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転生したら最強種だけどレベルが最弱でした。  作者: マッティー
第二章 広がる世界

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第二百二十七話 追跡

ついに掴んだ、あの男へと繋がる手掛かり。


一度は圧倒された相手との決着をつけるため、ユウトたちは動き出します。


それでは、第227話をお楽しみください!

「場所は分かった」


 ユウトのその一言で、部屋の空気が変わった。


「……本当なのか?」


 皇帝が寝台の上で身を起こす。


「はい。正確には、あいつが陛下へ干渉するために使った魔力を、逆に辿っただけですけど」


 ユウトは目の前に浮かぶ、補佐機構の解析結果へ視線を向けた。


 そこには魔力の流れだけでなく、距離や方角、そして発信源までが示されている。


「王都から、それほど遠くはないみたいです」


「場所は?」


「北西です。山岳地帯みたいですね」


「……北西か」


 皇帝の眉が僅かに寄った。


「何かあるんですか?」


「あの辺りには、ほとんど人が立ち入らぬ」


「人が?」


「ああ。険しい山々が連なっていて、道と呼べるものもほとんどない。その上、魔物も多い」


「なるほど……わざわざ人が行く理由がない、と」


「そういうことだ」


「……隠れるには都合がいいってわけか」


 ユウトは腕を組みながら、補佐機構が示す方角へ意識を向けた。


 王都から遠く離れているわけではない。それでいて、険しい地形と魔物の存在によって、普段はほとんど人が近付かない場所。


 皇帝へ魔力を送り込みながら、自分の身を隠す場所として考えれば、確かに都合がいい。


(……なるほどな)


 ユウトはシエルへ視線を向けた。


 どうやら彼女も、すでに同じことを考えていたらしい。


「……行こう」


「ええ」


 シエルの返事に迷いはなかった。


 しかし、二人が動き出そうとしたところで、皇帝が声を掛けた。


「待ってくれ」


「……?」


 振り返ると、皇帝は険しい表情を浮かべていた。


「相手は……余を長い間操っていた者なのだろう?」


「……おそらく」


「ならば、これは帝国の問題でもある」


 皇帝は寝台の上で姿勢を正し、真剣な眼差しをユウトへ向けた。


「兵を出そう」


「それは――」


 ユウトは言いかけて、口を閉じた。


 兵力が多い方が有利になる。普通に考えれば、一人でも多くの味方がいた方が戦力は増えるはずだ。


 だが、今回ばかりは事情が違っていた。


「……やめた方がいいわ」


「シエル?」


 先に答えたのはシエルだった。


 皇帝が彼女へ視線を向ける。


「何故だ?」


「あの男の力は、普通の兵士が束になってどうにかできるものではありません」


「…………」


 皇帝が黙り込む。


 しかし、シエルは表情を変えずに続けた。


「それどころか、戦闘になればこちらが守らなければならない人数が増えるだけです」


「……シエル」


 ユウトが小声で呼び掛ける。


「もうちょっと言い方ってものが……」


「事実でしょう?」


「……まあ、そうだけど」


 否定はできなかった。


 以前、地下遺跡であの男と対峙した時、相手は本気ですらなかった。


 それでもユウトたちはまともに戦うことさえできず、攻撃は通らないどころか、動きも力の底も何一つ掴めなかったのだ。


 そんな相手のところへ大勢の兵士を連れていけば、戦力になるより先に、守らなければならない対象が増える可能性の方が高い。


「……陛下」


 ユウトは改めて皇帝へ向き直った。


「俺たちに任せてもらえませんか?」


「しかし……」


「あいつには一度、負けてます」


 ユウトは一度だけ自分の手へ目を落とし、ゆっくりと拳を握った。


「だから、どれだけ危険な相手なのかも分かってるつもりです」


 怖くないわけではない。


 むしろ、一度対峙したからこそ怖いのだ。


 あの男の異常な強さも、こちらとの圧倒的な実力差も、嫌というほど思い知らされている。


「……でも」


 ユウトは顔を上げた。


「あの時とは違う」


 成体へ進化したことで魔力を操れるようになり、今まで使えなかった魔法も覚えた。


 シエルたちもまた、あれから立ち止まっていたわけではない。それぞれが自分に足りないものと向き合い、少しずつ力を磨いてきたのだ。


「今度は、俺たちがあいつを止めます」


「…………」


 皇帝は何も言わず、しばらくユウトを見つめていた。


 その眼差しには、まだ迷いが残っているようにも見えた。


 だが、ユウトの覚悟が変わらないことを悟ったのか、やがて静かに頷いた。


「……分かった。頼む」


 短い言葉だったが、その一言に込められた重さは十分に伝わってきた。


「はい」


 ユウトも力強く頷いた。


 ◇


 それから間もなく、ユウトたちは王城を後にした。


 北西の山岳地帯へ向かうのは、ユウト、シエル、シア、リトの四人だけだった。


 大軍も護衛もいない。


 共に行くのは、これまで何度も危険を乗り越え、互いの力を信頼してきた仲間たちだけだ。


「……いよいよっすね」


 歩きながら、シアがぽつりと呟いた。


「ああ」


 ユウトは前を見たまま頷く。


 すると、今度は隣を歩くリトが声を掛けてきた。


「……アニキ」


「ん?」


「怖くねぇのか?」


「怖いよ」


 即答だった。


「…………」


 リトが少しだけ目を丸くする。


「そこ即答なんだな」


「そりゃそうだろ。一回ボロ負けしてる相手だぞ?」


 あの圧倒的な力も、最後まで余裕を崩さなかった態度も、忘れられるはずがない。


 まるで、こちらを敵としてすら見ていないかのような振る舞いだった。


「むしろ、一回戦ったからこそ怖い」


 ユウトは苦笑しながら前を見る。


 遠くには、北西へ連なる山々が小さく見えていた。


「でも、行かなきゃ何も終わらないだろ」


「……だな」


 リトが口元を緩める。


「それにさ」


 ユウトも少しだけ笑った。


「勝つために修行したんだ」


 すると、シエルが横目でユウトを見る。


「まだ数日だけどね」


「そこ言う?」


「事実でしょう?」


「最近それ好きだな!」


 思わずツッコミを入れると、シアが噴き出した。


「でも主、前より全然強くなってるっすよ!」


「だろ?」


「調子に乗らない」


「……はい先生」


 シエルの即座の返答に、ユウトは素直に肩をすくめた。


 そんな短いやり取りが、張り詰めていた気持ちを少しだけ軽くしてくれる。


 今から向かう場所には、あの男がいるかもしれない。


 危険な相手だと分かっていても、こうして普段通りに言葉を交わせる仲間が傍にいることが、今のユウトには心強かった。


 補佐機構が示す魔力の痕跡は、目に見えるものではない。


 それでも、成体へ進化した今のユウトには、どこか遠くへ伸びる細い糸のようなものが確かに感じられていた。


 四人はその痕跡を辿るように、北西へ向かって歩き続けた。


 ◇


 王都を離れるにつれて、周囲の景色は少しずつ変わっていった。


 最初は人の行き交う街道が続いていたが、やがて民家が減り、道沿いに広がっていた畑も姿を消していく。


 気付けば、すれ違う旅人の姿さえ見えなくなっていた。


 その代わりに増えてきたのが、魔物の気配だった。


「……またいるっす」


 シアが前方へ視線を向ける。


 少し先の岩陰には、小型の魔物がこちらを警戒するように身を潜めていた。


 こちらの様子を窺ってはいるものの、積極的に襲い掛かってくる気配はない。


「放っておけ。向こうも仕掛ける気はなさそうだ」


 リトの言葉に、ユウトも頷いた。


「ああ。目的は魔物狩りじゃない」


 四人は岩陰の魔物を刺激しないよう、そのまま先へ進んだ。


 さらに奥へ向かうにつれて道は急速に険しくなり、やがて整備された街道そのものが途切れてしまった。


「……本当に何もないわね」


 シエルが周囲を見回す。


 目に入るのは、岩肌の露出した急斜面と切り立った崖ばかり。足元には大小の石が転がり、遠くからは姿の見えない魔物の鳴き声が響いてくる。


「皇帝が言ってた通りだな」


「こんなところ、普通は来ないわ」


「だろうな。隠れるには最高の場所だ」


 それだけでなく、人目を避けて何かを行う場所としても申し分ない。


 王都からそれほど離れていないにもかかわらず、自然の地形そのものが外部からの接近を妨げているのだ。


(……こんな場所にいたのか)


 ユウトは周囲の岩壁を見上げた。


 補佐機構が示す反応は、確実に近付いている。


 その時だった。


「…………」


 不意にユウトの足が止まった。


「……主?」


 シアが振り返る。


「どうしたっすか?」


「……いや」


 ユウトはゆっくりと顔を上げた。


「感じないか?」


「…………」


 少し遅れて、シエルも足を止めた。


 目を細めながら、周囲の空気を探るように意識を集中させる。


「……ええ」


 その声が僅かに低くなった。


「近いわね」


「ああ」


 ユウトにも分かっていた。


 周囲の空気が、明らかに変わっている。


 気温や匂いではない。もっと身体の内側、肌の奥を撫でられるような、何とも言えない不快な感覚だった。


 そして、その中に混じる僅かな異質な魔力。


 以前、地下遺跡で感じたものと同じ気配だった。


《追跡対象の魔力反応を確認》


《距離――近》


「…………」


 補佐機構の通知を確認したユウトの表情が引き締まる。


「……いる」


 その一言で、シアとリトの表情も変わった。


 ユウトが視線を向けた先には、巨大な岩壁が幾重にも連なっていた。


 そのうち二つの岩壁の隙間に、奥へと続く細い道が伸びている。


 周囲の岩肌に隠れるようなその道は、少し離れた場所からでは簡単に見つけられそうになかった。


 だが、そこからは間違いなく、あの男と同じ異質な魔力が感じられる。


「……ここだな」


 誰も軽口を叩かなかった。


 ユウトは細い道の奥を見つめながら、一歩前へ出る。


「行こう」


 返事はなかったが、必要もなかった。


 シエルがユウトの隣へ並び、シアとリトも黙ってその後へ続く。


 一度は何もできずに終わった。


 相手の力を測ることすらできず、ただ圧倒的な実力差を思い知らされた。


 しかし、今度は違う。


 逃げるためでもなければ、ただ様子を見るためでもない。四人は自分たちの意思で、ここまでやって来たのだ。


 あの男と、決着をつけるために。


「…………」


 ユウトは岩壁の奥へ広がる暗がりを見つめ、静かに一歩を踏み出した。


 その後に続くように、三人も歩き始める。四人は、自ら敵の待つ場所へと足を踏み入れた。

第227話を読んでいただきありがとうございます!


ついに居場所を突き止め、ユウトたちは自らあの男のもとへ。


一度その力を目の当たりにしているからこそ、怖さを知らないわけではありません。


それでも、あの時とは違う。


進化し、新たな力を手にし、修行を重ねてきたユウトたち。


果たして、その力はどこまで通用するのでしょうか。


いよいよ再戦の時が迫ります。


次回もぜひお楽しみに!


「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても励みになります!


それでは、また次回お会いしましょう!

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