デモン襲来 - 総攻撃:標的:教官 -
最近どうも時の流れが早い気がする。ついこの前まで雇われ船長として積み荷の管理と運行に追われる緊張感のある暮らしをしていたというのに、今は校長室でミネルヴァと茶をすすっている。
歳を取るとこれだからいけない。『え、いつの間に半月が……?』と時の流れの速さに愕然としながらも、今ではそれなりの手応えを覚えていた。
「校長先生、今日は午後の教練を早めに切り上げて下さいね。スレイヤー協会の代表が防衛についての会合にいらっしゃいますので」
「その話は今朝も聞いたよ。悪いがうちの跳ね返りどもを頼むねぃ」
「はい、お任せを。これでエリスさんの誘惑を校長先生がはねのけられるようになったら、完璧でございますね」
「頭の痛い話だよ……」
「あら、若い子に好かれて内心舞い上がっているのでは、校長先生?」
「なんかトゲがないかねぃ?」
あの子たちの教練だけをしていたいがそうもいかない。学校長には学校長の仕事があった。
代表としての外部との応対、外部での会合、夕食会。その他トラブルの対処、寄付の要請、予算の認可。その合間のお楽しみとして座学と教練を受け持つのが最近の暮らしだ。
「あの子、気に入りません……。わたくしのセイウス教官なのに……あんなに色目を使って……」
「仲良くしてくれぃ……」
「校長先生が誘惑をはねのければ解決する話ですっ!!」
エリスは年上の男性に憧れるような年頃なのだろう。エリスは初日からずっとあの調子だった。
「そうは言うがねぃ、あの子、厄介だよ、本当に……」
「とにかくっ、あの方に変なことをしたら差し違えてでも責任を取っていただきますからねっ!?」
「わかったわかった、わかったよぃ」
『あの方』とミネルヴァが口を滑らせてしまったところには触れずにおいて席を立った。クラス1-Xの教室がやたら優雅なのは王子の他にも事情がありそうだ。
「会合の後は市長との夕食があることを忘れないで下さいね?」
「忘れるわけないよ、あそこの奥さんの料理は格別だからねぃ」
「はいっ、楽しみですね、校長先生!」
「いつも付き合わせちまって悪ぃねぃ……」
ちょうどそこで鐘が鳴り、それぞれの生徒の元へと向かうことになった。ミネルヴァは槍と盾を得意とする守り上手なスレイヤーだ。盾槍使いが集まるクラスⅡの担任だった。
「エリスさんには要注意ですよっ、わかりましたね、校長先生!?」
「そうは言っても頭のいい子だからねぃ……。ま、これ以上エスカレートされても困るところでもある」
「差し違えますよっ!?」
「わかったわかったっ、わかったから早く行てくれぃ!!」
そういうわけでいつもの校舎裏に集まった。既に皆が集まっていて、ファルスとエリスが模擬戦という名のいつものじゃれ合いを初めていた。
「あ、教官っ、お待ちしていましたっ♪」
「待ってた……」
「お仕事……お疲れ様です……」
ここ半月、目立ったことは何もしていない。やや破天荒な座学と、師匠に教わったことを伝承するだけの地味な教練しか施していない。
「よっ、悪いが今日は夕方前から会合があってな、短期集中でいくとしようや」
「最悪……」
彼女たちはめきめきと成長していた。その実感が本人たちにも現れて、教練の時間が減って『最悪』とまでファルスに言ってもらえるくらいには信頼され始めていた。
「夜はミネルヴァ教官とお食事だとか……?」
「なんで知っているんだぃ……」
「ミネルヴァ教官とはお友達ですので」
「お友達ねぃ……」
どういう関係か知らないが、ミネルヴァはエリスを上手く指導できないところがある。先ほど『あの方』と漏らしていたようであるし、厳しくできない事情か何かがあるのだろうか。
「教練の続きはそのミネルヴァが受け持つことになっている、よろしく頼む」
「よかった……ミネルヴァ教官は、好き……やさしくて、綺麗……」
「どうでもいい、早く始めよ」
相変わらず協調性のないクラスXであったが、初日よりはまあマシになっている。いや断言はしかねるがそのはずだ。
「よしっ、じゃあまずっ、全員で俺に撃ち込んでこい! 一発でも当てられたら休みにでも甘いもん食わせに連れてってやるよぃ!」
無言で弓を構えるエリスに『同士討ちになるから弓はよせやぃ!?』と警告して、1時頃から3時頃までの普段より短い教練を始めた。
結果、判定の難しい一本を受けてしまって、フルーツパーラーに連れて行く約束をしてしまった。生徒の名誉のために言うが手を抜いたわけではない。彼女たちは端から惜しい才能を持つ宝石の原石に相違なかった。




