第十二話 名前のない竜
第十二話です!
街編スタート。
そして銀髪少女の愛称が決まります。
「終わったぁぁぁ!!」
ユウトは頭を抱えていた。
街中の視線が痛い。
さっきチンピラを泡吹かせたせいで、完全に注目されてしまっている。
「どうすんだよこれ……」
「静かに歩けばいい」
「その静かにが難しいんだって!」
ユウトは半泣きだった。
しかも人化したばかりで、魔力制御もまだ下手だ。
ちょっと感情が動くだけで威圧が漏れる。
怖すぎる。
その時だった。
グゥゥゥゥ……。
「…………」
「…………」
「腹減った」
「さっきも聞いた」
少女は呆れたようにため息を吐く。
そして近くの屋台を指差した。
「……食べる?」
「食う!!」
即答だった。
◇
「うっっっっま!!」
ユウトは感動していた。
串焼き肉。
表面は香ばしく、中は肉汁たっぷり。
「異世界の飯うめぇぇぇ!!」
「大袈裟」
少女は静かに串を齧る。
食べ方が綺麗だった。
というか妙に上品だ。
「お前、絶対育ちいいだろ」
「?」
「なんかこう……食べ方とか」
「普通」
「いや絶対普通じゃない」
その時。
ユウトはふと気づいた。
「……そういや」
「?」
「お前の名前、まだ聞いてない」
少女の動きが止まる。
数秒の沈黙。
そして。
「……竜は簡単に真名を明かさない」
「真名?」
「魂みたいなものだから」
少女は淡々と続ける。
「竜にとって名前は特別。
簡単に他人へ教えるものじゃない」
「へぇ……」
ファンタジーっぽい。
いや実際ファンタジーなんだけど。
すると少女は視線を逸らした。
「だから、名前はない」
「いや不便だろ」
「別に」
「俺が困る」
「なんで?」
「呼びづらい」
少女は少し考え込み。
やがて小さく息を吐いた。
「……好きに呼べば」
「え、いいの?」
「真名じゃなければ」
ユウトは腕を組む。
「うーん……」
銀髪。
静かな雰囲気。
感情薄め。
でも、どこか空みたいに透き通っている。
「……シエル」
「?」
「なんとなくそんな感じ」
少女は少しだけ目を瞬かせた。
「……変な名前」
「嫌なら変えるけど」
すると。
少女――シエルは、小さく首を横に振った。
「……別に」
「じゃあシエルな」
「好きにしなさい」
素っ気ない返事だった。
だが。
ほんの少しだけ、口元が緩んでいる気がした。
「……お前、結構気に入ってるだろ」
「気のせい」
「絶対そうだって」
その時だった。
ブワッ――。
「うおっ!?」
突然、ユウトから黒い魔力が漏れた。
周囲の客たちがビクリと震える。
「また!?」
「感情動きすぎ」
シエルは呆れた顔をした。
「喜ぶと漏れるのね」
「犬みたいに言うな!!」
すると屋台の店主が、引きつった顔で追加の串焼きを差し出してきた。
「に、兄ちゃん……これサービスでいいから、落ち着いてくれ……」
「えっ」
ユウトは目を丸くする。
「俺そんな怖い!?」
店主はめちゃくちゃ頷いた。
「無意識で殺気出してるぞ……」
「マジかぁ……」
ユウトは頭を抱えた。
終焉竜、街で普通に暮らせる気がしない。
その時。
シエルがふと街の奥を見る。
「……あそこ」
「ん?」
「冒険者ギルド」
大きな建物だった。
武器を持った冒険者たちが出入りしている。
ユウトの目が輝いた。
「うおぉぉぉ!!
ギルドだ!!」
「声大きい」
「だってギルドだぞ!?
異世界のギルドだぞ!?」
テンションが抑えられない。
だが次の瞬間。
入口から出てきた大男とぶつかった。
ドンッ!!
「うおっ!?」
ユウトはよろける。
対して大男はピクリとも動かない。
「……あ?」
ガラの悪そうな冒険者だった。
筋肉もデカい。
怖い。
「す、すみません……」
ユウトは反射的に謝る。
すると大男は、じろりとユウトを見下ろした。
「ガキがうろちょろしてんじゃ――」
その瞬間。
ユウトの背後で、シエルの目がすぅっと細くなる。
空気が凍った。
「……ひっ」
大男の顔色が変わる。
数秒後。
「わ、悪かった!!」
全力で謝って逃げていった。
「えぇ……」
ユウトは困惑する。
するとシエルは何事もなかったように言った。
「行くわよ」
「……お前の方が怖くない?」
「気のせい」
絶対違った。
ユウトはそう確信した。
「シエル」誕生回でした。
でもまだ真名は秘密です。
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