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【Day 1 / 19:00 ―― IHIセクター第8ドック・ダウンタウン『ラプラスの尾』】
星間企業の一等市民たちが闊歩するアッパーフロアから、排気ダクトの油混じりの風を浴びながらエレベーターで降りること百階層。そこは、違法なサイバーウェアと錆びた鉄くず、そして明日の燃料費に飢えた労働者たちがたむろするダウンタウンだった。
その一角にある、煤けたネオンが怪しく瞬くバー『ラプラスの尾』。
アキラはカウンターの端で、目の前に出された「皿」を睨みつけていた。
皿の上で、どす黒い赤色をした謎の物体が、ぶくぶくと微細な泡を吹いている。
「激辛・腐敗寸前宇宙発酵トウフ」。
かつて地球東アジアと呼ばれた地域の珍味を、劣悪な人工重力下で強制培養し、遺伝子組み換え激辛カプサイシンを致死量まで注入した、貧民街のソウルフードにして兵器だった。
「……食うのかい? アキラ」
アキラの隣で、まるでそこだけ一流ホテルのスイートルームであるかのような、滑らかで仕立ての良い音が響いた。
仕立てたばかりと思われるイタリア製のシルク混高級スーツが、持ち主のわずかな身動きに伴って、衣擦れの音を静かに奏でている。
音の主はタカシ。アキラの幼馴染であり、このダウンタウンで「何でも屋」を営む男だ。
完璧なまでに整えられたオールバックの髪、冷徹な切れ込みを思わせる鋭い眼光、そして彫刻のように頑強な顎。どこからどう見ても、一晩で一個小隊を消滅させてきた歴戦の暗黒街マフィアにしか見えない凶悪な風貌。
だが、そんなタカシは今、バーの片隅に置かれた、完全に機能の死滅した「二十世紀の真空管ラジオ」を、まるで恋人の柔肌でも撫でるかのように愛おしそうに、指先で優しくなぞっていた。
「食わねば、脳が沸騰して死ぬ」
アキラは震える手でスプーンを取り、その赤い泥のような発酵トウフを躊躇なく口に放り込んだ。
「――っ!!」
瞬間、鼻腔を突き抜けたのは、まるでアンモニアと硫黄を混ぜて煮詰めたかのような、脳髄を破壊するレベルの凄まじい異臭。そして、コンマ一秒遅れて、数千本の針で舌を直接めった刺しにされたかのような、暴力的な激痛が口いっぱいに広がった。
涙がドッと溢れ、あまりの熱さに喉が焼けそうになる。
だが、アキラの表情には、かすかに救われたような安堵の影が浮かんでいた。
(止まった……)
激辛成分による強烈な痛覚シグナルが、アキラの神経系を完全にジャックした。そのおかげで、脳内で一秒間に数億回もの演算を強制的に繰り返していた「船体自壊シミュレーション」の幻聴(シュイン、シュインというエラー音)が、ピタリと一時停止していたのだ。
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