった。


 骨格が組み変わり、筋肉の一つ一つが本来の形へ戻ろうとしている。


 身体を覆う黒い魔力は渦を巻きながらその姿を包み込み、周囲からは輪郭すらはっきりと見えなくなっていた。


 ただ、その影が少しずつ巨大になっていることだけは分かる。


「……馬鹿な」


 ゴルダンが思わず呟いた。


 視線が、次第に上へと向いていく。


「この姿は……」


 魔力の嵐の中で、ユウトはゆっくりと瞼を開いた。


 もはや人のものではない瞳が、眼下に立つゴルダンを捉える。


「――竜化」


 その一言とともに、全身を覆っていた黒い魔力が一気に弾け飛んだ。


 巨大な翼が大きく開き、四肢が大地へと降ろされる。


 その重量を受け止めた地面が、低い音を立てて震えた。


 そして――。


『――――――ッ!!』


 凄まじい咆哮が放たれた。


 轟く声が周囲の空気を震わせ、足元の大地を揺らしていく。


 岩山に反響した咆哮は幾重にも重なり合いながら、遠くの山々へと広がっていった。


 山岳地帯一帯に響き渡る、竜の咆哮。


 その中心には、成体へ進化して初めて本来の姿を現した終焉竜がいた。


 巨大な翼を広げ、大地に四肢を踏み締めながら、眼下のゴルダンを静かに見下ろしていた。

第231話を読んでいただきありがとうございます!


新たな戦い方を見つけてもなお、圧倒的な力を見せるゴルダン。


進化し、以前とは比べものにならないほど強くなったユウトですが、それでもまだ届かない。


ならば――残された手段は一つ。


成体となったユウトが初めて見せる、本来の姿。


その力は果たして――。


次回もぜひお楽しみに!


「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても励みになります!


それでは、また次回お会いしましょう!

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