第17話 だれが王女の席へ座ったのか
ざわめきの中心で、リディアだけが不自然なくらい優雅だった。
「まあ、お姉さま。春宴を壊すつもり?」
「壊したのはあなたたちよ」
私は革帳面を開き、王妃列脇の補助席について説明した。本来そこは、急な王族代理や女性使節のための予備席。商会主が座る席ではない。
「しかも昨冬、同じ男が北辺迎賓館の七番控室から同じ番号で入っている」
礼法監査官が顔色を変える。予備席を売る行為は、単なる不正ではなく王家権威の私物化だ。
「証拠は?」
私は順に示した。北辺迎賓館の搬入口名簿、控室鍵貸出簿、欠頁復元表、裏名簿写し、そして今夜の到着時刻記録。ヨナスが無言で補足し、商会主の裏導線通過を証言する。
ゲルハルトはなおも食い下がった。
「席番の一致など偶然だ」
「なら、この紋章も偶然?」
私は本物の銀百合紋札と偽物席札を並べた。百合弁の角度、葉脈の数、外枠の欠き。遠目には同じでも、近くで見れば違う。王妃付き礼法係がそれを受け取り、静かに断じた。
「この偽紋を、嫡流席へ使うのは認められません」
リディアの笑みが初めて崩れた。
「でも、わたくしは母から――」
「王妃府通知番号を」
私が求めると、彼女は答えられない。代わりにゲルハルトが割って入った。
「必要なかった。春宴を整えるには、彼女の方がふさわしかった」
「見栄えのために?」
「王都ではそれが大事だ」
その言葉で、会場の空気が変わった。だれもが今、彼らの基準を聞いてしまったのだ。王家の席さえ、見栄えと金で売るのだと。
私は最後に、先例集の頁を開いた。
「王女席の予備席は、『血筋ではなく公務を守るために空け置く』と定められています。あなたたちはそれを売った」
商会主が膝から崩れ落ち、席代の支払いを認めた。裏名簿と照合すれば終わりだ。
だれが王女の席へ座ったのか。その答えは、王女でも令嬢でもなく、金を払った商人だった。
春宴の灯りの下で、ようやく席の嘘が姿を現した。




