第13話 『本物の令嬢』の家紋席札
春宴の準備室で、私は家紋席札の箱を一つひとつ開けた。
王族列、諸侯列、大使列、嫡流貴族列。そこにリディアの名が、断絶分家銀百合紋付きで堂々と並んでいる。しかも同列には本来いないはずの商会代表席が補助札で差し込まれていた。
「また番号が飛んでる」
裏番号九十八、百二、百三。裏名簿の数字と一致する。
私は箱底へ手を入れ、古い席札台を探った。すると一枚だけ、先代の春宴で使われた本物の銀百合紋札が出てきた。見比べると違いは明白だった。リディア側の紋は百合弁の間隔が広く、断絶後に偽造された簡略図。古い先例集にしかない差だ。
「これで紋章の偽造は押さえられる」
そこへリディア本人が現れた。真珠色のドレスを揺らし、私の手の札へ目を細める。
「まだ帳面遊びをしているの?」
「これは遊びじゃないわ」
「でも、勝つのは美しい方でしょう?」
彼女は銀百合紋札を自分の胸へ当てた。
「わたくしこそ、本物の令嬢だもの」
「その紋章の通知番号を言って」
「……何ですの?」
「再認定されたなら王妃府通知があるはずよ」
リディアの睫毛がわずかに揺れた。だがすぐ笑ってごまかす。
「お姉さまは本当に堅苦しい。王都は書類より印象で回るの」
「だから崩れるのよ」
彼女は一歩近づき、囁くように言った。
「今夜が終われば、あなたの帳面は誰にも届かないわ」
脅しだ。けれど同時に、自分たちが追い詰められている証でもある。
彼女が去ったあと、私は箱の中身を並べ替え、本物と偽物の差異を革帳面へ細かく書き込んだ。百合弁の角度、葉脈数、外枠線の太さ。誰が見てもわかるように。
そこへヨナスが入ってくる。私は思わず札を隠しかけたが、彼はただ隣へ立った。
「見つかったか」
「ええ。本物の紋と、偽物の紋です」
彼は二枚を見比べ、静かに言う。
「遠目には同じだ」
「そう。でも席次は遠目で決めてはいけないんです」
ヨナスは私の帳面を閉じ、表紙へ手を置いた。
「なら今夜、近くで見せよう」
その言い方が、まるで私の言葉へ席を与えるみたいで、少しだけ息がしやすくなった。




