第二百二十九話 第二ラウンド
一度は戦うことすらできなかった相手――ゴルダン。
しかし、あの時のユウトたちとは違います。
修行の成果を見せる時です!
それでは、第229話をお楽しみください!
先に動いたのは、ゴルダンだった。
「――っ!」
地面が爆ぜたかと思った瞬間、その姿が一気にユウトの目前まで迫っていた。
(……速い!)
間髪入れずに振り抜かれる右拳。
地下遺跡で初めて対峙した時なら、攻撃を受けたことに気付く頃には、すでに吹き飛ばされていただろう。
どこから現れ、何をされたのかさえ分からない。それほどまでに、あの時のゴルダンは圧倒的な存在だった。
だが、今は違う。
(……見える!)
ユウトは咄嗟に上体を捻った。
ブォンッ――!
「うおっ……!」
凄まじい風圧を伴った拳が、頬のすぐ横を通り抜けていく。
あと僅かでも反応が遅れていれば、確実に直撃していた。それでも、ユウトはゴルダンの動きを捉え、その攻撃を回避することに成功したのだ。
「……ほう」
ゴルダンの目が僅かに細くなる。
しかし、ユウトはその反応を気にしている余裕などなかった。
「今度は――!」
回避した勢いをそのまま踏み込みへと変え、ゴルダンの腹部目掛けて右拳を叩き込む。
バシッ!
「っ!」
拳はゴルダンの腕によって受け止められた。
だが、ユウトはすぐには拳を引かなかった。受け止められた右腕を支点に身体を寄せながら、空いている左手へ魔力を集中させる。
「まだだ!」
手のひらに赤い光が灯り、瞬く間に火球が膨れ上がった。
「ファイアボール!」
ほとんど零距離。
通常なら避ける間もない距離で、凝縮された炎が一気に弾けた。
「ぬっ!」
ドンッ――!
爆炎がゴルダンの身体を包み込み、衝撃によって周囲の砂埃が大きく吹き飛ばされる。
「やったっす!」
後方からシアの声が上がった。
しかし、ユウトは炎の向こうから目を離さなかった。
「いや!」
確かに手応えはあった。
だが、あれだけで倒せる相手ではない。地下遺跡で見せつけられた実力を思えば、むしろこのまま終わるはずがなかった。
その予感を裏付けるように、燃え盛る炎の中から一本の腕が伸びてきた。
「うおっ!?」
ユウトは反射的に両腕を交差させる。
ドガッ!
「ぐっ……!」
鈍い衝撃が腕から全身へ突き抜け、ユウトの身体が大きく後方へ弾き飛ばされた。
足が地面から離れ、視界が一瞬だけ揺れる。それでもユウトは空中で身体を捻り、着地と同時に両足を踏ん張って勢いを殺した。
「……いってぇ」
防御した両腕には、まだ痺れるような感覚が残っていた。
まともに直撃したわけではない。確かに防御は間に合ったはずなのに、それでもこれほどの衝撃を受けたのだ。
(……やっぱ強いな!)
ゴルダンの実力は、相変わらず底が知れない。
しかし、不思議なことに、今のユウトの胸に湧き上がっていたのは恐怖だけではなかった。
むしろ、その口元には僅かな笑みさえ浮かんでいた。
(……戦える)
先ほどの攻撃は見えた。
避けることもできたし、そこから反撃へ繋げることもできた。
以前は同じ場所に立つことすら許されなかった相手に、今は確かに手が届いている。
その事実が、ユウトに大きな手応えを与えていた。
「……驚いたな」
爆炎がゆっくりと晴れていく。
その中から現れたゴルダンには、目立った傷らしい傷はなかった。しかし、衣服の一部には黒い焦げ跡が残っている。
「以前とは別人だ」
「……そりゃどうも」
「褒めたつもりはない」
「じゃあ言わなくていいだろ!」
ユウトが思わず言い返す。
ゴルダンは僅かに目を細めると、再び足へ力を込めた。
その瞬間だった。
「……させないわ」
銀色の閃光が、横合いから走った。
「っ!」
ゴルダンの側面へ回り込んでいたシエルが、鋭く剣を振り抜く。
ギィンッ!
刃がゴルダンの腕へ激突し、金属同士を打ち合わせたような甲高い音が岩場へ響き渡った。
「……なんて硬さ!」
シエルが僅かに目を見開いた。
生身の腕で受け止めたとは思えないほどの硬さだったが、その一撃によってゴルダンの意識が一瞬だけシエルへ向けられる。
「シエル!」
ユウトはその隙を見逃さず、正面から一気に距離を詰めた。
「いくっすよ!」
反対側からはシアが飛び込み、さらにリトが後方へ回り込む。
「俺も忘れんなよ!」
四人がそれぞれ異なる方向からゴルダンを包囲する。
ただ闇雲に攻撃を重ねるのではない。誰かが仕掛ければ、別の誰かがその動きに合わせて踏み込み、次の攻撃へ繋げていく。
訓練の中で何度も確認してきた連携だった。
「……なるほど」
ゴルダンは四人の位置を素早く見渡すと、静かに呟いた。
「多少は考えてきたようだな」
「多少じゃ――」
ユウトの右拳へ炎が集まり、赤い輝きがその周囲を包み込んだ。
「ない!」
踏み込んだ勢いのまま拳を振り抜き、纏わせていた魔力を一気に爆発させる。
ドォンッ!
「っ!」
衝撃を受けたゴルダンの身体が、僅かに揺れた。
「今だ!」
ユウトの声と同時にシエルの剣が走り、シアが死角から踏み込む。さらに後方から回り込んでいたリトが、上段から鋭く剣を振り下ろした。
ゴルダンはシエルの剣を腕で受け、身体を捻ってシアの攻撃を逸らすと、続けてリトの斬撃を片手で受け止めた。
最小限の動きで次々と攻撃を捌いていくその技量は、相変わらず恐ろしいほど高い。
それでも、完全にこちらの動きを封じられているわけではなかった。
「……押してる!」
ユウトが思わず声を上げた。
地下遺跡では、まともに戦える姿すら想像できなかった。
攻撃を当てるどころか、ゴルダンが本気でこちらを見る必要さえなかったのだ。
しかし、今は違う。
ゴルダンに防御をさせ、足を動かし、こちらの攻撃を捌くために意識を割かせている。
何より、四人とも以前のように一方的に置き去りにされることなく、その速度へ反応できていた。
(……いける!)
もちろん、まだ倒せると確信したわけではない。
それでも、少なくとも戦いにはなっている。
四人で攻め続ければ、いつか決定的な隙を作れるかもしれない。
そう考えた、その時だった。
「――ふっ」
ゴルダンが小さく笑った。
「……?」
その声を聞いた瞬間、ユウトの背筋に嫌な感覚が走る。
次の瞬間、ゴルダンはシエルの剣を強引に弾き飛ばした。
「っ!」
予想外の力に、シエルの身体が僅かに後方へ流れる。
続けてシアの攻撃を腕で逸らし、リトの剣も片手で受け止めた。
先ほどまでとは違う。
その一連の動きには、明らかな余裕が感じられた。
「……確かに強くなった」
ゴルダンが低く呟く。
その直後、身体の奥から新たな魔力が溢れ始めた。
それは、先ほどまで放たれていたものとは比較にならないほど濃く、重い。
周囲の空気が震え、足元の小石が細かく揺れ始める。
「……まさか」
ユウトの表情が引きつった。
目の前のゴルダンから感じられる圧力が、急激に増していく。
「……お前」
「勘違いするな」
ゴルダンの低い声が、岩場に響き渡った。
全身を覆う黒い魔力が背中へと集中し、さらにその密度を増していく。
そして――。
バサッ!
「……っ!」
巨大な黒い翼が、大きく広がった。
巻き起こった風圧に、ユウトたちは思わず足を踏ん張る。先ほどまで感じていた圧力とは、まるで違っていた。ただ翼を広げただけだというのに、その場を支配するような異質な魔力が、四人の身体へ重くのしかかってくる。
(……まだ上があるのかよ!)
ユウトは歯を食いしばった。
ようやく攻撃が通り始めたと思っていた。
連携によって、少しずつゴルダンを追い詰めているとも感じていた。
だが、その考えが甘かったことを、今になって思い知らされる。
ゴルダンはゆっくりと顔を上げた。
「我はまだ、本気など出しておらぬわ」
「……やっぱりかよ」
ユウトは苦笑しながら構え直した。
どこかで分かっていたことだった。地下遺跡であれほど圧倒された相手を、たった数日間の修行で簡単に越えられるはずがない。成体へ進化し、魔法を扱えるようになったとはいえ、それだけで埋まるような実力差ではなかったのだ。
それでも、今のユウトに以前のような絶望はなかった。
「……上等だ」
静かに息を吐き、両手へ魔力を集中させる。
身体の内側から流れ込んだ魔力が炎へと変わり、ゆっくりと拳を包み込んでいった。
隣ではシエルが体勢を立て直し、シアとリトもそれぞれ武器を構え直している。
ゴルダンの力が想像以上だったとしても、ここで引き下がるつもりは誰にもなかった。
「こっちだって、まだ始まったばっかだ!」
ユウトはゴルダンを正面から睨みつけた。
一度は戦うことすらできなかった相手。あの時は何をされているのかも分からず、ただ圧倒的な力の差を見せつけられるだけだった。
だが今は、攻撃を見極め、反撃し、仲間たちと連携して戦うことができている。
相手がまだ本気を出していないのなら、これから先はさらに厳しい戦いになるだろう。
それでも、ようやく同じ戦場に立つことができたのだ。ユウトは燃え上がる拳を握り締め、目の前の強敵を見据えた。本当の戦いは、ここからだった。
第229話を読んでいただきありがとうございます!
ついに始まったゴルダンとの再戦。
以前は戦える想像すらできなかった相手でしたが、今回はその攻撃が見える、避けられる、そして反撃できる。
ユウトたちの成長を感じていただけたでしょうか。
しかし――ゴルダンもまだ本気ではありませんでした。
巨大な翼を広げ、さらに魔力を解放するゴルダン。
ここからが本当の戦いです!
果たしてユウトたちは、本気となったゴルダンを相手にどこまで戦えるのか。
次回もぜひお楽しみに!
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それでは、また次回お会いしましょう!




