第7話 夜会厨房の搬入口名簿
席次帳だけでは、消えた客の顔までは見えない。
私は厨房裏の搬入口名簿へ目を付けた。正式客でない者ほど、正門より厨房裏から入りたがる。給仕に紛れ、荷と一緒に入れば、席札だけで卓へ座れるからだ。
名簿は煤けた板戸の脇に掛けられていた。粉袋、葡萄酒樽、魚箱。だが食材の間にときおり、人名ではなく記号だけの搬入記録がある。《青箱二》《銀札一》。食材ではない隠語だ。
「これを書いたのは?」
厨房長のオットーは顔をしかめた。
「前任の支配人だ。夜会用の特別荷だと言っていた」
「中身は」
「見ていない。見るなと言われた」
私は馬車到着記録と突き合わせた。《青箱二》の日には、王都東門から来た商人馬車が夜半に到着している。来賓録には名前がない。
「物ではなく人の合図です」
その夜、私はグレタとハインツに頼んで搬入口を見張った。雪混じりの風が強い。厨房の灯りだけが濁った黄色に揺れていた。
やがて小型馬車が一台、正門ではなく裏口へ回ってくる。御者は王都式の短帽。中から降りた男は給仕外套を被っていたが、靴だけが上質すぎた。
「銀札一」
オットーが小さく呟く。搬入口番が合図のように戸を開けた。
私はその男の袖口を見た。断絶分家の家紋刺繍。リディアが手紙へ同封してきた紋章と同じだ。
「止めて」
飛び出そうとした私を、ヨナスの腕が制した。
「今はまだ証拠が薄い」
「でも」
「顔を見た。紋も見た。次は記録で縛る」
低い声は、雪夜の空気より静かだった。私は息を整え、男が入っていった控室番号を帳面へ書き留める。七番。やはりそこだ。
翌朝、搬入口名簿の同じ行だけが切り取られていた。
「遅かったか」
「いいえ」
私は袖の刺繍図を昨夜のうちに写し取っていた。断絶分家の銀百合紋。それを使う人間が、王都と北辺で同じ席へ潜り込んでいる。
切り取られた名簿の跡は、むしろ答えだった。だれかが私の帳面を恐れ始めている。




