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『極限設計の救難船』 〜クビにされた一級技術者、宇宙ヤクザのポンコツ船を理論値限界で駆動する〜  作者: 端野ゼロ


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【Day 4 / 08:45 ―― 第八宇宙港・第四ターミナル(搭乗連絡橋前)】


「ゲホッ、ごほっ……うう、最悪だ……」


アキラは涙で潤んだ目をこすりながら、ゴミ箱のふちからようやく顔を上げた。

口の中に広がるカプサイシンの強烈な痛覚と、脳内でリピートされる「チチチ……」という不吉な破断音。二つの地獄が脳内でスクラムを組み、アキラの精神をすり潰しにかかっていた。

目の前に鎮座するツアー船「イカロス翼号」は、ただの鉄の棺桶にしか見えない。


乗る前から死が確定している船。

引き返そうにも、タカシに握らされた借用書(年利百二十パーセント)の電子署名はすでに星間ネットワークの彼方で承認されている。乗らねば、ダウンタウンの冷たい路地裏で飢え死にするか、IHIの監査部に物理的に消されるかだ。


「進め、進め」と、後ろの乗客たちがアキラを急き立てるように押し寄せてくる。

押し流されるように搭乗列へと戻った、その時だった。


「――お腹の減る旅ですね、お互いに」


アキラの背後から、不意に、場違いなほどおっとりとした声が降ってきた。

それはまるで、安物の合成アロマではなく、本物の澄んだ温室に咲く花の香り――いや、もっと湿り気を帯びた、むせ返るような「高湿度な土」と「青臭い胞子」の匂いを伴って、アキラの鼻腔をくすぐった。


「あ?」


アキラが首を捻り、背後を振り返る。


そこに立っていたのは、一瞬、自分の脳内シミュレーターがバグを起こして幻覚でも見せているのかと疑うような、可憐な少女だった。


年は十七か、十八。

透き通るような白い肌に、大きな丸い瞳。腰まで届くプラチナブロンドの髪を細いリボンで緩く結んでいる。着ているのは、フリルと刺繍があしらわれたお嬢様風の仕立ての良いワンピースだ。このオイルまみれで、違法サイバーパーツを隠した荒くれ者が行き交う第四ターミナルにおいて、彼女の存在は完全に浮いていた。


だが。

アキラの「エンジニアとしての眼」は、彼女の容姿以上に、その『足元』へと注がれた。


少女の背後には、重厚な金属製のキャスターが取り付けられた巨大な貨物台車が三台、連結器で数珠繋ぎにされて並んでいた。

その台車の上には、びっしりと並んだアクリル製の特殊培養ケース。中には、不気味なほど鮮やかな斑点模様を持ったキノコたちが、青白い霧を放ちながら群生している。


(キノコ……栽培プラント? いや、待て、計算がおかしい)


アキラの脳内CADが、瞬時にその荷物のトータル質量を算出した。

台車自体の構造、ケースを充填する培養土の体積、アクリル板の厚み、水分含有量――。


(バカな。総重量、最低でも三百キログラムはあるぞ。フォークリフトか、自動搬送ドロイド(AGV)はどうした?)


それらは存在しなかった。

その三百キロを超える鉄と土の塊を載せた台車の先頭部を、少女はただ、自身の「か細い両手」でしっかりと握りしめていた。


そして、信じられないことに。


――ト、ト、ト。


少女は、足音すら立てずに、その大質量を軽々と「手押し」で前進させていた。


「おい、ちょっと待て……」


アキラは呆然として声を漏らした。


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