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さらにアキラの視線は、装甲の隙間に見え隠れする主構造材へと向けられる。
そこには、赤茶けた錆の筋が何本も走っていた。
(あの錆……ただの経年劣化じゃない。応力腐食割れの初期症状だ。剪断荷重がかかる方向に沿って、劣化の曲線が綺麗に放物線を描いている。つまり、この船の構造フレームは、静定状態にある今この瞬間ですら、許容限界ギリギリの曲げモーメントに悲鳴を上げている!)
瞬間。
アキラの耳の奥で、脳内シミュレータが最悪の警告音を鳴らした。
――チチチ……チチチチ……。
それは、金属のねじ山が凄まじい応力によって押し潰され、削れ、千切れかけていく時に発する、高周波の金属擦過音。アキラの脳が、この船の「数理的未来」を演算し、引き起こした強烈な幻聴だった。
(チチチ、じゃない! このボルトのピッチ、そして主材の劣化具合……これ、安全マージンが百二十パーセントどころじゃない。計算上、安全率一・〇五を下回っている! 偽装だ! 検査データを改ざんして、強引に運行許可を通しやがった!)
安全率一・〇五。
それは、宇宙空間でほんの少しのデブリを回避するために急回頭しただけで、キールが豆腐のように引き裂かれることを意味する、ただの「自殺の数値」だった。
鼻腔を突き抜けたのは、宇宙港特有の、血の匂いにも似た「錆びた鉄の匂い」。
それが脳内の幻聴と結びついた瞬間、アキラの平衡感覚が完全に吹き飛んだ。
「お、おい、あんた大丈夫か?」
並んでいた乗客の一人が不審そうに声をかける。
「う……あ、ああ……」
アキラは返事をする余裕すらなく、ボサボサの髪を振り乱しながら、近くの柱に設置されたプラスチック製のゴミ箱へと飛びついた。
ゴミ箱の縁を両手で強く抱え込み、そのまま激しく胃の中のものを吐き出した。
「おえっ……げほっ、ごほっ……!!」
四日間、胃をいじめ抜いた激辛カプサイシンの赤い液体が、涙と共に溢れ出る。
脳内で「チチチ……」という不吉な破断音がループ再生される。
耳元では、ホログラムの歌声が能天気に『安心! 安全! 夢のイカロス翼トラベル!』とリピートしていた。
(死ぬ……! これ、乗る前からすでに死んでる……! 宇宙に出た瞬間、キールが剪断応力で弾け飛ぶぞ……!!)
アキラは涙とよだれで濡れた口元をツナギの袖で拭いながら、目の前の、不格好で、美しくない、そして「死の数式」そのものである船体を、絶望に満ちた目で見つめ続けることしかできなかった。
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