第8話 義妹から届いた春宴の招待状
王都からの封書は、雪国の空気の中でも香りだけ浮いていた。
差出人はリディア。便箋は春花模様、封蝋は例の断絶分家紋。中には春宴への招待状と、いかにも親切そうな追伸が入っていた。
『お姉さまも遠くから学んだことを披露なさって? もちろん末席ならご用意できますわ』
私は鼻で笑った。わざわざ挑発を送ってくるのは、私が黙っていないと知っているからだ。
招待状の本文を読むと、さらに笑えなくなる。王族に準ずる席順で、リディアの名が伯爵令嬢として記されていた。しかも補注欄には『嫡流確認済み』の文字。
「確認済みですって」
私はヨナスへ紙を渡した。彼は一読し、すぐ机の引き出しから古い関門来賓録を取り出す。
「この分家筋、二十年前に断絶したはずだ」
「ええ。私の母が保管していた王都祝宴局の先例集にもある」
つまりリディアは、存在しない嫡流を名乗っている。その嘘が席順へ直接使われている。
私は春宴の席列を紙へ書き起こした。王族、上級大使、諸侯、嫡流貴族。そして私の名は、控え補佐席にもない。
「呼ぶ気はないのに送った」
「脅しだろう」とヨナス。
「ええ。『本物の令嬢』が王都で勝ったと見せつけたいのね」
けれど、招待状には小さな瑕疵があった。席位置を示す金線が一本だけ太い。これは王都祝宴局で貴賓席を二重販売した時に出る補正線と同じだ。つまり、その春宴でも、すでに席は足りていない。
「王都でも席を売っている」
「どういう意味だ」
「正式招待客以外へも、同じ席を割り当てているんです。そうでもしなければ、断絶分家の席をここまで膨らませられない」
私は招待状を裏返した。裏面番号は九十八。ところが春宴規模で九十八まで行くはずがない。水増ししている。
ヨナスは黙って新しい便箋を差し出した。
「返事を書くなら使え」
「書いてもいいんですか」
「北辺侯領の迎賓館監督補佐として出席を求める、と」
思わず顔を上げると、彼はいつもの無表情のままだった。
「君の席が要る」
その一言が、どんな挑発より胸に残った。私は新しい便箋へ、静かに返書を書き始めた。春宴へ行く。今度は末席ではなく、記録を持って。




