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第10話 二重に売られた貴賓席

春宴の前に、北辺迎賓館で小規模な通行税査察晩餐が開かれた。


 私はその席表を新しく引き直した。上席から末席まで、到着予定の馬車刻限と食事の供給順まで書き込む。王都に比べれば小さい晩餐だが、だからこそ崩れた時に犯人の癖が見えやすい。


 案の定、開宴直前に問題が起きた。二番卓上席へ同じ席札が二枚届いたのだ。片方は正規の税務監察官、もう片方は『北河運輸特別代表』と名乗る男。


「どういうことだ」


 税務監察官が顔をしかめる。私は二枚の札を並べた。一方は私の今朝の筆、もう一方は王都式の飾り書き。裏番号はどちらも《R・九八》。


「二重販売です」


 男は青ざめ、「王都から正規に案内を受けた」と言い張った。だが案内状の封蝋は偽物。紙も王都贈答紙だ。


「この席は正式招待客のものです。あなたが案内を受けたなら、案内した相手が席を売ったんでしょう」


「売っただと?」


「ええ。見えない席を」


 会場がざわつき始める。私はすぐ卓順を組み替え、空けておいた補助卓へ男を移すよう提案した。


「正式客を待たせないことが最優先です。補助卓で身元照合を行い、その結果で配膳を分けます」


 ヨナスが一言、「その通りに」と告げた途端、給仕も番頭もすぐ動いた。


 査察晩餐は大事なく終わったが、男の案内状からひとつ重要な名前が出た。《ルクス商会》経由で席代を払った、と。


 私は食後、控室で深く息を吐いた。もし王都の大祝宴で同じことが起きれば、外交問題になる。


「顔色が悪い」


 ヨナスが湯気の立つ茶を置いた。


「王都でこれをやられたんです」


「今日より酷い形で?」


「ええ。だから私だけが責任を負わされた」


 彼は少しだけ沈黙し、それから言った。


「今日は誰も君の責任にはしない」


 簡単な言葉なのに、喉の奥が熱くなった。私は茶杯を包むように持ち直す。


「春宴でも、必ず同じ番号が出ます」


「なら捕まえよう」


 北辺で二重に売られた貴賓席は、王都へ通じる証拠になった。今度こそ、席を奪う側ではなく、席を戻す側で立てる。


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