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転生したら最強種だけどレベルが最弱でした。  作者: マッティー
第二章 広がる世界

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230/322

第二百三十話 新たな可能性

本気を見せ始めたゴルダン。


さらに激しさを増す戦いの中で、ユウトは自分なりの魔法の使い方を模索します。


それでは、第230話をお楽しみください!

 バサッ――!


 巨大な翼を広げたゴルダンが地面を蹴り、巻き上がる砂埃の中からゆっくりと宙へ浮かび上がった。


「……飛んだ!」


 ユウトが顔を上げる。


 ゴルダンが翼を一度羽ばたかせるたびに周囲の空気が大きく揺れ、足元を細かな砂が流れていく。


 先ほどまでは同じ地面の上で戦えていた。だが、相手が空へ上がったことで、その状況は大きく変わってしまった。


 空中を自由に動き回れる相手に対し、地上から攻撃を仕掛けるだけでは不利になる。


「来るわよ!」


 シエルの鋭い声が飛んだ。


「っ!」


 ユウトが反射的に構えた直後、上空にいたゴルダンの姿が視界から掻き消えた。


「消え――」


 いや、違う。


 消えたのではない。あまりにも速く移動したため、目で追い切れなかったのだ。


(……速い!)


 ユウトは慌てて視線を走らせた。


 空気の流れと翼が風を切る音。そして、右側から迫ってくる凄まじい魔力。


「ユウト!」


「分かってる!」


 シエルの声に応じながら、ユウトは咄嗟に両腕を交差させ、身体を僅かに右へ向けた。


 直後――。


 ドガァンッ!


「ぐあっ!」


 ゴルダンの拳が交差させた腕へ激突し、防御ごとユウトを吹き飛ばした。


 凄まじい衝撃に足が地面を削り、土煙を巻き上げながら数メートル後方へ滑っていく。


「ぐっ……!」


 ユウトは腰を落とし、両足へ力を込めた。


 靴底を地面へ食い込ませるように踏ん張り、ようやく後退する勢いを止める。


「……さっきより速ぇ!」


 両腕を軽く振って痺れを飛ばしながら、ユウトは上空を見上げた。


 ゴルダンはすでに再び距離を取り、何事もなかったかのようにこちらを見下ろしている。


「本気を出すと言ったはずだ」


「だからって急に速くなりすぎだろ!」


 ユウトは思わず言い返すと、すぐに右手を上空へ向けた。


「……なら!」


 手のひらへ魔力を集め、燃え上がる炎を一つの球体へ凝縮していく。


「ファイアボール!」


 放たれた火球が、一直線にゴルダンへ向かった。


 しかし、ゴルダンは避けようとする素振りすら見せなかった。


「……遅い」


「なっ!?」


 ゴルダンが翼を僅かに傾ける。


 たったそれだけの動作で身体が横へ流れ、火球はそのすぐ横を通り過ぎてしまった。


 ドォンッ!


 行き場を失った炎が背後の岩壁へ衝突し、爆音とともに土煙が舞い上がる。


「……くそっ!」


 ユウトは奥歯を噛み締めた。


 今の速度で自由に飛び回られては、地上から魔法を放っても簡単に避けられてしまう。


 火球が相手へ到達するまでの僅かな時間でさえ、ゴルダンには十分な回避の余裕があるのだ。


「ユウト、下がって!」


「……シエル?」


 声が聞こえた直後、シエルが地面を強く蹴った。


 足元で銀色の魔力が弾け、その身体が一気に宙へ舞い上がる。


「あーしも行くっす!」


 間髪入れずにシアも後を追った。


 二人は左右へ大きく分かれると、そのままゴルダンを挟み込むように迫っていく。


「……ほう」


 ゴルダンは二人へ素早く視線を走らせ、巨大な翼を大きく広げた。


 ブォンッ――!


「っ!」


「うわっす!?」


 たった一度の羽ばたきで凄まじい突風が巻き起こり、シアの身体が大きく横へ流された。


「くっ……!」


 シアは空中で体勢を崩しながらも、何とか武器を構え直す。


 一方、反対側から迫っていたシエルは、身体へ銀色の魔力を纏わせ、真正面から風を切り裂くように突っ込んでいた。


「はぁっ!」


 鋭い剣閃が、銀色の軌跡を描きながら走る。


 ギィンッ!


「っ……!」


 ゴルダンは腕を上げ、迫る刃を正面から受け止めた。


 金属同士が衝突したような甲高い音が響き、シエルの剣が僅かに弾かれる。


「……やはり硬い!」


「その程度か?」


「まだよ!」


 シエルは弾かれた勢いに逆らわず、身体を回転させながら二撃目を放った。


 横薙ぎの一閃から、返す刃でさらに三撃目。


 銀色の軌跡が連続して宙を走り、ゴルダンの身体へ迫る。


 しかし、ゴルダンは身体を僅かに傾け、あるいは腕で受け止めながら、そのすべてを最小限の動きで捌いていった。


「アニキ!」


「分かってる!」


 地上からリトの声が飛ぶ。


 ユウトも上空を睨みながら頷いた。


 このままでは、空中で戦えるシエルとシアに負担が集中してしまう。


(……飛べないと厳しいか)


 そこで一瞬、竜化という能力が頭をよぎった。


 成体へ進化した今なら、自分の意思で本来の竜の姿へ戻ることができる。


 あの姿なら翼もあるし、空へ上がって戦うことも可能なはずだ。


 だが、ユウトは拳を握り、その考えを振り払った。


(……いや、まだだ)


 使える手段だからといって、すぐに頼る必要はない。


 人の姿で修行を重ねてきた意味もあるし、何より、この身体だからこそできる戦い方がまだあるはずだった。


 ユウトは改めて上空の動きを目で追った。


 シエルが正面から攻撃を仕掛け、その間にシアが後方へ回り込み始めている。


(……なら!)


「シエル!」


 ユウトは大きく息を吸い、上空へ向かって叫んだ。


「一回、下に落とせるか!?」


 シエルは剣越しにゴルダンを押しながら、一瞬だけ地上へ視線を向けた。


「やってみるわ!」


 そう答えると、身体を捻って大きく剣を振り抜く。


 ゴルダンも即座に腕を上げ、その一撃を受け止めた。


 ギィンッ!


「……甘い」


「それはどうかしら!」


「……何?」


 シエルの言葉に、ゴルダンの眉が僅かに動いた。


 その時だった。


「今っす!」


 声が響いたのは、ゴルダンの背後。


 先ほど突風で弾き飛ばされたはずのシアが、いつの間にか死角へ回り込んでいた。


「ぬっ!」


 ゴルダンが振り返る。


 その反応は恐ろしく速かったが、それでもほんの僅かに遅れた。


「せぇぇいっす!」


 ドガッ!


 勢いを乗せたシアの蹴りが、ゴルダンの背中へまともに叩き込まれた。


「ぐっ!」


 強烈な一撃を受けたゴルダンの身体が大きく傾き、そのまま地上へ向かって落下していく。


「ユウト!」


「任せろ!」


 シエルの声が届いた時には、ユウトはすでに走り出していた。


 ゴルダンの落下地点へ向かいながら、右手へ魔力を集中させる。


(……ファイアボールじゃ駄目だ)


 先ほどの攻防で思い知らされた。


 放ってから相手へ届くまでに時間が掛かる攻撃では、ゴルダンの速度に対応できない。


 ならば、もっと別の方法が必要だった。


 ユウトは走りながら、自分の右拳へ視線を落とした。


 先ほど、地上でゴルダンと攻防を繰り広げた時のことを思い出す。


 拳を叩き込む瞬間、そこへ炎を乗せて爆発させた一撃。


(……あれを、もっとちゃんと使えれば)


 ユウトは右手へ流れる魔力を感じ取り、その周囲に炎を生み出した。


 だが、今度は放たない。


(飛ばすんじゃなくて――)


 炎を右拳の周囲へ留めるように意識を集中させる。


「……っ!」


 途端に、炎が不安定に揺らぎ始めた。


 火球を撃つ時のように前方へ放出しようとする魔力と、それを拳の周囲へ留めようとする意識がぶつかり合う。


 せっかく生み出した炎が、一瞬で消えかけた。


「……くそっ!」


 ユウトは歯を食いしばり、さらに意識を集中させた。


 右腕へ流れ込んでくる魔力を感じ取りながら、外へ逃がさないように調整する。


 ただ押さえ込むのではない。


 必要な形を維持したまま、自分の動きに合わせて炎を留め続ける。


「ここに……残れ!」


 その意識に応えるように、揺れていた炎が徐々に安定していった。


 燃え盛る赤い炎が手首から拳を包み込み、ユウトの動きに合わせて揺らめいている。


「……できた!」


 そして、その瞬間。


 ズンッ!


 ゴルダンが地面へ着地した。


 膝を僅かに沈ませるだけで落下の衝撃を殺し、ゆっくりと顔を上げる。


 その視線が、炎を纏ったまま突っ込んでくるユウトを捉えた。


「小細工を――」


「小細工かどうか――!」


 ユウトは最後の一歩を強く踏み込んだ。


 足元の地面が小さく砕け、全身の力が右腕へと集まっていく。


「食らってから決めろ!」


 腰を回し、肩を入れる。


 そして、炎を纏った右拳を真正面から振り抜いた。


 ゴルダンも逃げなかった。


 右拳を握り締めると、迫る一撃に対して真正面から打ち返す。


 二つの拳が激突した。


 ドォォォンッ!!


「ぐっ!」


「ぬぅっ!?」


 接触した瞬間、ユウトの拳へ纏わせていた炎が一気に爆発した。


 猛烈な爆風が二人の間から広がり、周囲の砂埃を勢いよく吹き飛ばしていく。


 だが、ユウトの身体もその衝撃に耐え切れず、大きく後方へ弾かれた。


「うおっ!」


 地面を何度か転がり、片手をついて強引に身体を止める。


「……いってぇ!」


 右拳がじんじんと熱を持ち、腕全体には痺れるような感覚が残っていた。


 相手の拳へ真正面からぶつけたのだから、無傷で済むはずもない。


「……やっぱ真正面は無茶だったか」


 ユウトは苦笑しながら顔を上げた。


 しかし、目の前の光景に、その表情が止まる。


「……っ!」


 ゴルダンも、先ほどの場所には立っていなかった。


 爆発の衝撃を受けて数歩後退し、右足を後ろへ引いた状態で踏み止まっている。


 さらに、拳を受け止めた右腕からは、細い煙が立ち上っていた。


「……効いた?」


 ユウトはゆっくりと立ち上がり、自分の右拳を見つめた。


 先ほどまで纏っていた炎は、すでに消えている。


 維持できた時間も僅かで、威力だって十分とは言えない。


 それでも、今の一撃がゴルダンへ届いたことだけは確かだった。


「……なるほど」


 ゴルダンも自らの右腕へ視線を落とした。


 煙の上がっている箇所を一度指で払うと、再びユウトへ顔を向ける。


「魔法を放つのではなく、身体へ纏わせたか」


「……そういうことになるな」


 ユウトは軽く肩をすくめた。


 もっとも、自分でもそこまで深く考えていたわけではない。ほとんど思いつきだったし、上手くいくかどうかも分からなかった。


 だが、こうして実際に試してみたことで、新しい可能性が見えてきた。


 ユウトは一度拳を開き、もう一度強く握り締める。


(……これ、使える)


 頭の中で、今まで別々だったものが繋がったような感覚があった。


 これまでの自分にとって、魔法とは敵へ向かって放つものだった。火球を作り、それを飛ばして攻撃する。魔法が使えるようになってからは、そんな使い方ばかりを考えていたのだ。


 しかし、別にそうしなければならないという決まりはない。そもそも、自分は魔法使いではない。


 シエルのように離れた場所から多彩な魔法を操る必要もなければ、今まで培ってきた戦い方を捨てる必要もなかった。


(……俺は、俺の戦い方に合わせればいい)


 拳で戦うのなら、そこへ魔法を纏わせればいい。


 蹴るのなら脚へ、攻撃を防ぐのなら腕へ。身体を使った戦闘と魔法を別々に考えるのではなく、最初から一つのものとして組み合わせればいいのだ。


 それは、これまでのユウトにはなかった発想だった。


「……面白い」


 ゴルダンの声に、ユウトは意識を戻した。


 顔を上げると、ゴルダンが再び巨大な翼を広げている。


「即興でそこまで辿り着くか」


「俺も今びっくりしてるよ」


「だろうな」


「そこは否定しろよ!」


 思わずツッコミを入れるユウトだったが、ゴルダンは僅かに口元を緩めるだけだった。


 そして、そんな短いやり取りの間にも、彼の魔力はさらに膨れ上がっていく。


 翼の周囲で黒い魔力が渦を巻き、足元に散らばっていた砂が少しずつ浮かび上がり始めた。


「……ならば」


 ゴルダンが静かに構える。


「どこまで抗えるか、試してやろう」


「望むところだ!」


 ユウトも腰を落とし、両拳を構えた。


 先ほどの感覚を思い出しながら、もう一度右拳へ魔力を流していく。


 もちろん、まだ完成には程遠い。


 炎を維持するだけでも意識を大きく奪われるし、戦いながら自在に扱えるようになるには、まだまだ練習が必要だろう。


 それでも、新しい戦い方が一つ見えた。


 魔法をただ放つのではなく、自らの身体へ纏わせて戦う。


 今はまだ、不完全な技術にすぎない。


 だが、この時に生まれた小さな発想が、やがてユウトにとって大きな武器の一つになっていくのだった。

第230話を読んでいただきありがとうございます!


魔法は、ただ放つだけのものではない。


これまでの自分の戦い方に魔法を組み合わせることで、ユウトは新たな可能性を見つけました。


まだ思いつきに近く、完成には程遠い戦い方。


それでも、この発想が今後どのように発展していくのか。


ぜひ楽しみにしていただければと思います!


そして、本気を見せ始めたゴルダンとの戦いもまだ終わりません。


次回もぜひお楽しみに!


「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても励みになります!


それでは、また次回お会いしましょう!

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