夜と女と騎士と芋焼酎 - おっさん、オジ専女子に食われかける -
「く……っ、皇帝陛下になんと報告すればいいのだ……っ」
「セイウス教官と幸せになるとお伝え下さい♪」
「シャレにならん冗談はよしてくれぃ!?」
「このことは報告させてもらう……」
やっと騎士と従者は帰ってくれた。店の主人が出てきて拍手喝采をして酒をよこしてくれた。
「ところで教官、何をされていたのですか?」
「師匠への贈り物をちょいとな」
「ああ、そうだったのですか……っ。私はてっきり、悪いお店に行かれるのかと好奇心がわき起こってしまい――」
「自分とこの校長を尾行してみたと?」
「はい♪ 愛しい人の尾行もいいものですね♪」
「ストーカーっつーんだよぅ、そういうのはよぅ……」
困った生徒に頭を抱えて、仕方がないので彼女の手首をつかんだ。
「帰るぞ」
「あら、お買い物は?」
「こんな時間に生徒を一人歩きさせられるかぃ。飯おごってから寮まで送ってやるよ。ついでに手紙も書きたいしなぁ……」
手紙は苦手だ。せっかく助けたのだから文面の相談に乗ってもらおう。
「まあっ、でしたら私、落ち着けるお店を知っているのですけれど、ご一緒にどうですか?」
「顔見知りの店よりは落ち着いて書けるか……。うしっ、案内してくれぃ!」
「ふふふ……では失礼……♪」
「お、おぃ……」
校長先生は二の腕に抱きつく生徒に引っ張られて夜の街を歩いた。エリスはいい女だ。道行く人々の注目が集まった。
「店はまだかよぅ……?」
「そこですよー」
「やっとかぃ……」
「さあどうぞ、中へ」
その店は妙にシャレた店だった。軒先には青と赤のランプが灯されて、店の中も同じような暗いランプが照らすだけの足下がよく見えない店だった。
「変わった店だねぃ……?」
「私も実際に入るのは初めてなのです。緊張しますね、教官♪」
「そうかい、きっかけになれてよかった」
店は二人掛けの席ばかりだった。他の客の席とはだいぶ離れていて、1対1で落ち着いて話すには都合のいい間取りだった。文字もテーブルのろうそくで照らせば書けなくもない。
先に手紙を書くことにして、やけに高いブドウジュースを注文するとすぐに席に配膳されてきた。店員の目もない静かな店に落ち着くことができた。
「悪いねぃ、こういうのは何年経っても苦手でよぅ……」
「いえいえ、教官のプライベートのお供ができて幸せです♪」
手紙は淡々とした報告書とはわけが違う。きっかけは偶然だったが彼女が付いてくれて助かった。
「バカなこと言ってんじゃねぃよぅ。……危ね、また誤字るところだった……」
「今日は私が教官ですね、セイウスくん♪」
「よろしくご教授願うぜぃ、エリス大先生」
「ふふふふ……っっ、楽し」
いわゆる『箸が転がってもおかしい年頃』だ。ケラケラ笑う彼女に愛想笑いを送って、師匠への手紙の下書きを完成させた。後はこれを元に清書をするだけだった。
「ふっふっふっ……教官……♪」
ところが再びペンを取ると、股の間から生暖かい者が生えてきた。エリスの上半身だ。彼女はテーブルの下から入り込んで、校長先生の腰に腕を回した。
「何をしているのかねぃ……?」
「あら、わかりませんかぁ……?」
彼女のいたずらはそれだけでは済まなかった。彼女はそのまま顔を埋め、スリスリと顔を押し付けた。薄暗い店を紹介した魂胆はこれをやるためだったようだ……。
「汗臭い……♪」
「そりゃお前らに付き合ったからねぃ。成長は嬉しいんだが、そろそろ付き合うのがキツくなってきた。てか、離れろやぃ……っ」
「イヤでーす♪ はぁ……汗臭い……」
「2回も言わないでよろしいっ、こんなんじゃ書けないだろうがよぃ!?」
かわいい女子生徒。教え子。胸がとびきり大きくて、おまけに小悪魔で皇女でこの通りの開放的な性格だ。教官にあるまじき感情、生理現象が発生したところでそれを責められるだろうか。
「教官、私と遊びませんか……?」
「はいと答えると思っちゃいねぃよなぁ、それ……」
「だって、教官に助けてもらえて、乙女心が燃え上がってしまったんです……」
いや貸したの剣だけで、後はお前さんだけで切り抜けたはずだが?
「乙女はこんなことしねぃよぅ……。離れてくれ、ヤバい、これ以上はヤバい……っ」
「うふふふ……何がヤバいんですかぁー? この辺りですかぁー?」
「ウゴハッ?!!」
「スリスリ……。大丈夫ですよぉ……? こんなに暗いですしぃ、お店の人も気づかぬ振りをしますからぁ……」
「な、何……っ。あっ、まさか、まさかこの店……っっ!?」
背筋を伸ばして辺りを見回すと、俺たちが入った店がそういう店であることに今さら気付いた。こんな店で俺は師匠への手紙を書き上げようとしていたのか。右を見ても左を見てもそこにいるのはベタベタする男女のカップルだけだった。
「騙したな、エリス……ッッ」
「私もこんなにあっさりいくとは思いませんでした。ですけど、うふふ……もう逃がしませんよ、教官♪」
「こんなおじさんの何がいいんだ、お前は……っっ」
「教官はやさしいです。意外と気づかい屋さんですし、おじさんなのに心が若くて力強いです。それに強くて、包容力があって、高給取りで、楽しいことをたくさん知っていて、それにとっても、いい匂いです……♪」
祖国の皇女殿下はまごうことなきオジ専だった。彼女はまたもや顔を埋めて、両手でしがみついて、理想のおじさまを堪能した。
「エリス、ここは一つ取引をしよう。ケーキでもなんでも後で買ってやるからよぅ……それ以上は勘弁してくれぃ……っ」
「お嫌ですか……?」
「こんな俺にも立場ってものがあるんだよぅ……っ!」
「……わかりました、そろそろ飽きてきましたし、交換条件でいいですよ」
「助かった…………うっ?!」
犬みたいに股の間から生えていたエリスの頭が気まぐれに退散した。確かめるかのように男の身体の中心に手を置いてから。
「私、教官をもっと好きになりたいです」
「そ、そうかぃ……」
とにかく股の間から出て行ってくれて心底ホッとした。役得ではあったがあの姿勢は彼女に支配権を握られた状態だった。
「ミルが私くらいの頃、教官とミルはどうしていたんですか?」
「なんだ、そんな話に興味があるのかぃ……?」
「はい♪ ケーキはいいですから、その頃の話を聞きたいです。だってミルは私の憧れで、教官は私の好みに直撃の理想のオジサマなんですからっ!」
「年頃の娘さんがこんなおじさんなんかにチョッカイかけるんじゃねぃよぅ……」
しかし気を再び股ぐらに入られたら次こそ食われる。こればかりはミネルヴァの警告が正しかった。
「けどどこから話したもんか……。今頃というと、ああ、あの事件かねぃ……?」
事件と聞いて身を乗り出してくるエリスに笑いかけた。そんな彼女に『ちょいと長くなるぜぃ』と前置いて、未熟な教官と生徒の間に起きたある事件を語った。




