表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/5

第2話 すり替えられた席次帳

呼び出されたのは祝宴局の審議室だった。


 長机には原本の席次帳、控え帳、招待状控えが並び、壁際には園芸でも財務でもない、礼法監査官まで立っている。ここまで揃えば、もう調査ではなく見せしめだった。


「北方大使席の誤配置は王家への不敬に当たる」


 礼法監査官が淡々と読み上げる。私は控え帳の当該頁を指差した。


「この行だけ墨色が違います。乾き方も遅い。昨夜のうちに書き換えられました」


「確認印は君のものだ」とゲルハルトが言う。


「偽造印です。縁の欠け方が逆」


 だが部屋の空気は、私の言葉を聞くためのものではなかった。局長はため息をつき、リディアの方だけをちらりと見た。


「今夜の大祝宴は予定通り行う。前面担当はリディア・リーベルが引き受ける」


「義妹はまだ控え名簿の作り方も知らないでしょう」


「そこはゲルハルトが支える」


 支える。庇う。差し替える。どの言葉も、私を卓から追い出すために使われる。


 私は原本の席次帳へ手を伸ばした。そこへリディアが先に指を置く。


「お姉さまにはしばらく休養が必要ですわ。最近は記録ばかり気にして、お顔まで硬くなってしまって」


「触らないで」


 思わず強い声になった。室内が静まる。けれど私は止まらなかった。


「この帳面がなければ、だれが席を入れ替えたのか証明できない」


「証明など不要だ」と局長が切り捨てる。「責任者は君だ」


 その瞬間、辞令が机へ滑らされた。雪峡の関門迎賓館。北辺侯領直轄の迎賓館で、空席管理と来賓録の立て直しを命じる臨時転属。


「左遷ですか」


「栄転と思えばいい。席順にうるさい君向きだ」


 笑いすら起きなかった。


「原本だけは持っていきます」


「認められん」


「なら控え帳の改ざんも有耶無耶にするつもりですね」


 局長の眉が跳ねた。私はそこで初めて、原本の一頁へ小さな裂け目があるのを見つけた。昨夜までなかった傷だ。誰かが急いで開き、別紙を差し込もうとした跡。


 局長はしばらく沈黙し、結局こう言った。


「原本は転属先の業務資料として携行を許可する。ただし王都への問い合わせは禁ずる」


 禁ずる、という言い回しが答えだった。王都へ触れられると困るのだ。


 退室際、ゲルハルトが低い声で言った。


「辺境へ行けば落ち着く。帰る席は残しておく」


「あなたの隣に?」


「控えの席なら」


 私は振り返らずに答えた。


「いりません。私が管理するのは、座らされる席ではなく、座るべき席です」


 その日の夕方、私は原本の席次帳と数枚の偽物席札だけを持って王都を出た。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ