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第16話 王都帰還の大祝宴

春宴の本番が始まった。


 王宮大広間は光で満ちている。金縁の卓、白布、花飾り。けれど私には、どこへ誰を流し込もうとしているのか、その隙間の方がよく見えた。


 私は北辺侯領迎賓館監督補佐として、正式に帳面を持って会場へ入った。局長は面白くなさそうだったが、ヨナスが同行している以上、追い出すことはできない。


「アニカ、持ち場は裏だ」とゲルハルトが言う。


「今夜の私は監督補佐です。裏階段も主卓も見ます」


 言い切ると、彼は舌打ちを飲み込んだ顔をした。


 開宴直前、七番控室へ《R・九八》札が運ばれる。私は遠巻きに追い、革帳面へ刻限を書き込んだ。控室から現れたのは、王都東区の商会主。しかも表玄関ではなく裏階段経由で大広間へ入る。


「やっぱり」


 王妃列脇の補助席へ、商会主の札が差し込まれる。同時にリディアも銀百合紋札を胸に下げて現れた。断絶分家嫡流を装い、王妃列近くへ立とうとしている。


 私はその場で、配膳係へ席札停止を指示した。


「何をする!」と局長が怒鳴る。


「裏導線から入った無記名客を、王妃列へ近づけるわけにはいきません」


「彼は正式代表だ」


「なら到着簿と前室通過記録を出してください」


 局長が詰まる。その隙に、ヨナスが商会主の前へ立った。


「北辺侯領の関門記録では、この男は先月も無記名客として入っている」


 会場がざわついた。私は畳み掛けるように革帳面を開き、裏名簿の写しを示す。


「席番号R・九八。北辺迎賓館でも春宴でも、同じ番号で席が売られています」


 商会主の顔がみるみる青ざめる。リディアはそれでも笑顔を崩さず、王妃列へ近づこうとした。私は彼女の胸の銀百合紋札を指差した。


「その家紋も偽物です」


 今夜の大祝宴は、ようやく本当の意味で始まった。


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