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『極限設計の救難船』 〜クビにされた一級技術者、宇宙ヤクザのポンコツ船を理論値限界で駆動する〜  作者: 端野ゼロ


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「う、頭が……痛い……」


出航から約三時間。

「イカロス翼号」は、星間連邦の巡視船の手が届かない、広大なデブリ宙域の境界(通信デッドゾーン)へと滑り込んでいた。


船内に漂っているのは、劣悪な空調設備とオイル臭をごまかすために噴射されている、過剰で安っぽい「人工フローラルアロマ」の悪臭だった。合成香料の強い化学臭が鼻腔を突き、アキラの頭痛をさらに激化させる。

それだけではない。足元からは、周期的に「ぐぐぐ、みし……」という気味の悪い低周波の振動が伝わってきていた。


(スラスターの推力偏向ノズルだ……。左右でわずかに同期がズレている。コンマ三度、ポート側(左舷)の噴射角が外に逃げているぞ……。だから進行方向を修正するために、船体全体に無駄なねじり応力がかかり続けているんだ……!)


アキラは頭を抱えた。

設計偽装で安全率を一・〇五まで削られた船体で、推力すら不均衡なままデブリ宙域を進む。これはもはや航行ではなく、壊れかけの時限爆弾を宙に放り投げているに等しい。


「アキラさん、お腹が空きませんか? これ、配布されたお昼ご飯ですよ」


声のする方を見ると、通路の大部分をキノコ台車で占領しているエリが、無邪気に小さな合成樹脂のブロックを差し出してきた。

『標準規格栄養食・味覚均一化タイプ』。


アキラは溜息をつき、その無機質な灰色のブロックを受け取ると、諦めたように一口かじった。


――ガリッ。


次の瞬間、アキラの動きが完全に停止した。

白目を剥き、その場に固まる。


(……ない。ノイズが、一切ない……!)


激辛発酵トウフのような、脳をバグらせる刺激的な「痛覚エラー」はそこには存在しなかった。

タンパク質四十五パーセント、脂質二十パーセント、糖質三十パーセント、残りは必須ビタミンとミネラル。完璧に分子構成が均一化されたその物体は、アキラの脳にとって「完全に予測可能な味覚データ」でしかなかった。



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