宿敵[デモン・ヒプノス]討伐令 - 王子殿下の為の討伐隊 -
『これはスレイヤー協会レガリス支部からの直接の討伐依頼だ。シルヴィオ王子殿下を昏睡せしめた怨敵、デモン・ヒプノスの討伐を君たちに命じる』
翌朝、そうロバート支部長からの命令を受任すると、俺たちはスレイヤー協会地下にある[更衣室]および[魔晶式ポータル]へと案内された。
ここまできたらもはや恥ずかしがってなどいられない。堂々と振る舞うことがただ一つの答えだった。
「[魔剣グリムトゥース]、転移にも堪え得る生きた剣か……。うっかり股間のソレを切り落とさないようにな」
服も剣も鎧も生きてはいない。しかしこの魔剣に限っては[魔晶式ポータル]での転移が可能というおかしな性質を持っていた。
更衣室のロバートに見送られ、腹をくくって[魔晶式ポータル]と呼ばれるエリアに入った。裸一貫でないと傷を負う可能性があるので魔剣以外は全裸でだ。
ロバートと立ち話をしているうちに、女性陣たちはとうにやってきていた。大小の白い4つのお尻が並んでいた。これを見てテンションの上がらない男なんていないだろう。
「悪ぃ、ロブの話が長くてよ」
「い、いえ……っ。何度体験しても、これには慣れませんね……っ」
ファルスはこうして見ると背中側の生傷が少なかった。それは常に退かずに敵に正面を向けてきた証だ。大柄なミストルのお尻は大きく、ミネルヴァは4つ下の彼女たちと比べるとふっくらしている。
「どこ見ているんですか、教官♪ まぁ……っ!?」
「あ、悪ぃ。お前こそこっち向くなよぅ、エリス……」
背中越しに見える胸はエリスが一等賞。皇女様だけあって綺麗な身体をしているものだった。
「う……わ…………っっ?!!」
「最低……」
「ふふふ……たくましくて素敵……♪」
「いけませんエリスッ! 教官っ、早くポータルを起動させて下さい!」
身に着けていると危険なので抜き身の魔剣を床に置いた。見たんだから見られたのはオアイコとしておこう。今は深く考えたくない。
「おうさ!」
二重のロックを外してレバーを引くと[魔晶式ポータル]が起動した。目をつぶってなどいられないほどにまぶしい光が室内を青白く染め上げて、俺たちを大陸南部にある[アストゥリアス王国領]から、大陸南東部の[西トルポリア首長国]へと運んだ。
ほんの10秒にも満たない輝きに包まれたひとときを堪えると、もうあちら側だ。光が収まると俺たちは別の部屋にいた。そこは[西トルポリア首長国]の証である円を6つ並べた紋章が壁に刻まれた部屋だった。
それから別れて更衣室に入って、用意されていた衣類、鞘に魔剣を収めた。こちらの地方の人間は通気性のいい白いフードロープを好む。重装の金属鎧をまとうことはない。
ミネルヴァたちと合流した。彼女たちも似たような格好だ。日差しの強いこの国を旅するとなるとオシャレどころではなかった。
「彼のデモンに居座られてはこちらも東との往来どころではありません。どうかご武運を、伝説のデモンスレイヤー殿」
「こちらこそタンケルグが世話になった。トドメは任せておいてくれ」
こちらのスレイヤー協会の爺さんに見送られて、厩舎前に用意されていた六足ラクダと呼ばれる動物によじ登った。それは馬よりも大きな奇妙な家畜で、砂に覆われたこの地方の重要な移動手段だ。
「あ、あたしが前で、いいんですか……?」
「ミストルにはコイツの操り方を覚えてもらうぜ。おっさんが後ろで不快だろうが我慢してくれぃ」
「いえ……教官なら……後ろでも前でも、嫌じゃないです……」
「そりゃ嬉しいねぃ!」
「お父さんみたいな、感じ……」
「お父さん扱いは勘弁してくれぃ!!」
エリスはミネルヴァとファルスの六足ラクダの御者役だ。六足ラクダは4人くらいならば平気で乗せて運ばれるくらいの強靱極まらん家畜だ。
帝国貴族出身のミネルヴァは、帝国の皇女エリスに御者を任せるのは複雑な気分だったようだが、戦闘力においてはこれが無難な役回りだ。エリスとミストルには戦闘が発生したら、六足ラクダを守るために離脱してもらう予定だった。
六足ラクダは大型だ。街を出るまで一列に並んで進んだ。
「ここが西トルポリア……不思議な国……。アレ、なんですか……?」
胸の中のおとなしい生徒が手を上げて、彼方に君臨する巨大な氷塊を指さした。
「あのキラキラか? ありゃ[永久氷晶]ってやつだぃ」
「永久……氷晶……。綺麗……」
[永久氷晶]には必ず湖が付随する。西トルポリア首長国の首都のド真ん中には、巨大な[永久氷晶]と湖が存在する。俺たちはその湖にそって走る通りを抜けて、これからオベリスクが発生させる結界の外へと抜ける予定だ。
「デタラメな話だがねぃ、あの氷はいくら日光に照らされて減らないんだぜ。無限に解けて、無限に砂漠地帯に水と冷気を供給してくれるデタラメな自然物だぃ」
「すごい……おとぎ話の世界みたい……」
[永久氷晶]は言わば、『質量および熱用保存の法則はこの世界において絶対ではない』という証だ。特に魔法、魔晶石、モンスター、デモン。これらが関わると物理法則が無視される。
「キャッ!?」
「おっと危ねぃ。悪ぃ、ちょいと失礼するぜぃ」
お父さん扱いしてくれるのならばまあそれはそれで気楽だ。後ろから手綱を握るミストルの手を取り、湖の方に曲がりかけたラクダを元の軌道に戻した。
「そうそう、なかなか物覚えがいいねぃ」
「教官の力になりたい、ですから……」
「ありがとよ。お前らがいなかったら足の管理もできなかった。恩に着るぜぃ」
「がんばります……っ。こんなあたしでも、がんばればみんなの力になれる……そう教えてくれたの、教官ですから……」
なんていい子なのだろう。ますます生徒がかわいくなって六足ラクダの騎乗技術実習に熱が入った。
やがてオベリスクのカバー範囲外を外れた。薄い膜のような結界を抜けると、そこから先はモンスターが徘徊する[煉獄の地]だ。隊列を縦陣から横陣に変えて辺りを警戒しながら進んだ。
「この荒れた街道をまっすぐに抜けると、その先に[東トルポリア国]があります。40年前の戦役で、デモンらに後ろを突かれたこの国は西と東に分断されてしまったのです」
「無論、統合しようという試みは何度も試されたがねぃ、デモンどももここが要所と心得ている。そう簡単に返還しちゃくれねぃ」
要するにこの荒れ果てた砂漠の道は[煉獄の地]でも上位の危険地帯だ。いつモンスターの大群に襲撃されるかもわからない。ラクダをミストルとエリスに任せて慎重に辺りをうかがいなら進んだ。
しかしタンケルグが昨日暴れ回ったからなのかモンスターとの遭遇はなかった。俺たちは1時間半ほどかけて砂漠を越えて、目的地である滅亡都市ベイラードの門へとたどり着いた。
ここにも[永久氷晶]と湖と緑地が広がっている。しかし滅びたこの地に住まう者はなく、あるのは惨たらしい爪痕と、崩れかけた砂岩の街だけだ。
そこにまるで待ち伏せしていたかのようにモンスターたちが道を塞いだ。動く土塊サンドゴーレムの集団だ。ファルスに続いてラクダを飛び降りると、銀色のメタルバックラーを支給されたミネルヴァがその前に出た。
エリスとミストルはラクダの護衛だ。ラクダがやられたら撤退、帰還、どちらにおいても窮地となる。
「教官が出るまでもありません、ここはお任せを」
「デモンだけ、討って……」
「おいおい、そりゃねぃだろ……」
サンドゴーレムごときうちの生徒の敵ではなかった。己の背丈よりもある砂の怪物をファルスは軽々と左右の剣で細切れにした。束となって襲われようとも、ファルスは身を落として状況を切り抜け、サンドゴーレムの核を焼き鳥のように次々と貫いて、もう片方の剣でまとめて核を破壊した。サンドゴーレムは一斉に砂と魔力へと還った。
「どう……?」
「見事だが見てて危なっかしい、もう少し余裕もってかわしたらどうかねぃ?」
「別に、いつ死んでもいいし……これが一番強い……」
頼れるが危なっかしくて見ていられないやつだった。一方でミネルヴァは鉄壁にして堅実な盾槍使いだ。同じように次々とコアを槍で貫き、今は不機嫌な顔をしている。ファルスばかり注目されて褒められたからだろう。
超大型のサンドゴーレムの拳すら微動だにせず盾で防ぎ切る彼女は、守りにおいて鉄壁の女だった。




