第2話 すり替えられた席次帳
呼び出されたのは祝宴局の審議室だった。
長机には原本の席次帳、控え帳、招待状控えが並び、壁際には園芸でも財務でもない、礼法監査官まで立っている。ここまで揃えば、もう調査ではなく見せしめだった。
「北方大使席の誤配置は王家への不敬に当たる」
礼法監査官が淡々と読み上げる。私は控え帳の当該頁を指差した。
「この行だけ墨色が違います。乾き方も遅い。昨夜のうちに書き換えられました」
「確認印は君のものだ」とゲルハルトが言う。
「偽造印です。縁の欠け方が逆」
だが部屋の空気は、私の言葉を聞くためのものではなかった。局長はため息をつき、リディアの方だけをちらりと見た。
「今夜の大祝宴は予定通り行う。前面担当はリディア・リーベルが引き受ける」
「義妹はまだ控え名簿の作り方も知らないでしょう」
「そこはゲルハルトが支える」
支える。庇う。差し替える。どの言葉も、私を卓から追い出すために使われる。
私は原本の席次帳へ手を伸ばした。そこへリディアが先に指を置く。
「お姉さまにはしばらく休養が必要ですわ。最近は記録ばかり気にして、お顔まで硬くなってしまって」
「触らないで」
思わず強い声になった。室内が静まる。けれど私は止まらなかった。
「この帳面がなければ、だれが席を入れ替えたのか証明できない」
「証明など不要だ」と局長が切り捨てる。「責任者は君だ」
その瞬間、辞令が机へ滑らされた。雪峡の関門迎賓館。北辺侯領直轄の迎賓館で、空席管理と来賓録の立て直しを命じる臨時転属。
「左遷ですか」
「栄転と思えばいい。席順にうるさい君向きだ」
笑いすら起きなかった。
「原本だけは持っていきます」
「認められん」
「なら控え帳の改ざんも有耶無耶にするつもりですね」
局長の眉が跳ねた。私はそこで初めて、原本の一頁へ小さな裂け目があるのを見つけた。昨夜までなかった傷だ。誰かが急いで開き、別紙を差し込もうとした跡。
局長はしばらく沈黙し、結局こう言った。
「原本は転属先の業務資料として携行を許可する。ただし王都への問い合わせは禁ずる」
禁ずる、という言い回しが答えだった。王都へ触れられると困るのだ。
退室際、ゲルハルトが低い声で言った。
「辺境へ行けば落ち着く。帰る席は残しておく」
「あなたの隣に?」
「控えの席なら」
私は振り返らずに答えた。
「いりません。私が管理するのは、座らされる席ではなく、座るべき席です」
その日の夕方、私は原本の席次帳と数枚の偽物席札だけを持って王都を出た。




