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感覚が麻痺する。この痛覚の嵐の中にいる間だけが、アキラにとって唯一の「静寂」だった。
「なるほど。脳内シミュレーターのオーバーヒートを、激痛による割り込み処理で強制停止させているわけか。君の脳細胞の冷却方法は、いつ見ても合理的というか、極めて原始的で狂っているね」
タカシは美しいテナーボイスで、まるで一流大学の教授が講義を行うかのような甘く知的な声調で言った。その圧倒的な極道顔から放たれる声は、奇妙な説得力に満ちている。
「……うるさい。それより、タカシ。頼んでいたものは」
アキラはトウフを水で流し込み、ハァハァと荒い息を吐きながら言った。
「ああ、もちろん用意したとも。君がIHIを懲戒解雇され、社会的地位を失い、さらに業界のブラックリストに叩き込まれたと聞いた瞬間、僕は幼馴染として涙を流し……そして即座に最適な『再建計画』を立案した」
タカシはスーツの内ポケットから、金メッキが施された骨董品の物理電卓を取り出した。そして、カチャカチャと小気味よい音を立ててキーを叩きながら、アキラの前に一枚の電子チケットを差し出した。
「往復三万デルタ・ジュール。辺境セクター行きの超激安リゾートツアーのチケットだ。まずはこれで実家に帰り、頭を冷やすといい」
「三万……!? バカを言うな、今の私の口座は凍結されている! 一デシベルの価値もない無一文だぞ!」
「知っているよ。だから、そのチケット代金は僕が立て替えておいた。年利百二十パーセント、十二回払いの極めて理路整然とした高金利ローン契約だ。ここに君の電子署名を」
タカシはマフィア顔に、聖母のような優しい微笑みを浮かべた。その目は全く笑っていない。
「年利百二十パーセントだと!? 闇金でももう少し手加減するぞ!」
「おや、心外だな。社会的信用ゼロ、ブラックリスト入りの元エンジニアに、担保なしで融資する男が僕以外にどこにいる? IHIのあほな規格をいつか内側からぶっ壊すためにも、君はまず生き延びねばならない。そのためには移動手段が必要だ、違うかい?」
タカシの甘いテナーボイスが、アキラの耳元で執拗に「論理」を囁く。
アキラは、手元の魔改造タブレットを見つめた。これがある限り、自分はまだエンジニアだ。だが、このダウンタウンに燻ぶっていては、いずれ飢え死にするか、IHIの追っ手に消される。
「……わかった。サインする」
アキラは渋々、タカシの差し出した端末に指紋を押し付けた。
「毎度あり。これで君は僕の大切な債務者だ。四日後の朝、第八宇宙港の第四ターミナルから出発する『イカロス翼号』に乗ってくれ。安全で、格安の、素晴らしい旅になることを保証しよう」
タカシは真空管ラジオの埃を最後にもう一度だけ撫でると、音もなく立ち上がった。
アキラは、手元の電子チケットを見つめながら、舌に残る激痛と、再び脳内で微かに鳴り響き始めた「キール構造の不整合エラー音」に、小さく眉をひそめるのだった。
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