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「野郎ども、安全第一で略奪だ! いいな、指差し確認を怠るなよ!」
無骨な金属骨組みがむき出しになった「エントロピー号」のブリッジに、バルド船長の野太い声が響き渡った。
バルドの巨躯を包むのは、黒い革のレザージャケット……の胸元に、アンバランスなほど丁寧に縫い付けられた緑色の『安全第一』ワッペンだ。その下には『労災ゼロ目標連続〇〇日』のデジタルカウンターが、誇らしげに『142日』と青い数字を刻んでいる。
「いいか、相手は星間連邦の規制基準を満たしていない激安ツアー船だ。無用な脅威を与えることなく、穏やかに、かつ労働安全衛生法を遵守して貨物を頂戴する。テツ、アプローチの軌道計算は完了したか?」
操縦席に座る若き操舵手テツは、頭に装着したレトロなヘッドホンを片耳だけ外し、大雑把に親指を立てた。
ヘッドホンからは、不吉で変幻自在な「変拍子前衛ジャズ」の不協和音なベースラインとドラムの打撃音がダダ漏れになっている。五拍子と七拍子が目まぐるしく入れ替わる、常人なら聴いているだけで平衡感覚を失いそうな狂気の音楽だ。
「バッチリだぜ、オヤジ! ターゲットのブラインドスポットから惰性航行でアプローチ中だ! 相手のスラスターノイズに紛れて、あと二分で横付けできる!」
「よし! ゲン、乗り込み用の安全帯の点検は済んでいるな? 2丁掛けフックのロック確認は?」
「おうよオヤジ! 二重ロックヨシ! 命綱の亀裂チェックヨシ! 労災保険の適用範囲内だ!」
巨漢の溶接工ゲンが、ごつい両拳を叩き合わせてガハハと笑う。
これぞ、デプリ宙域で恐れられる(?)海賊「エントロピー再建組合」……もとい、エントロピー号の日常だった。彼らのモットーは『誰も死なせない、誰も怪我させない、安全で持続可能な略奪』である。
だが。
彼らは重大な事実に気づいていなかった。
エントロピー号自身もまた、まともなドックで整備を受けられていない「ポンコツ改造船」であるという点に。
特に、三ヶ月前に闇市場で安く買い叩いて強引に溶接した右舷補助スラスター。
その噴射角が、設計値から「右にわずか一度・二分(約一・二度)」傾いて固定されているという点に――。
「――オヤジ、ちょっと待て」
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