3.ギルドへ、そして初クエスト
ガラガラ。カタカタ。
再びRED STOCKへの道を進み始めたのは、イケメンバクダアバズレ馬鹿野郎が、シルバーアントを荷台に括りつけた後だった。
シルバーアントとわちゃわちゃとやっている内に、どうやらRED STOCKまで近づいていたようで、結局僕達3人は歩かされている。
因みに、イケメンの原型は既にない。
バクダの数が増えると、分裂数も増えるため、その分本体が歳をとるらしい。
不便な能力だな。
あ、人の事言えねぇわ。
「ねぇ、まだなの? 近いって言ったじゃん。嘘つき!」
「うるさいわね。静かに歩くこともできないの?」
「無理! 熱い! 汗でべとべとして気持ち悪い!」
「安心しなさい。あなたは元から気持ち悪いから」
「おい! 聞き捨てなんねぇなぁ! 元世界の――グファぁ」
思いっきりお尻を蹴られ、顔面から砂に突っ込む。口の中がグチャグチャになるのが分かる。不快オブ不快。ジャリジャリオブジャリジャリ。
「仲いいっすね、お二人」
「貴方、目が腐ってるようね。病院に行った方がいいわよ」
「くぅう~。姉貴の悪口効くぅぅう」
う~ん。楽しそうねぇ。僕は最低の気分ですよ。
マーライオンみてぇに砂が口から出て止まらぬのよ。
まぁでも、キレれないんだよね。
また異世界転生COしかけたからね。
むしろ感謝である。
「兄貴、鼻の穴から砂出てるっすよ――くっくく――スナバカバみてぇっす!」
チェボブにまで笑われる始末。
最低な気分である。
「え? バカにしてる?」
「してないっすよ! ――ククック」
出てる出てる。バカにしてる部分が仮面から出て収まらねぇなおい。
てか、スナバカバって何? どんなバカなカバなの? てか、生き物なの? ……お目にかかりたいわ……今なら仲良くなれそう。
「御三人。見えてきませたぜぇ」
しばらく歩き、砂が止まってきた頃に。老兵が小さい声でそう叫んだ。
唾に絡まった最後の砂を吐き捨て、前を向くと――
「――でけぇな」
「当たり前っすよ! 世界の中心なんすから!」
巨大な壁に囲まれた円形の街が見えてきた。
今まで見えなかったのが不思議なくらい巨大で、巨大すぎて輪郭がぼやけて見える。
「旦那方、どの門から入るつもりでい」
「門?」
「えぇ、RED STOCKは巨大な街ゆえに、門が3つ存在するんでさぁ」
「はへー……何で奇数なの? 円形なら偶数のがよくない?」
「そりゃ、旦那……街に入ってみりゃ、一目で分かる話で……それ以上は聞かんでくだせぇ」
「……あ、そう」
まぁ、別に興味ないし……。というか、何でその街に向かってるのかも分かってないし。それを聞く気もならんし。
「因みに、旦那方の素性にゃ興味ねぇが……あぶねぇ目にあいたくねぇんなら、歓楽街から入るのがいいですぜ」
「……その言い方だと、街の中は区分けされているってことかしら?」
「えぇ。門はそれぞれ、歓楽街・商店街・富裕層街に設置されてる――まぁ、旦那方の身なりなら、上2つが妥当でしょうな――お嬢さん以外は」
「……どういうことだよ」
「えー。兄貴、もう忘れたんすか? ドワーフは世界中からの嫌われ者で、そもそもあの村から出ることすら許されてねぇんですよ!」
僕はそれを聞いて立ち止まる。
すると、少し遅れてクロイとチェボブも立ち止まる。
「えっと…………え? もう一回だけ言ってもらっていい?」
「だーから! ドワーフは世界中からの腫物で、俺達は大犯罪者ってことですよ! 出て直ぐにも言ったすよ!」
マジかよ! 全然聞いて無かった! そんなのズルだ!
「ふーん……あ、そう――じゃ、帰ろうか」
「――逃がさないわよ」
「ねぇ、その持ち方いい加減やめない?」
僕が踵を返すと、首根っこを思い切り掴まれてまた、猫のように持ち上げられる。
「えーいいなぁ! 姉貴! 俺も! 俺も!」
何で羨ましそうにして跳ねてるの? 今の僕の顔見てその反応できるの凄いわ。初めてワイン飲んだ時くらい渋い顔してない?
しかし、クロイはそれを無視し。何なら足蹴にしつつ、街へと足を進め始める。
バクダに追いついた頃、老兵と目が合う。
「安心してくだせぇよ――――」
老兵が操縦席から飛び降りると、バクダが老兵に向かって飛び上がり、粘土みたいにうにょうにょと蠢きながら、一つの形を形成していく。
「俺も、特級の犯罪者なんだ……抜け道は知っている」
え? 今まで普通の旅だ冒険だとワクワクウキウキのノリノリだったのに。急に犯罪者2の天使1って、どんなパーティー構成だよ……世紀末じゃん…………世も末じゃん。
「うわっ」
絶望の中、下を向いてプラプラしていると、急に視界が真っ暗になる。それと同時に、自分の頭に何かが暖簾掛けになっているのに気がついた。
それを剥ぎ取ると、フード付きのアウターの様なものだった。
「それをやるから、着ておいた方がいい。俺も、巻き沿いを喰らうのは嫌だからな――少々暑いが、捕まるよりはましだろう」
「……えー。汗かきたくないんだけど」
「本当に我儘ばかりで気持ちが悪いわね、あなた――いいから着ていなさい」
「うぷっ――」
急に宙に投げられたと思ったら、次の瞬間にはアウターを着させられていた。
どんな技術だよとか思っている内に、また。顔から砂に着地した。
もう、嫌――。
このまま砂に埋もれてやろうか、って考えてると、突き出したお尻をツンツン――これは蹴りだな。うん、間違いない。
顔を砂から出し、立ち上がる。
「お前達、何者だ! それに、それは――シルバーアントか? まさか――」
――ボンッ! と音を立て、イケメンが消え、物凄い速さで街の中へと駆けて行った。
「えっと……その……なんだろ――――逃げよっか」
「えぇ、そうね……」
「うす! 兄貴!」
三人揃っての合わせ技が門番に襲い掛かる。初めてのコンビネーション、見事な連携の筈だったか、見事に躱されたので、そのままの勢いで街の中を疾走する。
バカだろ、見事に躱したからってドヤってんの。ラッキーラッキー。
今、猛烈ダッシュを決めた街が、一体どの区画なのかは分からないが、やけに人が多い。
すっごくお腹の空くいい匂いもしたし、花や、紅茶の匂いも多岐にわたって空気の中を漂っていた。
基本的な建物はレンガ製で、どれも2,3階はありそうな縦長な大きな家だった。
建物の壁を蔓が伝ってレンガ模様を隠し、街中には想像以上に緑が多く、とても住みやすそうな街に見えた。
だが、今現在。
僕が息を切らしているのは、その街を抜けた先にあった、コロッセオのような円形の建物の前だ。
通路はローマン・コンクリート製っぽい柱に無数に囲まれ、赤いカーペットが敷かれていて、見た目に反してとても清潔に感じる。床や天井は磨かれた石で出来ていて、歩きやすいし不快感がまるでない。
ただ――
「おーい! クロイ! チェボブ!」
……………。
「どこ行ったんだよ‼‼」
マージで人が多い。いや、多すぎる!
さっきまで隣にいたはずの2人の姿がまるで見えない。
てか、この体が小さすぎる! 周りはやけに重装備だったり、ムキムキな奴だったり毛むくじゃらだったりして、1m先すらまともに見えない。
「ぐぬぬぬうぬぬぬぬぬ」
それに困ったことに、僕は人混みが大の苦手で…………。
「あぁ、吐きそう」
行きかう人間だか獣人だかが容赦なくぶつかってくるし、腰に提げている剣に切り刻まれそうになるし……マジで最悪。
こういう時は、壁を伝って歩くのがとてもいい。
少なくとも壁側に人はいないし、好き好んで汚れた壁沿いを歩くやつも少ない。
新宿駅とか大阪駅とかは常にこうして歩いていた……まぁ、一回きりしか行ってないし二度と行きたくないけど。
「うげぇぇえ」
あぁ、マジでダメなヤツ、逝っちゃうやつだわ。
「あ! 兄貴ぃ‼‼」
そんな時、聞き覚えのある声が遠くから聞こえてくる。
有り得ないくらいごちゃごちゃして騒がしいのに、その声だけは確かに聴きとれる。
その瞬間、滅茶苦茶安心して、早鐘を打っていた心臓が落ち着いて来る。
チェボブの声で安心するって……どんだけ追い込まれてるんだ……。
下手したらシルバーアントの時より、危機を感じている。
あぁ……全員死なねぇかな。
てか爆破してやろうかな。だって爆破技師だし……事故ってことにならねぇか。
「あー良かったすよ! てか、凄い人混みすね!」
「……あぁ、うん……お前、元気ね」
「当たり前っすよ! 大人の話でしか聞いたことない場所にこれたんすから! 憧れの地ってやつすよ! アトランティス的な⁉」
「この世界にもアトランティスってあるんだ――うげえぇぇええぇ」
やっちゃった…………吐いちゃったよ。
そこから、この建物の内側に入るのは大変容易だった。
ゲーの匂いを漂わせた、小人がふらふら歩いてたら、僕だって避ける。
チェボブに関しては、目をキラキラ輝かせてあっちいったりこっち行ったり。
今は、中にあった酒場の様な場所で、ゆっくり落ち着くまで休んでいる。
テーブルの上に、チェボブが買って来てくれた水入りの小瓶が置いてある。
「結局、クロイはいなかったけど――」
なんて辺りを見回していると。目を細めるような光景が。
「だから、入らないって何度言ったら分かるの? 貴方達みたいな何の魅力も無い、只のガタイだけのガテン系パーティーに、私は見合わないの」
「そんなこと言わないでさぁ……姉ちゃん、そういえばぁ、職業は何なの?」
「まずはその頭の悪そうな話し方を止めることね。その低能っぷりだと、小さい緑色のブサイクですら付いてこないわよ?」
「ガハハハ! 姉ちゃん! そりゃもしかしてそりゃドワーフのことかぁ⁉ 俺たちゃあんな下等な種族を仲間にするこたぁねぇよ! ――姉ちゃんが、このパーティーに入らない確率くらいな!」
アホだねぇ……クロイの肩に腕なんか回したら――
「この汚い手をどけなさい」
クロイの声はドスが効いていて、既に限界を迎えているっぽい。
だが、アホはそんなことに気がついていないのか、気にしていないのか。クロイを更に引き寄せようとしている様に見える。
「なぁ、いいじゃねぇか。俺ら、強いぜぇ……なんせⅭ級ハンターだからな……俺達、世間に出回ってないようなクエストも任せられたことあるんだ。ある小人間を狙った……滅多にいねぇぜ。その辺の雑魚とはまるで違――」
クロイは男の手を上から握り、持ち上げる。
そのあまりの力にか、男は声も出ない様子だ。
「いいからこの手を――――」
「あぇ――」
「離しなさい!」
ドン! ガシャンンンン‼
いとも簡単に投げ飛ばされる男。
…………あーあ。やっちゃった。
手をパンパンと払うクロイが、塵煙の中から現れる。
2人いたアホの片方は、唖然と立ち尽くしていたが、ハッとして投げ飛ばされたアホの方へと駆け寄って行った。
ダメだ……見て無い振りしよ……周りの視線集めたくないし……仲間だと思われたくない……。お願い! もう少し迷ってて! なんならあっち行って!
僕はテーブルの上に置いた腕の中に顔を埋めようとした。のに――
「姉貴! コッチっすよ! コッチ! 兄貴がすげぇおもろかったんすよ!」
「馬鹿野郎!」
クロイに気を取られてチェボブが戻ってきていることに気がつかなかった――。頭をシバイて黙らせた時にはもう遅い。
「あら、そこに居たのね――」
クロイが歩いて来る。
周りの視線が、ついて来る。
それに恐れおののいていると、クロイはどこからか椅子を持って来て、同じテーブルに腰掛けた。
「教えてくれたっていいじゃない。冷たいわね」
「……………………………これは謝った方がいいの?」
「そうね、あと助けてくれなかったのはどういう了見なのかしら? 見ていたのよね?」
「僕がアイツらに勝てると思いますか?」
「デコイにはなるわよ」
「おい。もう怒る気力もねぇんだから煽ってくるな」
ダメだこの顔。煽ってくる気満々じゃん。ワクワクしてんじゃん……もう無視無視。
「あなた、人混みが苦手なのね」
「………………」
僕は腕に顔を埋めて寝たふりをする。
「あー……ぽいすよ。さっき思いっきりゲーしてたんで」
「え? ゲー?」
「そっすよ。なんか匂いません?」
スンスン。クロイが鼻を動かして息を吸う音が聞こえる。
「確かに酸っぱい匂いがするわね」
「あーあ、さっきの兄貴の背中見て欲しかったっすよ! ヨボヨボのじいちゃんより腰曲がってましたから!」
「ぷぷぷ、そうなの? それは惜しい事をしたわね」
「それに、ここに来るまでの道中とか、マジで――」
「えぇ、そうなの⁉ そんなことが――」
「うるさあぁぁあああああああああああああああああああああい」
ちょっと痺れてきた腕と一緒に顔を上げると――
「――おい、なんだ? お前は」
ぼやける視界の先にさっきのアホが映る。
顔は真っ赤で、禿げ頭からは湯気が立ち上っている。かなりキている様子だ。
「……あ、っと………………じゃ、そろそろお暇します、かね」
椅子の上に立ち上がると、頭が締め付けられるように痛む。
「逃がすかよ」
「ねぇ、貴方みたいなバカって本当にしつこいわね」
「あ?」
ギュゥウウゥ。あ、握られてんだ、これ。
フード越しなのに、頭を動かしてもズレてくれる気配もしない。
あと、煽るのやめてくれない? 痛い思いをするのは僕なんだよね。
「何よ」
「よくも恥かかせてくれたなぁ、クソアマ」
そのクソアマの頭握れよ。痛いんだよ。マジで、どんな馬鹿力なんだよ。
「俺を差し置いてこんなチビを選ぶとはな……とんだ屈辱だ……」
「あら、何処が屈辱なのかしら? この世の女性数億人に聞いても、その全てがこのおチビちゃんを選ぶと思うけれど?」
「あ?」
「貴方を選ばないのが常識ってことよ。アホに伝わる様に説明するのも一苦労ね」
「こ、の…………」
ギュギュウウウウギュウウ。
ねぇ、もみもみギュウギュウするのやめてもらえる? 飴と鞭みたいで気持ちが悪いんだけど。
飴のタイミングで抜け出せないかと顔を動かしてみるけど無理だった。
鳩とか鶏とかの首振りみたいになってた。
あー痛い。あーもう無理。限界。この野郎。舐め腐りやがって。
「僕はストレス解消グッズじゃねぇんだぞ。アバズレ」
「……………………」
「あ」
ヤベ。
「おい、てめぇ。今、何て言った?」
「いや、あの……」
僕は頭を握られたまま持ち上げられ、悪寒が走るようなキモ顔を目の前に持ってこられる。
目を逸らすけど、見つめられてるのが分かって痛い! あと鼻息が生暖かくてキモイ!
後ろで2人のクスクス声が聞こえる。
いいなぁ……僕もそっちがいい!
足と手をパタパタさせるけど、まるで意味がない。
「もういい。コイツをここで握りつぶして、おめぇにトラウマを植え付けてやるよ」
「…………」
「クロイさん⁉ 何か言ってあげてくれませんかねぇ⁉ この人は大切な人だからやめてぇ! ってさぁ!」
「………………今のは、ちょっと……」
「おーーい。クロイさぁん? 二つの意味で心が痛くなったわ!」
顔見えないけど、とんでもなく引きつってんだろ! どうせよぉ。
ギュゥウ。
男はマジでやる気だ。
握る力が強くなってきた。
「ちと汚れるが仕方ねぇよな……拘置されちまうが、仕方ねぇよなぁ!」
「いやー、もうちょっと考えた方がいと思いますよ? 自分の将来なんだから、大切にしないと。この一時の感情に任せて人生っていう大きな器を棒でフルスイング全溢しすることないすよー。よく見てください? あんま可愛くないっすよ、この女――」
「ほら、早くやりなさい」
あぁ、失言だったね。ごめんね。
「あぁ、言われなくても!」
「痛い痛い!」
「殺す気でやってんだ! 当たりめえだろ⁉」
あ、マジで死ぬ。
でも――タダでは死んでやらねぇ!
僕は咄嗟にテーブルの上にあった、小瓶を掴む。
そしてそのまま感情の勢いで――
ドッカーーーーーーーーーーン‼
目の前で巻き起こる爆風。
吹き飛んでいくアホの顔面――。
「キャアアァァアアアアアアアアアアアアアアア」
「何であなたが叫んでいるのよ。さ、逃げるわよ」
「いいぞ、兄貴ぃ! よっ! タダじゃ死なない男!」
「煽ってんな!」
お前本当にごんだたけしの舎弟さんですかねぇ⁉ ちっとも助けようとかしないじゃん!
「…………あのー。先程の騒ぎって」
「――あぁ、なんか爆発してましたね。あ、僕じゃないっすよ」
「いや、でも。黒焦げじゃ……」
「とりあえず、クエストでも受けてみようってことで来たんすけどー。生きるためにはやっぱお金が必要じゃないですかー。あ、僕じゃないっすよ」
「あ、クエストでしたら――」
「周り、やけに騒がしくないすか? なんか焦げ臭いしさぁ。いっつもこんななんですか? 止めようかな。今日は帰ろうかな。お姉さんこの辺の名物とか知ってます? あ、僕じゃないっすよ」
「いえ、ですから――」
「あ、そうそう。お姉さん美人ですよねぇ。遠くからでも目立ちましたもん。いい匂いするしー。化粧品とか、何使ってるんですか? あ、僕じゃな――」
トーーーーン。
後頭部に痛みを覚え、正気を取り戻す。
現在僕たちは、先程の酒場とは真逆に位置する、ギルド案内所を訪れている。
用意された高台に立ち、ようやく案内人の美人と目を合わすことができた。
僕とチェボブでクロイを挟んで、カウンターに寄りかかっている格好だ。
「魔王を倒すクエストはないかしら?」
「は、はい? 今、え? なん……ま、魔王?」
「えぇ、魔王よ。全ての元凶でしょう? 皆倒したいはずだから、クエストがあるんじゃないかしら?」
「いや……ない、ですよ?」
ピキっという音がクロイから聞こえてくる。
マズい、美女が。マズい。
「おい、無いって言ったら無いんだって」
「でも探していないじゃない。その気も無いんでしょう? 私たちが弱そうに見えるから? 確かにこの両隣はゴミ以下よ。でも私はてん――」
「ちょーっと待とうか。一旦冷静になれよ!」
コイツ、正体バラそうとしてなかった⁉ まぁ、天使とか言ったところで馬鹿にされて終わりだろうけど!
クロイは大きく息を吸って、深く吐く動作を何度か続けていた。
「てか、そもそもクエストって誰でも受けれるもんなんすかねぇ」
チェボブの質問に、受付のお姉さんは手を合わせて嬉しそうに目を輝かせた。
「そ、それではまず説明の方から入りますね!」
おぉ……可愛い。美女の満面の笑み。この世界に来て初めての癒し……。
「…………そのニヤニヤ、横から見ても不快なのね――ねぇ?」
「あ……あはは」
ほら! お姉さん困ってるでしょ! お前の目が怖いから!
「ちょっと……」
「えぇ⁉」
笑顔の裏には! ってやつ! 女の人っていっつもこれ!
「えぇ⁉ じゃないわよ。もう一度鏡を見てみる?」
「絶対見ない!」
「あら、そう」
「向けるな! やめろ!」
ムカつくからフードを深く被ってやった。これで完全勝利だ――
「おい! 引っ張るな!」
「あの! 話を進めたいんですけど!」
「「……………………」」
「恥ずかしっす。お二人」
そういやコイツずっと無言だったな……白い目で、見てたんかな。
喋るのやめた途端に周りの視線がチクチク痛いんだけど。
もう、フードと一体化したい。
僕はまだフードあるからいいけど、クロイは真っ赤なんだろうか。
あ、恥ずかしいとかいう感情無いか。
「とにかく! クエストを受けるなら、ギルドかクランに入るか、パーティーを組んでください!」
はぁ、はぁ、と。普段大声を出さないからか、息を切らしている。
うーん。えっちい。
「そう。じゃぁ、それに入るにはどうしたらいいのかしら」
受付の人はふぅと息を整え。
「はい!」と、軽快に話始める。
「ギルドは協会直属で運営されている、いわば公式の巨大な組織なんです」
「ふ~ん」
「で、クランは個人の組織で、クランマスターさんが運営されていて――」
「ほ~」
「パーティーはその辺で組んで、この紙に書いていただければ――」
急に適当だなおい。
「じゃ、それでいいわ」
「いいのかよ!」
「いいわよ。誰かの下についているなんて不快じゃない……どうせ私より無能でしょう?」
言うねぇ。でも、誰もお前の下には就きたくねぇだろ。
「あの、失礼ですけど――お三人はレクトル契約を済ませていますか?」
「レク――何なの? それは」
「あ」と、何かを察したような顔になる。
「レクトル契約は、ギルドにハンターとして名前を登録するもので――」
「それは必ずしないといけないのかしら?」
「おい、ちゃんと最後まで聞いてから――」
「ん」
ぺこり。「ごめんなさい」
「なっさけねぇー」
おい、聞こえてるぞ。
「いえ、契約されなくても、フリーのハンターとして活動は出来ますが――」
「ならいいわ。しないから」
「…………」
おい、困り顔じゃねぇか。ちょっと泣きそうだよ!
色んな感情の顔が見れて嬉しいけど。
「契約したら、メリットとかあるんですか?」
「はい!」
おぉ。声デカッ。めっちゃ嬉しそう。
「証明書が発行されるので、世界的な信用は勿論。それを見せるだけで、タダで治療を受ける事も出来ますし、ご宿泊も格安で提供されるんです!」
「へー。いいじゃん」
「はい! ハンターの殆どはご契約されていますよ! 最近だと、証明書が無いと受けれないクエストも多く存在致しますので、契約された方が――」
「はい。で? デメリットは何かしら?」
「……はい?」
「デメリットよ。そんなサービスが無料でなんて、虫が良すぎるでしょう」
「………………ギ、ギルドの制約に則って、ダンジョンレベルに規制がかかります」
「他には?」
「え?」
「他には?」
「……………………」
すげぇ圧だ。受付の人泣きそうだよ! てか受付の人は人でセールス下手過ぎない? でもまぁ相手が悪いか……僕なら笑顔で契約するけどね。
「協会の招集があれば、必ず来ていただきます」
「もう一つくらい、あるでしょう」
「………………クエスト報酬の3分の2をギルドに提供していただきます」
めっちゃ早口なのに、活舌が良くて声も通って文章が丁寧だから聞き取れたわ。
「論外ね」
「これは、僕でも入らない」
「ほぼ詐欺っすよ」
「…………………………………………」
三人から殴られて泣きそうだ。けど、命かけて戦って3分の2持っていかれるの、普通にブラック企業だろ。
「じゃ、ここに名前を書けば、とりあえずクエストには行けるってことね?」
「はい。そうです」
クロイが名前を――それに続いて、僕とチェボブの順で名前を書いた。
「はい。それでは、職業カードに記載されている『職業名』と『職業者ナンバー』をお名前のお隣の欄にお書きください」
「…………それは、無職の場合は無職と書けばいいのかしら?」
「む、無職? ですか?」
「えぇ。私、無職なのよ。ずっと親のすねをかじって来たボンボンの無職なの」
「えぇぇ……」
まぁ、困るよなぁ。無職、こんなとこ来ねぇよなぁ。
あと、金持ちの娘設定やめとけよ。一銭もねぇんだから。
「あ、えっと……多分、いいと思います」
多分って……。まぁ、パーティーだし、そこは曖昧でもいいのかな。
「そ、じゃ。あなた達は書いて」
「ういー」
「うっす!」
僕とチェボブは職業カードを取り出し、『職業名』と『職業者ナンバー』を書き写した。
こんなの書いてあったのか。免許証とかもだけど、よく見ないよね、あれ。
証明写真とか見たら頭抱えるわ。
「はい、ありがとうございます! えっと……チェボブ様は僧侶で、ごんだ様は……えっと……ば、爆破技師⁉」
「な、なんかおかしかったですか?」
「い、いえ……まだ、存在したんだ……爆破技師……」
「え? なんか、伝説の職業だったり?」
「いえ、単に不必要な職業なので皆さんなられないんですよ」
「あ、そう……」
なんか、別に僕が頑張って取った職業とかでは無いんだけど……辛いわ。ちょっとだけワクワクしたんだけどね。そりゃ、誰もならんわな。
「では、次に――」
「まだあるの?」
「おい。いいだろ」
「ん」
ぺこり。「「ごめんなさい」」
あ、受付の人と被った。
顔を上げた時に、少しだけ目が合った。
ドキドキ。
これが……恋?
「ごめんなさい。次で最後ですので」
「…………そうね。私が子供だったわ」
急に偉く正直……。怖いですよ。逆に。
「では、この――水晶に手を当ててください」
受付の人はカウンターの下から、少し濁った色の水晶玉を取り出した。
「うおー。綺麗っすね! 何すか? これ!」
「はい! これに手を当てていただくと、ご自身のランクが設定されるんです!」
「そのランクは、何かに影響を及ぼすの?」
「はい、えっと……く、クエストの受けれる範囲が、変わってきます……」
「さっきと話が違うじゃない」
「…………あの、やはりご紹介するのがこちらのギルドになりますので……直接の受注でしたら、話は別なのですが……」
ほら! クロイの質問に答える時だけ怯えた子猫みたいになってるじゃん!
「もしかして、パーティー内の最低ランクのクエストしか受けれないとか?」
「いえ、むしろその逆ですね。最高ランクの1つ下のクエストまで受けることができます」
ふーん。
「でも、それじゃ必然的に最高ランクのクエストは受けれないってことですよね」
「そうですね。というより……基本Aランク以上のクエストはギルドやクランが対応することになっているので――」
「それは困るわ」
「別にいいじゃん。魔王のクエストなんてねぇんだって」
「でも、探してないじゃない。いい? 私達、舐められているのよ」
「…………………………………………」
もう反応もしてくれねぇよ! 俯いて無言だよ! 恥ずかしいよ、お兄ちゃん。
「じゃ、俺から行くっすよ!」
そういうなり、チェボブは引き寄せた水晶に手を当てた。
すると不思議な事に。水晶玉は淡く点滅し始めた。
白、青、緑、黄、橙、赤、桃、銀、金、黒の順番だ。
そして――。
「あ! 俺、黄色っす! これはランクで言ったら何すか⁉」
「黄色……は、Dですね!」
「え……」
「Dです!」
「D、っすか……」
え? 何で落ち込んでるの? Dって別に良くない? Zから数えたら上の方じゃん。
「因みに、ランクは何から何まであるの?」
「あ、はい。え~、と。G~SSSまでですね」
「じゃぁ、下の方か」
「え? 兄貴、それ言っちゃうんすか? ねぇ」
「え……」
「兄貴のが楽しみっすよ」
怖い。何、その目……。
「じゃ、次は私ね」
確か、職業カードの職業名にモザイクが掛かってたんだっけ。
能力がチート級だからなあ。嫌な予感がする。
「――――えぇっと……えっと、えええええ?」
「……黒ね」
「クロイだけにな」
「ん」
ぺこり。「「ごめんなさい」」
え? これに関しては何で受付の人も謝ってるの?
「クロイ、さん? 本当に、無職の方、ですよね?」
「えぇ、そうよ。どうしようもない、出来損ないの、就職浪人の、甘えんぼの、マザコンの、只の金持ちの娘よ」
「おい」
嘘なのか冗談なのか分からん要素が盛り盛り過ぎだろ。
「そ、う。なんでうね」
もう、噛んじゃってるよ。
「因みに、ランクで言ったら何になるんですか?」
「え、SSSです。私、初めて見ました…………す、少し、お待ちください――」
ガタっと椅子を鳴らしながら勢いよく立ち上がり、受付の人はどこかに行ってしまった。
「……ねぇ、なんか面倒な事になりそうだと思わない?」
「思うねぇ。めっちゃ思う」
「姉貴! マジで、ッベすよ! SS――」
「少し静かにしていなさい」
クロイはチェボブを黙らせる。水晶を見ても、黒色だった気配を残していない。
「じゃぁこうしましょう。私はしれっと帰るから、あなたたちは二人でしっかりと良いクエストを受けてきて」
「え、でも――」
「いいわね。魔王に繋がるような、有意義なクエストを受けなさいよ」
「いや、だから――」
「いいわね?」
「はい。任せてください」
「よろしい」
もう有無言わせぬ感じが出来上がってるわけ。従うしかないのよね。
クロイは満足げに立ち去って行った。
てか、また探さないといけなくなった訳だけど。集合場所とか決めとかないときつくない? 一回野外フェスで迷子になった時、スマホあっても集合きつかったんだけど。
ま、いっか。たいてい何とかなる。
「兄貴って、マジで姉貴に勝てんすよね」
「うーん……じゃぁ、逆の立場だったらどう?」
「まぁ、無理っすよね。従うしかないすよ。ほぼ奴隷でしょ」
「ね? 答え出てんじゃん」
「兄貴は頑張ってる方っす」
うーん。嬉しくないんだなぁ。
異世界に来てまで誰かの奴隷なの、本当に僕の人生って感じがして、いい!
「あ、そうだ! 兄貴のランク見てみましょうよ!」
「いや、色が分かってもランク分かんないじゃん」
「あれ、兄貴気付いて無かったんすか?」
「……何に」
「よっ」
と言ってチェボブはカウンターに乗り上げ、その下を漁り始めた。
「あの人、カンニングしてたんすよ――ほら!」
確かに、チェボブの手に握られた紙。
それには、とっても分かり易く、色とランクが紐づけられて書いてあった。
「さ、やってみてくださいよ!」
「うーん」気が乗らんなぁ。
もう大体察してるんだよ。だって爆破技師だよ? 聞いたことねぇよ。色んなRPGやって来たけど、見た事ねェもん。だって、やれてメガンテでしょ? 無能じゃん。アバン先生も見捨てるレベルだよ。ため息止まんねぇよ。ノイローゼなるよ……。やめてよ、師匠。
「ま、いいか……どのみちやらんといかんし」
「そっすよ!」
「よし」と、自分を勢いづけて水晶に触れる。
水晶は、少し暖かかった。
白、青、緑、黄、橙、赤、桃、銀、金、黒……。
そういえば、クロイの時はこうやって点滅しなかったな。いいな、なんか。特別感あって。
僕はと言えば白、青、緑、黄、橙、赤、桃、銀、金、黒。白、青、緑、黄、橙、赤、桃、銀、金、黒。白、青、緑、黄、橙、赤、桃、銀、金、黒。白、青、緑、黄、橙、赤、桃、銀、金、黒――――――。
「……長くね?」
「長いっす……兄貴、壊しました?」
「えぇ? 触れただけで?」
「はい」
「そんな訳なかろう」
試しに手を放してみる。が、白、青、緑、黄、橙、赤、桃、銀、金、黒と点滅し続ける。
「……マジで壊れてんじゃん」
「あーあ。やっちゃった!」
「これ、弁償になんのかな」
「ったり前でしょ! 何してんすかぁ!」
「え? お前って敵? 今ここで殺すよ?」
「あーあ! 言っちゃったねぇ。本性現しちゃったねぇ!」
「んだ、てめぇ!」
「ちょいちょい、お二人さん――」
目の前でチェボブが宙づりになったと思ったら、僕も宙に浮いていた。
まーたこれだよ。人を猫みたいに――。
「おい、外行ったんじゃなかったんか――」
「それは、SSSランクの少女のことかね?」
「ん? うおっ! 誰だ、ですか! おじいさん!」
「ほほほっ。実に反応の面白い――――ドワーフじゃな」
ブルルル! 身震いしちゃった……耳元で囁かんでよ……。
てか、ドワーフなのバレちゃってる。何もんだ……このおじ。
「さて、わしが用のあるのはSSSランクの少女なのじゃが――見た所、君はDで君は…………やめておこうかの」
「なーんでだ! 言えよ!」
「いやぁ。この歳になると、若者が傷ついとる姿は心に――」
「もうそれが答えだろ! どうせFランクくらいなんだろ!」
「それはよく言いすぎじゃの。Gランクじゃよ」
「ガーン!」
「ぷぷぽぷ! ガーンて口に出ちゃってるっす……。兄貴! 俺以下っすね‼‼」
「……」
もう返す元気ねぇわ……いいことねぇ~。
異世界転生した奴って軒並み強いのに。ナニコレ……ことごとく負け犬なの、笑いも出ないわ。
「ま、安心するがよい。ランクなんてのは指標にすぎんのじゃから……本当の実力は、誰しも秘めておるものなのじゃ……ひょっとしたら、誰かが危機に陥った時に、力を発揮するかもしれんぞ?」
な、何それ……主人公っぽいやんけ……。
わくわく!
「ところで、おぬしの職業はなんなのじゃ?」
「爆破技師です」
「あ…………」
え?
「そうか、まぁ。頑張れ、若者」
「おい! 爆破技師、馬鹿にすんなよ……」
尻すぼみの声は……口の1cm先で空気に溶けて消えていく。
いや、爆破技師馬鹿にされ過ぎだろ……嫌いだったのに、ちょっとだけ好きになってきたわ……僕に似てんだよ。
「それで、じいさん何もんなの? 姉貴に、何の用があんの?」
ちゃんと俺に話し通せよ、みたいな感じでガンつけてるけど、お前舎弟でもなんでもないだろ。てかさ、今思えば何でクロイは姉貴呼びされるのに抵抗無いの? ひょっとして、認めてるの? マジ?
「わしゃ、ここRED SOTCKのギルドマスターじゃよ」
「へー……じゃ、強いの? じいさん」
「……あぁ。強いぞ?」
「ふ~ん。そうは見えねぇけど?」
「ふぉっほ。やってみるかの?」
「ちょーーーっと待った! 落ち着いてくださいマスター! また脳震盪で倒れますよ!」
「ほほ。そうじゃな。それに、かわいこちゃんの前で、暴力は揮えんしの――っと」
「きゃっ! 変態!」
パシンッ! と、目の前でおじいさんが吹き飛んでいく。
「ふぉっほぉ! いいビンタじゃ!」ってめっちゃ嬉しそうに。
お尻はいかんでしょ……お尻は………………いいなぁ。
「……本当に強いんすかね。あのじいさん」
「知らねぇよ……」
マジ、何の茶番を見せられてるの? これ。
何で最強のギルドマスターが目の前で女の人に踏みつぶされる姿を見なきゃならないの? あぁ~。ギルドとか入んなくてよかったわ。こんなのが上司とか、恥ずかしくてたまらんね。
「そういえば――おぬしらは――ギルドにも――クランにも――入らんそうじゃなぁん――」
踏まれながらの最強ギルドマスターが、顔を真っ赤にそう聞いて来る。
僕もチェボブも、答えてあげない。
「パーティーだけだと――結構厳しいぞぃ――敵しかいないフィールドで――支援も無しとは――今のわしでも――考えれんわい――あぁあああああぁん!」
「喘ぐのやめろ!」
「さしものSSSランクのお嬢ちゃんでも――泣くことになるぞい?」
クロイが泣く所を想像してみる。
「あのお嬢ちゃんとはどういう関係か知らんが、少しでも身を案じておるのなら――何じゃその顔は?」
「うわ~……兄貴、顔、やべぇ~」
「ぐ、ぐふふふふ――」
「こ、こやつ……ただならぬ才能を……⁉」
「ダメ人間なだけっしょ……いいから兄貴、クエスト受けて戻りましょうよ」
「ぐ、ぐふ――ぐふふ」
「あーダメだこの人。終わってる――あの、何でもいいんでクエスト貰っていいすか⁉ 恥ずかしんでもう帰るっす!」
「グフ、ファググ――――」
「ふ~ん。で、なに? このクエストは」
「あ、あの」
「ん」
ぺこり。「ごめんなさい」」
僕たちは今。商店街の真ん中にある噴水公園にて、クロイの前で跪いている。
「あの――」
「ん」
クロイの目は反論を許さない、like a 神の目だ。
「いい? 読み上げるからよく聞きなさい」
「「はい」」
「『クエスト№・100733 修理のための部品 Y端子ケーブル、雄ネジ、はんだをありったけと赤い花の束を持って来てほしい』…………」
「え? それだけ?」
「…………後に書いてあるのは蛇足ね――で、今のを聞いてどう思ったの?」
「それで金が貰えるならいんじゃないすか?」
「ねぇ。人助けにもなってる、し――」
何だろう。さっきからクロイさんがメラメラと燃えてる様に見えるんだよね。
ずっと命の危機感じるんだよ。
「いい? 私たちの目標は何かしら――はい」
「えー……普通の暮らし――魔王を殺すことです」
「そうね? じゃ、このクエストはその目標に繋がると思う?」
「えー……まぁ、その依頼者が魔王の親戚だったr――無いですね。はい」
チェボブが僕の腹を小突いて「余計な事言わんといてください!」って呟いてきた。
そうだね。これ以上言い訳したら、本当に命がない。
そん時はチェボブ置いて逃げよう。フィジカルエリートだし、少しくらいは餌になりそう。
「まさか、俺を囮にして逃げようとか考えてないすよね!」
「んんん⁉ まっっさかぁあ! てか顔動かすな! めっちゃ見られてるから!」
「兄貴の声がデカいんすよ!」
「黙りなさい」
ぺこり。「「ごめんなさい」」
「ま、いいわ……初日だし、少しの周り道くらいは許してあげる」
「というか、何でそんなに急いでるんすか?」
「――それは」
チェボブの質問に、クロイの頬がピクっと動く。
……コイツ、自分が天使なの言えないんだよなぁ。
どうするんだろ、って思っていると。凄い眼光が僕を貫いて来る。
いやいや……え? 僕なの? ここで?
「………………コイツ、心に爆弾抱えてんだよ……」
「え? 爆弾?」
「うん。そう、時限式のね」
「な、なんの爆弾が⁉ まさか――」
「あぁ、命握られてんだ」
「えぇ⁉ あ、姉貴ぃいい!」
え⁉ 号泣するの⁉
「ちょ、っと――ん!」
ぺこり。「ごめんなさい」
「ねぇ、なんなの? さっきのウソは」
「いいじゃん、あの場は乗り切れたんだし」
商店街の人混みをかき分けながら、クエストの納品アイテムを探す。
……僕はいつものように猫みたいに持ち上げられてる訳だけど……もう、慣れたよね。
そうやってキョロキョロ辺りを見回しながら歩いていると。急に魔界にでも足を踏み入れたのかってくらい空気が重くなり、太陽の日差しも避けるような場所に入り込んだ。
けど、大して気にならないし、むしろ人が減って居心地がいい。
「そういやさ、お金も無いのにどうやって買うつもりでいます?」
「……はぁ……そうね。でも、心に爆弾を抱えたままじゃ、考えられないわね」
「もうその設定良くない? アイツも忘れてる、って――」
足元で泣いてら……ついさっきまで泣き止んでたのに……。しばらく忘れねぇな、これ。
「――あ、ここは? 『鉄血屋』ってさ。部品系あるんじゃない?」
「異質で陰気臭いお店ね」
「言い方……」
まぁ、一理ある。
ヨーロッパ風の街並みの中に、急に金属張の建屋が現れ、それに凄く金属臭い。
ついさっきまで、街並みって感じの匂いとかしてたのに……。
「俺、見てきますよ!」
チェボブがそう叫んだので、下を向くと。
さっきまでが嘘のようにケロッとして、手を高々に掲げてピョンピョン跳ねていた。
クロイの為にってなると直ぐこれ。惚れてんの? やめとけって。
「そ。じゃぁ頼むわ」
「うす!」
威勢よくチェボブは『鉄血屋』に入って行ったが、僅か数秒後――
「うわぁああぁぁぁぁあ!」という叫び声が――。
「……あなた、見てきなさいよ」
「ヤダ――よぉお!!」
アイツ! 有無を言わさず『鉄血屋』の暗闇に向かって、僕を投げやがった!
「ネットに上げたら炎上するんだからな!」なんて叫びも、空を裂く音にかき消される。
直後――
「だっ!」
鈍い音を立て、何か硬い物にぶつかった。
ズルズル、キーっと音を立てながらずり落ち、お尻が地面に着地する。
この店内、マジで金属だけで出来てやがる。
「兄貴ぃい! 助けてくださいっすぅうう!」
「えっ――と?」
混乱する中聞こえた悲鳴。目を開けると、ゴツゴツした足が――厚いズボン、革のエプロンの裾が――。
……何で、裸足なの?
「おい、ガキ。盗みでも働きに来たんかぁ?」
「え?」
低く、圧し掛かるようなしゃがれ声が、頭頂部に乗っかかる。
恐る恐る、顔を上げ――
「ギャァアァァぁぁ――」
「うるさいわね」
トンッ! と後頭部を蹴られる。
「ッでぇな! ――それより!」
「何を怯えているのよ」
「だって、スキンヘッドの、怖い人が!」
いや、怖すぎる! デカいし! いや、僕が小さいだけか。
僕も、目の前に落下したチェボブも、クロイの足に巻き付く。
「何だ、嬢ちゃん…コイツらの保護者かぁ?」
「ふんっ。違うわよ……これ、欲しいのだけれど」
「ん? あ――そうか……」
『鉄血屋』の店長? はクエストの巻紙を読みながら、意味深な声を漏らす。
「少し待ってろ――」
そう言って、店長はバックヤードの闇へと消えていく。
「……いつまでそうしているつもり?」
「いや、だって姉貴ぃ!」
「こえぇよ! 何あれ⁉ 物凄い圧だったよ⁉ 何回もしのぎを削ってきた貫禄だったよ! お前ら気を付けろ! 隙を見せたら――」
「お前、ドワーフだな?」
「「うぎゃぁああぁぁ!」」
何でその体躯でステルス性能高いんだよ! 全く気がつかなかった!
「……珍しいな。こんな世界になる前、俺にも伝説の鍛冶屋と呼ばれたドワーフの師匠が居た――」
へ~。とはならんよ⁉ その顔、怖いって! ゴーグルが透けて、凄みのある目が見えちゃってるって!
「その人は、村の案内人になると言って出て行った――」
「えぇ⁉」
まさか、な。急な親近感だったけど、そんな訳無い。
あの扱いを受けてた人が伝説なら、その辺のフナ虫ですら伝説だ。
「丁度その時にドワーフの迫害が始まってな……再開も果たせぬまま、俺は引退した」
「…………」
「ま、関係のない話だ――」
目の前から、怖い人が消えた。
チェボブと目を合わせ、ホッと一息つく。
「さ、嬢ちゃん。これが納品の品だ。それと――これを渡しておいてくれ」
「……これは?」
「ま、隠す必要も無いから言うが……その依頼を出した奴と俺は顔見知りだ」
「ふーん。そうなの」
興味なさそぉ~。ちょっとくらい人の話に関心持てよ。
「じゃ、もう行くから。助かったわ」
「あぁ、また来てくれ」
「で――あなた達は、いつまでそうしているつもり?」
「いやぁ――」
「姉貴の脚、いっすねぇ兄貴」
言うな言うな。思っても声に出すな。声色も気色悪くなってるから気づいて。
まぁでも。これが、役得って奴か……小さいドワーフに生まれ変わって、良かったのかもしれない。
見上げれば、それこそパンティだって――。
「ごめんなさい。それ、貸してもらえるかしら」
「んあ? あぁ――」
「ふんっ」
ストン――ストン! ゴン――ゴン!
二つの軽い音が、金属の空間に反響し……そっからの記憶が全くない。
真っ暗な視界の中で、ゆっさゆっさと自分の体が上下に動いているのが分かる。
「――兄貴。いい加減起きてくださいよぉ!」
耳元で声が聞こえる……これは、チェボブのものだ……。
でも、グラグラ、ゆらゆらと目が回り、脳が揺れ、体に力が入らない。
最後の記憶は、暖かい棒きれのような……あ、クロイの脚か――
「っで!」
後頭部に衝撃が――一気に思考が冴えてくる。
と同時に首がキュッと閉まる。
「どう? 目が覚めたかしら?」
「うん! 余分にね!」
「キーキー耳元で大声を出さないで」
クロイが手を離したが、僕は華麗に地面に着地。そして――違和感に気がついた。
「あれ、リュックサックしらね?」
「あぁ、兄貴――」
「盗まれたわよ」
「えぇ⁉」
何で平然としてるの⁉ この人たち!
「兄貴を引きずってる時に、ちょこちょこっと」
「あれは華麗だったわ」
色々衝撃だわ!
「警察は⁉ ちゃんと通報したの⁉」
「この世界に居ると思う? そんなの」
「兄貴、けいさつってなんすか⁉」
あぁ、だめだ。コイツら話にならん。
「僕の持ち物どうするの⁉ 職業カードとかパーティボードとか諸々入ってたんだけど!」
「それに、納品する必要のある物もね、手紙も」
「やっばいじゃん!」
「そうね、やっばいわよ?」
「兄貴、やっっっばいっす!」
「じゃあもっと――」
「焦っても仕方ないでしょう。起きてしまったことなんだから」
「うんまぁそうなんだけど!」
……何だろう。僕より楽観的なヤツ、初めて見たわ……。日本じゃ有り得ないな。
「で、今は何してるの?」
改めて周りを見てみると、『鉄血屋』の周りとは打って変わって、人がごった返している商店街の街中だった。
パンの匂いが、コーヒーの匂いが、幸せな人々の声が、優しく暖かい風に乗り、鼻腔の中を、全身を撫でて通り過ぎていく。
「今は赤い花を探してるんすよ」
「金、無いけど?」
「安心しなさい。あなたたちがいるじゃない」
「何を安心すればいいの?」
「俺、何でもしますよ!」
「良い意気込みね。見習いなさい」
え? 盗みとかさせようとしてる? 無理だよ? 逃げ足遅いし。絶対躓くし。
「まぁ、ならいいんだけど」
良くないけどね? めんどいしいいや。それよりも――。
「花屋を見つけん事にはなぁ――」
「ほら、あそこにあるわよ」
「え?」
「どこすか? 姉貴」
「ほら、あそこよ。あそこ」
「見えねぇよ」
「あら、どうして?」
「……あれ? え? 低身長バカにしてる?」
「あら、そういえばおチビちゃんだったわね」
上から目線で偉そうに! ちょっとありだわ。
だけど好き勝手言われて、タダで黙っている僕でもない。
「よし、覚悟しろよ」
「え?」
クロイが反応するよりも早く。僕はクロイの脚にしがみついた。
そして――木をよじ登るみたいに――どちらかと言うと壁を伝うゴキブリみたいに――高速移動でクロイの肩に辿り着く。
道中、何度か頬をすりすりしといたが、バレていないでしょう。きっと。
「さっすが兄貴! 俺にはそんな恥ずかしい事出来ねぇや!」
「え? 褒めてんのそれ」
「…………あなたって最早、人間でもドワーフでもないのね」
クロイの方を向くと、頬を染め、体を震わして怒っている様子だった。が、流石のクロイもこの人混みの中で怒る気にはなれないのか、怒鳴ってきたり暴力を振るってくることは無い。
ふーん。あ、そう。
だったら折角という事で。耳に息を吹きかけて――
「ひゃっ――――あ」
「え?」
「…………え?」
何だ、今の可愛い乙女の悲鳴は……。
2人は見つめ合う。
クロイの瞳に、マヌケ顔の僕が映っている。そしてそれが、瞳の中でメラメラと燃え上がるのを見た。
「ねぇ。今の行いは愚かしいと、自分でも思わないかしら?」
「えっと……あの…………はい」
「そうよね。じゃ、これから何をすればいいか、分かるかしら?」
「あ~……何だ……えっと……え?」
ここにきて鉄拳制裁とかではなく、普通に叱ってくるんだけど……投げられるの、期待しての愚行だったんだけど。
「そうね。あの赤い花と自分自身とを物々交換するのよね。早く行って来なさい」
「行かないよ⁉ 釣り合ってないじゃん!」
「あぁ、そうね――」
「言わせねぇよ⁉」
どうせ僕の方が価値が低いって言おうとしたんだろ!
「お前、暴力振るってた方が可愛げあるな」
「あら、じゃあその醜い顔の凹凸が無くなるくらいボッコボコにしてあげようかしら」
ポキポキと、乙女らしからぬ音を拳から立てている。
初めて聞いたわ、凹凸が無くなるくらいボッコボコにするって。意味わからんけど痛いし怖いのは伝わる。
「まぁ、とにかく。どうやって赤い花を手に入れるかってことでしょ?」
「ええ。今の私達にはクエストの巻紙もお金も無いのだからね」
「俺に任せてくださいっす!」
下を見ると、チェボブが飛び跳ねて叫んでいる。
「あら、何か良い作戦でもあるの?」
クロイに頭を鷲掴みにされたチェボブが、同じ目線までやってくる。
顔どころか身体全体がメラメラと燃え滾り、クロイの為に働く気満々といった感じが嫌でも伝わってくる。
「えぇ。勿論……この俺、実は大天才のナンパ師でしてね、ドワーフ専門ですけど――」
て、訳で。僕とクロイは花屋の壁にしれーっと寄りかかり、チェボブの動向を伺う。
チェボブは何処から取り出したのか、趣味の悪いサングラスを身に着け、更にフードを被っているせいで、とても大天才のナンパ師とは言えない格好をしている。
「ねぇ、上手く行くと思う?」
「まぁ……でも、私たちが信じなくてどうするの?」
急に仲間思いだな。という言葉が喉まで出かかったが飲み込んだ。
今騒ぐわけにはいかないし。
「ねぇ、お姉さん。好きな女の子に贈る花を探してんだけど、いいのある?」
「あ、はい! 少々お待ちくださいね!」
キラキラの花屋のお姉さんは、手元にある色鮮やかな花束を置くと、チェボブの元へパタパタと近づいて行く。
そして、チェボブと目線を合わせ、更に一度にっこり笑いかけ、女の子に贈る用の花束を作り始める。
「……あれ、チェボブ君?」
「鼻の下が、伸びきっているわね」
下心丸出しの顔で、花を選定してくれている花屋のお姉さんの方をチラチラ覗いているチェボブが……見ていられないよ。
しかも、執拗に鼻をスンスン動かして、匂いを楽しんでいる様にも見える。
「ゴホン!」
クロイの咳払いで、チェボブの体がビクンッ! と大きく跳ねると同時に、目の焦点が戻ってくる。
「コホン! えー。お姉さん」
「はい! 何でしょうか!」
「――お、おぉ」
うわぁ……キラキラ、ピカピカと……まっぶしすぎだよぉ。
あぁ、その為のサングラスってこと? 計算尽くしだったってこと? 僕、負けたよ。
とはいいつつ。直に目の前で喰らっているチェボブは、サングラスを腕で覆っている。
どんだけ眩しいの? 太陽なの?
「……完璧な営業スマイル……流石ね」
「え? うわ~。冷めるわ~。そういうこと言っちゃう人なんだね」
「何よ。事実でしょう……あなたみたいな人が可愛い売り子に騙されて何でもかんでも買っちゃうのよ」
やめてよ。思い当たるふししかないわ。
ついこの前、似合いもしない猫のワンポイントの入った白T買ったばっかだわ。あと、半日で壊れたネックレス。
「――実は、女の子っていうのが……それは、それは、病弱で……」
チェボブは泣いたふりをしているのか、サングラス越しに腕を当てて肩を震わしている、
おい、バレるだろ。
「はぁ」
「それで――それで――」
「はい」
チェボブが焦らすせいか、店員さんはうっすら汗をかいててエロい――じゃなくて、ゴクリと唾を飲み込むのが見えた。
「あの赤い花、タダでください」
チェボブは店員さんが持つ花の束の、その奥を指さしてそう言った――
「無理だろ! ンぐっ――」
「あなた静かにできないの⁉」
「んぐぐぐ」
だってだって! 説得するにしてもクソ下手だったんだもん!
「あ、いいですよ」
「ン⁉ んんんんん!」
えぇ⁉ いいんかい!
「――どうでした? 俺の神がかったナンパ術は」
「ドヘタね」
「うん。見てられなかったわ」
3人は花屋を後に、商店街をどこかに向かって歩いている。
次第に人は減り、陽も傾いているのか辺りは薄暗く、陰気臭くなってきている。
「でも、兄貴ぃ!」
何だよコイツ。さっきからニヘ二ヘ笑いながらふらふら歩いて……それにん加えて肩まで組んで来て……。
「あの子の住所、貰っちゃったよ~」
「ハァあぁ⁉」
「僕にも見せて!」
「ヤダね~」
チェボブの持つ紙切れが、今や和紙どころかモナ・リザに見える!
ピョンピョン跳ねて取ろうにも、チェボブの腕一本でいとも簡単にあしらわれる。
そう言えばこいつ、フィジカルエリートだった。クソ!
「というか、貰った本人以外が行くなんておかしな話でしょう」
「そっすよ――兄貴が行っても――扉すら開けてくれんすよ」
「く――そっ!」
息を切れて苦しくなってきたので、諦めた。
「というより、いつ貰ったの? そんなもの」
「ほら、その姉貴が持ってる花の束の間に挟まってたんすよ!」
「ふーん。そう――あら、何か裏面に書いてあるわよ」
「え? あ、ホントだ…………」
チェボブの笑顔が、文章を読み進めていくにつれて暗くなっていく。
影が差すとか、そんなレベルじゃない。絶望の表情だ。
「あの、姉貴……」
「ん? どうしたの?」
「そ、その花――ドエラバラって名前らしくて」
あ、――
「ドエライ爆発起こすみたいです」
「ちょ――投げんな!」
「嫌よ、持ちたくないわ」
「投げなくてもいいだろ! ドエライ爆発起こしたらどうするんだよ!」
「あ、ああああああ安心してください兄貴! 雨に反応して爆発するみたい――」
ポツン――。。。
終わったわ。
「嫌だァアァァぁぁ――」
「ちょ――待ちなさいよ!」
「兄貴ぃ!」
「知るかァアァァ!」
ザァアァァァアァァ――。。。。。。。。
ぺこり。「ごめんなさい」
高い壁のある門を抜けた暗い街。人っ子一人居ない、鉄の街のとある屋根の下。
太陽が傾いている訳では無く、分厚い雲がかかっただけだったらしい。
「いいわね。一人だけ濡れていなくて」
「マジそれに尽きるっす――どんだけ探したと思ってんすか!」
「いや……マジで」
「マジでじゃないわよ――手を上げた時は花束を手放すんじゃないかとドキッとしたわ」
「確かに、その考えはなかったわ」
「あなた、いい奴なのか只のバカなのか分からないわね」
「まぁ、でもよかったすよ無事で」
「うん」
てか、クロイの服透けててどこ向いて離せばいいのか分からん。
チェボブも気づいてるのか知らんけど、いっつもクロイの目を見上げて話す癖に、すっごい僕の方を見てくる。
「で、この危険物を持ち、僕らお間抜け御一行は何処に向かおうとしてたの?」
「貧困街よ。あの続きに書いてあったの」
「そんな重要な内容なら、あの時に読み上げとけよ」
「いえ、それはね」
凄く悪寒が走るような内容が書いてあったから。とでも言いたそうな嫌悪感に満ちた顔になる。
何それ、すっごい気になる。
「とにかく、今日は無理ね」
「そっすよ! 足も痛いし! 今日こそふかふかのベッドで寝たいっす!」
「だから、金がねって」
「それもあるけれど、そもそも移動なんて出来ないわよ」
「うーん……」
空を見上げる。
雨が金属板を打ち付ける音だけが辺りを満たし、薄くかかった霧や影が視界を埋め尽くしている。
金属板を寄せ集め、継ぎ接ぎで隙間を埋めた様な箱状の建物が、バランス悪く積まれ、風に吹かれて揺れている。
細く曲がりくねる通路の上空を、ギズモみたいな意思を持つ暗い雲が見下ろし、睨みつけてきているようだ。
「あなた、詩的な目になってどうしたの?」
「うげっー」
頭大丈夫? みたいな顔が花束の上から覗いている。あと、うげっーてなんすか? チェボブくん。
その時――
「君たち、どうしたの?」
背後の扉がバンッ! と思い切り開き、僕は突き飛ばされた。
花の束が雨に触れようとしたところで。
「――おっと」
声の正体が僕のフードを掴んで、そのせいで喉が一気にキューって――
「お、ドワーフじゃないか! 珍しいね」
ヤベっ、ドワーフってバレた。殺されるッ! こうなったらこのドエラバラを――
「やめなさい」
今度はクロイが僕の腕を掴んでくる。
うん。花の束掴んでくれるか? 腕引っ張られて痛いわ!
「貴方、何者なの?」
「ん? 僕かい?」
お! 僕っ娘だ! カワイイ!
「僕はフィレット、この街の――あー……やめとこっ」
うん、何で? なんか後ろめたいんだ! 怪しい僕っ娘、カワイイ!
「あら、そう。なら私たちも名前だけで良いわね?」
「んー。名前もどうでもいいかな」
「……私はクロイよ」
うわー。負けず嫌い出たー。
「んで、俺はチェボブ!」
「……グッ!」
「なによ、ぐって。名前も言えなくなったのかしら?」
無理に決まってんだろ! 喉グッ! の腕ピーン! だぞ!
「あー、ごめんごめん」
一瞬もっと喉が絞まったが、次の瞬間には楽になった。
「うぐっ――おま、え――」
輝く程の青い髪が爆発し、クマだらけでクロ煤だらけの顔が僕を見下ろしてきている。それに驚き、僕は言葉を詰まらせた。
その視線に気がついたのか、フィレットは爆発髪を撫で始めた。
「あぁ、ごめんねー。さっきまで色々してたから」
顔の煤を白く艶のある腕で拭い、首にかけたゴーグルを頭の上に掛け直した。
それでようやく、僕っ娘激カワピチピチフィレットが――
「その目やめなさい……見境ないのね、あなたって」
「んだよ!」
下心バレるのはっや!
「兄貴ってマジの非モテなんすね」
「おめぇもだろ!」
「俺、住所貰ったモーン」
「それ絶対、この花になんかあった時のやつだろ! お前のことに惚れた訳じゃないわい! てかよく見たらあの花屋の住所だったりするんじゃねぇの⁉」
「んな訳が――」
「あったんだなぁ‼‼‼」
ザマアァァ! フォォォォォォウ!
絶望顔サイコー。
「君たち元気だねぇ。久々に笑顔を見れて嬉しいよー」
誰が笑顔だったの? 今の瞬間。
「あ、そうだ――貴方、何か傘のようなものを貸してもらえないかしら?」
「え? 傘?」
うーんと唸り始め「何それ」と答えた。
あれ、この世界、傘ってないのか?
「雨が防げれば何でもいいのだけれど」
「あーはいはい。傘ね、刺すやつね」
「そうね、それよ」
「いや、え?」
発音違くない? ナイフ的なヤツ来るよ? 多分。
「ちょっと待ってて―」
そう言い残し、僕を横切って家に戻っていった。
あー。いい匂いした。小さいのって案外役得だわ。パンツも――
上からグシャア! からのパァン!
「おい! 雨水かけるな! 爆発してもえーんか――ってない!」
クロイが持ってる! いつの間に――あれ、クロイに虐められない防御策だったのに。
「あなた、踏まれることには何も思わなくなったの?」
「濡れるのは後に響くだろ!」
「そういう問題じゃないと思うっすよ?」
「そりゃ慣れもくるわ――」
ズサンッ!
立ち上がった僕の顔の目の前を鋭い刃が――。
「あぁ、ごめんごめん」
「えぇ――?」
長い物を狭いドアに通すときってそうなるけどね!
「じゃじゃーん! 僕の発明した村傘だよ!」
うん。可愛いから許そう!
フィレットが自信満々に傘を開くと、まさかの芯が刀で、目立つボタンが柄にくっついていた。
「何なのそれは。傘なの? 刀なの?」
「うーん。どっちもだよ!」
「そう。じゃあいいわ」
「よくないだろ!」
抜けた腰が一瞬で元に戻って来たわ! 女の子って怖いわぁ。
「何よ。雨は防げるのでしょう?」
「間違いなくね――」
ザァァァア――。
「うん! 隙間漏れはあるけど、このくらいなら許容だよね!」
「却下ね」
雨に濡れるフィレット。それを屋根下に入れないクロイ。
「だってしょうがないじゃん! 見ててよぉー――」
フィレットは傘を上に掲げ、そして目立つボタンをポチッ!
シャンッ!
鋭い何かが頭頂部をシャンッ! て。
「うわー! カッケェ!」
「でしょ⁉ 君、チェボブ君だっけ? センスグぅ!」
クロイを避けて屋根下に入って来たフィレットが、チェボブの手をとって2人して跳ねている。
いいなー。
その背後で、クロイがピクピクと痙攣している。
うん、怒ってるよね。ヤバいわ。花の束、投げ捨てそうな勢い。
「良くないだろ!」
僕は韋駄天バリの速度でクロイの下へ、そして花の束を持つ手を取る。
「あ、そういえば。その花の束って何に使うの?」
「ん? ――あぁ、これ。クエストの納品物なんだ、よ!」
あぁ、ヤバイ! 腕が屋根の外に動こうとしてるよ!
「へー。それ、僕かもねー」
「え? え? あ――ちょーっと待て! クロイ! ウェイト! ステイ!」
なんか衝撃のアンサーが――それより、マジで誰か助けてぇ!
クロイに当たって跳弾した雨粒がバラに当たってジュッて音立ててるからぁ!
「よっと――ってこれ」
「ナイスフィレットさん!」
「ドエラバラじゃん!」
颯爽と現れたフィレットさんが、クロイの手からバラを奪い取る。が、それを汚物かの様に手放したので、僕がキャッチする。
「むぅ」
その一方で、クロイは腕を組んでぷくぅって頬を――
「それ、可愛いな」
「兄貴ぃ、やめといた方がいいすよ」
やべ、思ったことが口からついて出たわ……気付いてないぽいからいいけど。
「ねぇ君。クエスト内容って何だった?」
ふわっと香る女の子の匂い……の後に、金属の焼ける匂いが――瞬間、フィレットのデカい目が僕を見つめていた。
目線を合わせるために、屈み込んだらしい。
恥ずかしいからバラで視界を隠す。
「えーと。機械部品と赤の花束だった気がする――」
「あー! やっぱり、それ僕だよ! でも――このバラは危からいらない」
バラが横に、フィレットの苦笑いが現れる。
「我儘は辞めて頂戴」
「だって! お墓が――いや、爆発されるのは嫌だもん!」
「うんうん。クロイ君、こんな危ない花は捨ててしまお、う」
「ん? 今、何て言ったの?」
「あ、いや」
わ、笑ってる……引きつった口の端が、こわ、過ぎるっ。
「フィレットさん、俺、アンタに惚れたよ……これ――受け取ってくれn――」
スパン――ドゴッ!
「うっほぉー! 姉貴の強烈な蹴りキチャァ!」
「だ、大丈夫⁉ ――君、名前何だっけ」
「ご、ごんだ……たけし、だけど……今聞くことかね」
「――おっと」
脳が揺れてるぅ……世界が回ってるぅ。
そんな世界で、暖かい何かにスポって包まれる。
「あぁ。温かーい」
ジンジンする意識の中で、チェボブの「いいなぁ」という声が。そして――首がキュゥ!
「あぁ――おっぱい……」
やべ、漏れた。
「キモッ……ほら、その花置いてさっさと行くわよ」
「え? 今キモッて言った? 聞き間違いだよね? こんなにプリティな僕が、何だって?」
「……いや、兄貴。普通にでしたよ」
「普通に何? 何て言いたいの? ねぇ、その顔やめて?」
「ほら、フィレットさんもなんか言ったって下さいよ」
「――あの、部品は? お、雄ネジと……Y端子――」
はぁ、はぁって……急に顔を赤らめて呼吸を荒くし始めたフィレットさんに、呆気に取られると――
「あぁ……早く雄ネジを雌ネジにY端子を挟んでキツク締めつけて――」
「あぁ、コイツも変態だぁ!」
あのチェボブが引いてる……僕よりヤバい人なのかも知れない。
僕ですら、機械部品に興奮は出来ない……達人の域だ。
「悪いわね。今、持ってないのよ」
「えぇ……?」
大好きなものを目の前にお預けされた犬みたいに、舌を出して興奮を押さえれないフィレットさん。
あ、エロい。
「何だっけ、盗まれたんだよね?」
「そっす兄貴。人間の男の子に盗まれたんすよ」
「ソイツ! ぶっ殺す!」
「うぉ⁉」
目の前で急に血相を変えて怒り出したフィレットさん。怖すぎた……涙出そう。
「見た目はどんな感じだった⁉」
「あ、僕は気絶してて……」
「――チェボブ君! どんなだったの⁉」
「お、おぉ……」
フィレットさんの振り返った時の髪が、団子鼻に乗っかかる。そのせいでチェボブの表情は見えないが、分かり易く引いてんだろーな。
「貧相な見た目の男の子だったわよ。この街の子じゃないかしら」
「む……この街は貧乏で苦しい生活を送っているけど……子供か――」
何かを察したように、フィレットは苦い顔つきになる。
「あー……もう少し、特徴聞いてもいい?」
「上下違う服を着ていたわね」
「あとボンバーヘッドでユカタカみたいに鋭い目でした!」
髪の表現古ぅ。何歳なんだコイツ……あと、ユカタカって何? 既出みたいに言わんでよ。
「ふーん……あ!」
フィレットは思い切り立ち上がる。
「どうしたんですか?」
「もう寝ないと! これあげる!」
「うぉ!」
刀の、しかも刃の部位を容赦なく顔に向けてくる。そんなもの受け取れる訳がない。が、フィレットは気にせず柄を離そうとした。
「じゃ――」
「ちょっと、待ちなさい」
僕の真上で、美少女が二人、見つめ合う。
と同時に刀が眉間のほんの数ミリ先まで距離を縮めて止まる。覚悟を決めて掴もうとした手が自由になって、刃の数センチ先で彷徨う。
「ど、どうしたの? クロイ君」
「今日宿が無いのよ。泊めてくれないかしら」
スゲェなコイツ……なんてコミュ力なんだ。
男だったらナンパ無双しそうな程、圧倒的で堂々たるお願いの佇まいだ。
後ろの方でチェボブが目を輝かせて何かを呟いている。
「え⁉ む、無理だよ!」
フィレットが騒ぐ度、眉間の先で刃がちらつく……。それをそっと両手で挟み持つ。
「いいじゃない一日くらい。そこの化け物二人は部屋の隅に据え置いておけばいいし――私はお風呂とベッドさえ与えてくれれば十分よ」
「おい!」
「俺はそれでいいっす!」
「そこ! 良くないだろ!」
顔真っ赤にしやがって、プライド無いんか! あと、仮にも泊めてもらう立場のくせして求めすぎね……どういうスタンスなの?
「いや~。そういう問題じゃないんだよね……あ、そうだ!」
フィレットがパンツのポケットを漁り出し――ナット、ボルト、レンチ、スパナ、パイレン…………え? 四次元ポケットなの?
「テレレテッテテー! イッパクチケットとお食事券~!」
名前に関しては絶対に触れてやらん。
「これを歓楽街の……えーっと…………どっかの宿の店主に渡せば、タダで泊まれるはずだよ! ほら、ご飯もついて来る!」
「どっかって……どこのよ」
「えーっと……確か……う~ん……………………」
フィレットは自然に柄を離し、顎に手を当てる。
「あ! クロイ君!」
「な、なによ」
「刀が倒れてごんだ君に――」
「その通り! 早く持ってくれ!」
予想以上に重い刀は、重力に従って落ちていく。両手で先端を挟んでいるくらいじゃ、全く持って意味ない。かといって掴むのも嫌だ。痛いし。
てか――
「ちょっとずつ押してるよね⁉ フィレットさん!」
「ん? なんか言った?」
「おい!」
だ、ダメだ……明らかに分かり易く柄の端に体重かけてる癖に、そっぽ向いて口笛だよ……アニメ以外で初めて見たわ、その誤魔化し方する奴。可愛いけど許さん。
「ぐぐっ、ぐぐっ――ごめーん、クロイさーん! 助けて!」
屈辱けど死にたくないがギリ勝ってるが故の懇願。も、クロイは下目に見て来るだけ。
「あなた、良く分からない宿を探し続けるのと死ぬの、どっちが嫌なの?」
「愚門だろ!」
「はぁ。仕方がないわね――」
「兄貴! 俺に任せてください!」
視界の端でチェボブが飛び込むのが見えた。
伸ばした手が、柄に付いたボタンに触れ、次の瞬間。
「うおっ!」
カシャン! と傘の傘たる所以が生えてきた。
そのあまりの勢いに、手の一部が焼けてヒリヒリするけどそれ所じゃない。
短い足を上に上げ、腕を挟むようにして傘を押し返す。
「丁度いいわね」
「何が⁉」
「その傘のおかげで返り血が来ないわ」
「おぉ、確かに!」
「かみ合いっすね、フィレットの姉貴」
傘の向こうだからって存在しないみたいな扱いしやがって。
離せばいいものを、刃を握る手に力が入る。
血が滴り落ちるくすぐったさを感じるが、刃の先端が微かに赤く煌めき、血を吸っているのが見えた。
えっと……この刀がマジの村正ってことでいいの? この世界にも妖刀とかあるんだ……とかどうでも良いんだよ!
「早く助けてもらえませんかね!」
僕の声が金属製の傘に反射して帰ってくる。
なんなら、奥から聞こえてくる日常会話を、友達みたいに肩組んでで連れて来やがった。
自分で何とかするしかないのは分かってる……てか、日常パートでこんな危機的状況と鬼ごっこしてんのおかしいだろ!
手の裏のくすぐったさが加速していく。手を離せばいいんだけど……どうしてか離したら負けな気がして、それが出来ない。
これは男と刀の真剣勝負ッ! 更に強く握りしめると、フィレットさんの馬鹿野郎が更に体重を傾けているのが分かる。
ドワーフの体が頑丈じゃなかったら、骨まで行っているのかもしれない。そのくらいの握り感。
握れば握る程、くすぐったさはピークに達していく。そして――
カチッ。
「カチッ?」
パァアァァァン!
目の前で腕が爆発! パントマイムみたく滑稽な姿勢のまま、後ろの壁に後頭部を打ち付ける。
「ごんだ君⁉ 大丈夫⁉」
「お前が元凶だろうが‼‼」
アクロバティックに起き上がり、無意識で右手に掴んでいた物をフィレットに向かって投げつける。
空を斬る音、皮膚を裂く音が屋根下の狭い空間に響き渡る。
突如、やっちゃったなぁって。やって後悔して、顔を上げれない。し、なんか誰も口を開かないせいで、気まずい。僕のせいなんだけど、ちゃうやん……。
「あぁああああああ! 村傘の先っぽがぁあぁぁぁぁぁぁあ‼‼‼‼‼」
到底傘とは思えない重厚な音聞こえ、村傘が水溜まりの上を打ち跳ねた。その前で、フィレットが四つん這いになり。からの、ぺたん。干物みたいに真っ平になって動かなくなった。
「貴方ね。壊れたからって、投げ捨てるのはやめなさいよ」
ホントだよ。ドエラバラが濡れたらどうすんだ。
「ばっべじどづでぎないじゃん」
「何を言っているのか分からないわよ」
「だって! 刺突出来ないじゃん!!」
「そもそも刺突できる傘は傘じゃないのよ」
「むぅ!」
ぺこり。「ごめんなさい」
「謝るならこっちよ、草団子君」
「く、草団子……」
顔を上げたらフィレットが睨みつけて来ていたけど、その何重圧も上のクロイの視線が重く圧し掛かってくる。
手には、さっき僕が投げたらしい村傘の先端が握られていた。
「あなたが爆発した原因よりも、キレたら直ぐに何でも投げるその性格の方が問題ね」
「んな訳無くない⁉」
「いや、兄貴。俺でもそんな危ないもん投げんすよ……それに、爆発するのはいつも通りと言いますか」
「むぅ……そうだ、ごんだ君の職業って何なの?」
「え……爆破、技師だけど」
「ふーん」
「え? 疑ってる?」
何そのジト目。事実しか言っとらんが。
「爆破技師って聞いたことない……そうだ、スキルバインダーは?」
「す、スキルバインダー?」
「そんなものは貰った記憶が無いのだけれど」
「そっすよ! なんかいよいよ始まった感あるから俺も欲しいっす!」
「何をゆーとるんだね、チェボブ君」
確かに異世界に来た感あっていいけど、あんたはずっとこの世界にいたでしょうに。
「ドワーフの村にいる限り、自分のレベルもスキルも知れないっすからね! いよいよ犯罪者街道を渡る時が来たって感じっす! 兄貴もでしょ!」
「そうなんだ」
知らんけど。
「それで? そのスキルバインダーとやらは何処にあるのかしら」
「初めてレベルが上がった時に出てくるはずだよ……見た事無いの?」
「えぇ、これが――最初のクエストだしね」
「何でこっち見るんだよ」
「自覚がないならいいわよ」
「ま、続きは明日にしよう。また僕の家に来てよ――そしたら、このクエストも終わるし、レベルも上がると思うよ」
「だから、納品の物が入ったバッグがないのよ」
「……ああ、安心してよ。盗んだ奴、大体予想がつくから。僕に任せて」
「……そう。じゃ、これは貰っていくわね」
クロイはいつの間に窃盗していたのか、イッパクチケットとお食事券をひらひらと振った。
「この傘の先端借りていくわよ――その花は預かっておいて貰えるかしら。明日――」
「あぁ、いいよ。何とか別の使い道を探してみるから」
「最初からそうすればいいじゃない」
「だから! 面倒くさいの!」
「ま、いいわ。また明日来るから――――何をボーッとしているの早く行くわよ……長居し過ぎたわ」
なんてマシンガントークなんだ……要点押さえててすぐ終わったよ。
最初からそれやっとけばいいのに……気がつけば、屋根下でとんでもない時間過ごしていた。
雨は止み、雲は無くなっていたが、辺りは闇に満ちて真っ暗だった。その中に散りばめられた星々は窮屈そうに寄り添いあい、それらを周囲に寄せ付けない程巨大な目――銀色の月が、僕たちを見下ろしていた。




