スレイヤーアカデミー・レガリス校 - 新しい生徒、三人の超問題児 -
前校長はお歳を召された老骨モンスタースレイヤーだった。彼は喜んで学校長の座を後進に譲り、腰を痛めたと言っていたのに飄々とした足取りで、引き継ぎの書類を人に押し付けると――
『ヒャァ、これで自由じゃ、美人のねーちゃんにマッサージしてもらってくるわい!』などとのたまってアカデミーを去っていった。
おかげでこちらは悪文と悪筆の解読と引き継ぎに悪戦苦闘し、忙しく教官として働くミネルヴァに解読の手伝いを願い、それでもわからないところがあれば歓楽街などに出向き、ほろ酔いの前校長の要領を得ない説明を解読するという二度手間、三度手間を味わうことになった。
結果、またたく間に休暇に充てるつもりの3日が過ぎ去り、前校長に振り回されたことで発展したレガリスの地理にそれなりに詳しくなれた。まあ面白い余興だった思うことにしよう。この程度でボヤいていたらこの先切りがないのだから。
「おはようございます、セイウス校長先生」
「おはよう、ミネルヴァ教官。秘書みたいにこき使っちまってすまねぃな」
「いいえ、わたくしは貴方と共に働けるだけで幸せです」
「ありがてぃ。だが、本国の連中にお前を秘書代わりにしていると知れたら、なんと言われることやら……」
ミネルヴァはかつて俺が受け持った生徒たちの中でも飛び切りの変わり者だった。彼女はこの国の人間ではない。俺と彼女はリヴァイアス帝国と呼ばれる大国で生まれた。それが何の運命のお導きか、今ではこんなところで学校長と教官をしている。
「生徒の名簿には目を通されましたか?」
「ああ、50遍は読み返した。優秀な問題児3名と、復学予定のシルヴィオ王子。ま、こういう連中は俺に任せてくれぃ」
「ふふ……もう一遍読み返されては?」
ミネルヴァはイスの後ろに回って校長先生の肩をほぐしてくれた。なんて教官想いの元生徒だろう。彼女の善意に感謝して、4枚のうち3枚のファイルに目を通した。
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ファイル1.エリス・VV
戦闘スタイル:弓剣士
出身国 :北の方とのこと
性別 : ♀
身長 :152
体重 : 52
趣味 :料理、読書
長所 :弓術、剣術共に巧み
短所 :やや非力、目上をからかう癖あり、要注意
評価 :才はあるが非常に小賢しく、危険、狡猾
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前校長いわく、弓術クラスの担当教官はこのエリスという一年生のせいで胃を痛めたそうだ。非常に頭が良く厄介なレディらしい。
「わたくしには慕ってくれるいい子なのですが……相手に合わせて態度を変えるタイプのようで、他の教官方は苦労しているようです……」
「こんなおじさんが好かれるわけないねぃ。覚悟しておくよ」
「どうでしょう、校長先生の特別クラスへの転属は乗り気だったように見えましたが」
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ファイル2.ミストル・バルドゥウ
戦闘スタイル:斧戦士
出身国 :アルトゥリアス王国
性別 : ♀
身長 :176
体重 : 68
趣味 :不明(声が小さく上手く聞き取れない)
長所 :類まれなる巨人の如き筋力
短所 :ドン臭い、非常に悲観的、学習意欲・低
評価 :才はあるが気質がスレイヤーに向いていない
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生まれ持った才能と気質の不一致。手を差し伸べなければ、アカデミーの教練にいずれ技術面で付いていけなくなってしまうだろう。
「バルドゥウですよ、校長先生。バルドゥとか、バルドゥーウと呼ぶと信頼を嫌を損ねてしまいますから、気を付けて下さいね」
「お、おぅ……。相当にデリケートな娘さんのようだねぃ……。バルドゥ・ヴ?」
「違います、バルドゥウですよ、校長先生」
身を折り曲げた彼女に横顔から違うと言われた。化粧をするようになったこの元生徒には色気があった。
「こりゃ厄介だねぃ……」
教室に入る前に発音の予習をしておこう。上手く発音できるだけで信頼が得られるならば、こんなに安い買い物はない。
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ファイル3.ファルス・デモンストーカー
戦闘スタイル:双剣士
出身国 :無回答
性別 : ♀
身長 :148
体重 : 49
趣味 :ない、とのこと
長所 :筋力、瞬発力、技量、既に一流のスレイヤー
短所 :我が身を省みない無謀な戦いぶり
評価 :死傷する前に命の大切さを学ばせるべき
デモンへの復讐を心に誓っている模様
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まるで昔のタンケルグのような娘だ。彼もまたかつては、デモンへの復讐を生きる原動力とする哀れな青年だった。
「その子、タンケルグがある日突然連れてきたんです」
「こういう人間には慣れている、俺に任せてくれぃ」
「ええ、タンケルグも貴方に任せれば問題ないと。ですがまだデモンにやられた傷が治っておりませんので、ファルスさんに無理はさせないで下さいね」
「この手の人種は言っても止まらんよ。ダレス師匠もそうだった」
全てのファイルを閉じてイスを立ち上がった。[ファイル4.シルヴィオ・アルトゥリアス]がこのクラスに加わるのはまだ先の話だ。目を通さずとも彼のことはよく知っていた。
「さあ、こちらへ。生徒たちが教室で貴方の訪れを待っています。[百を屠ったデモンスレイヤー]のお力で、悩める彼らをお導き下さい。わたくしたちの教官ならば必ずできます」
「買いかぶりすぎじゃぁないかぃ……?」
「いいえとんでもない! わたくしたちのセイウス教官に不可能はございません!」
「……勘弁してくれぃ」
彼女にエスコートされて校長室を出て、同校舎三階にある教室へと案内された。初日ばかりは付き添って欲しいと気持ちでは思うものの、ミネルヴァにも受け持つべき授業があった。
ま、なんとかなるさ。屋根のない学び舎で棒切れを振り回していた頃のように、じっくりと信頼を勝ち取ることにしよう。焦る必要はどこにもないのだから。




