第5話 偽物の招待札
招待札の束は、見た目だけなら王宮製と区別がつかなかった。
厚手の乳白紙、金線、赤蝋。けれど指で撫でると繊維の柔らかさが違う。王宮祝宴局で使う紙は乾いた音がするのに、この札はわずかに湿り気を残している。
「紙商の違いです」
私は一枚を窓光へ透かした。透かし模様が王都東区の《アルト紙房》ではなく、社交贈答用の《ルクス商会》のものだった。見栄えはいいが、公用には使わない。
「そんなことでわかるのか」とグレタが目を丸くする。
「わかります。王都では公用札を贈答紙で作ると、礼法係が怒鳴りますから」
さらに蝋印。王家金雀紋に見えて、鳥の尾羽が一本多い。王都でリディアがよく気に入って使っていた、見栄え重視の模造印だ。
私は偽物札を机に並べ、原本の席次帳と照合した。偽札が使われた日の来賓録には、必ず『到着記録のみ、着席欄空白』の客がいる。しかもその日は厨房搬入名簿の酒量が増える。
「席に座った記録だけ消されている」
ヨナスが腕を組んだ。
「招かれていない相手を、正式客のように入れているわけだ」
「ええ。公用札に見える偽札なら門番も一瞬は通す」
私は札の裏面をめくった。角に極小の数字がある。祝宴局では席順管理のため裏へ通し番号を入れるが、この数字だけ桁が飛んでいた。三十二番の次が三十五番。三十三と三十四は意図的に抜かれている。
「欠番がある」
「何の数だ」
「王都で、あるいは別の席へ使われた数です」
そこへハインツが小走りで入ってきた。
「王都から使者便です」
封を切る前から香油の匂いでわかった。リディアだ。文面には、春季大祝宴の成功を知らせる挨拶とともに、こう書かれていた。
『北辺の粗末な卓でも、末席を磨く練習くらいにはなるでしょう?』
同封されていた小さな席札見本には、王家金雀紋ではなく、とある伯爵家の家紋が押されていた。私はその紋章を知っている。リーベル家嫡流のものではなく、四十年前に断絶した分家筋の紋だ。
「これだ」
「何が」
「『本物の令嬢』ごっこに使っている紋章です」
リディアは王都で、自分を『嫡流の血を引く娘』だと言い触らしていた。だからこそ私より前へ出られるのだと。
でも紋章は嘘をつけない。少なくとも、正しい帳面の上では。




