第14話 雪夜の臨時晩餐会
春宴の本番を前に、予想外の雪が王都を襲った。
北から吹き下ろした寒気で街道馬車が遅れ、招待客の半数が到着できない。大広間は準備済みなのに、席の埋まり方がばらばらになる。こんな時こそ、席次帳官の真価が問われる。
「どうする」
祝宴局員たちが浮き足立つ中、私は即座に小宴会形式へ組み替えた。長卓一列ではなく、導線ごとに四卓へ分散。遅着客は北棟控室で温め、到着順に配膳を差し替える。
「そんな変更、前例が」と局長が言いかける。
「前例なら第三十二回冬季外交晩餐があります」
私は先例集の頁番号まで口にした。口を挟めなくなった局長の代わりに、ヨナスが短く命じる。
「その通りに」
吹雪の夜、臨時晩餐会は慌ただしく始まった。私は給仕動線と席札を見ながら、空いた卓へ遅着客を滑らせていく。王都式の見栄えではなく、誰も凍えさせず、だれにも無礼を働かないための配置だ。
途中、ワイン係が転びかけた時、ヨナスが一歩で支えた。彼は貴族席に座ったままではなく、普通に立って動いていた。
「侯が運ぶ必要は」
「今日は人手が足りない」
そのまま彼は、私の隣へ一枚の席札を置く。窓際の補助卓、しかし上座に近い位置だ。
「君の席だ。立ち続けるな」
「まだ終わっていません」
「食べながら指示すればいい」
私は一瞬ためらったが、座った。温かいスープの湯気が顔へ当たる。こんな慌ただしい夜に、ちゃんと私の席が残されていたことが、妙に沁みた。
晩餐会は無事に終わり、大使たちはむしろ『柔軟な対応だった』と喜んで帰った。局長は手柄を自分の顔へ貼りたそうにしていたが、今夜ばかりは周囲が見ている。
片付けの後、私は大広間へ残った灯りを数えていた。そこへヨナスが外套を掛けてくる。
「冷える」
「北辺の人に言われると効きますね」
「王都の夜の方が冷たい」
皮肉ではなく、ただの事実みたいに彼は言った。私は少しだけ笑う。
雪夜の臨時晩餐会で、私は思い出した。席次は人を並べるためだけじゃない。守るためにあるのだと。




