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第4話 凍える迎賓館の空席

翌朝、私は日の出前から迎賓館を歩き回った。


 大広間、北棟客室、馬車寄せ、厨房裏口。王都では卓だけを見ていればよかった。だが関門迎賓館では、席は建物全体の中に埋まっている。座る人が来るまでの足跡すべてが記録だ。


 まず北棟の貴賓室。帳面では二室しか使用していないはずなのに、暖炉の灰は四室ぶん新しい。窓辺の霜の付き方も、昨夜人がいた部屋だけ薄い。


「空席のはずでしたよね」


 私が尋ねると、迎賓館番頭のグレタは肩をすくめた。


「帳面では、ね。だが深夜に灯りがつく部屋はある」


「なぜ報告しなかったんです」


「報告しても前任者が消した」


 その前任者は今、王都へ戻っているという。都合が良すぎる。


 私は来賓録へ新しい付箋を挟み、部屋番号と灰量、毛布の湿りを順に書いていった。そこへ若い従者ハインツが、遠慮がちに声を掛けてくる。


「昨夜、使っていないはずの二番卓にも酒器が出ていました」


「下げたのは誰?」


「厨房長ですが、名簿には残していないと」


 厨房へ回ると、葡萄酒の空樽が三本転がっていた。帳面上の宿泊数なら一本で足りる量だ。しかも裏口の雪には、貴賓客用の細い靴跡ではなく、荷運び人の重い足跡が残っている。


「空席を装って人を通している」


 私は呟いた。ヨナスがすぐ隣で足を止める。


「密入国か」


「あるいは密談です。席に載せない相手を卓へ着けるには、最初から空席として処理するのが一番早い」


 彼は無言で頷き、私の手元の書付を覗き込んだ。背が高いので、影が帳面へ落ちる。


「必要なものは」


「過去一年の部屋鍵貸出簿。あと、椅子修繕台帳」


「椅子?」


「空席を作るなら椅子も減らすでしょう。どこへ持ち出したか痕跡があるはずです」


 昼過ぎに届いた修繕台帳には、案の定、四脚だけ『脚部破損のため倉庫入り』とある。だが倉庫には二脚しかなかった。残る二脚は、空席を演出するために別の卓へ移されていた。


 帳面で席を消し、椅子で数を合わせ、灰や酒器だけが本当の人数を知っている。


 私は久しぶりに、記録の端がぴたりと噛み合う感触を覚えた。王都では奪われた卓が、ここではまだ私の前に残っている。


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