三度目の文化祭計画
三年生の日々もだいぶ慣れた。
ある日。
私達はまた伯爵様に呼ばれていた。執務室に移動する前からクラウの目付きが鋭くて、良くないことなのかな?と察する。
「クラウはどんな話か知っているの?」
「知らないけど…父上の執務室に呼ばれるって事は、父上の面倒くさい事情が関わる話だからさ。今までの経験上良いこと無いんだよね。」
「そうなんだ…。」
少し身構えて、部屋に入ると伯爵様が難しい顔をしていた。私は礼をすると、伯爵様は私達を見て気まずそうにする。
「二人とも、とても言いにくいのだが三年生の文化祭は欠席してくれないか。特にリーシュ。三年生になると出場が許されるトーナメント戦なのだが…棄権してくれ。」
とても気まずそうに言い出されたそれは、私にとって衝撃だった。
「トーナメントはいいのですが、文化祭もですか?」
「ん?リーシュはトーナメント出場しなくていいの?」
伯爵様とクラウは驚いたように私を見た。二人は私が参加したいだろうと思っていたのだろうか。
「三年生のトーナメント戦は文化祭中ずっと待機だよ?出番までの合間に少しだけ回れるだろうけど…せっかくの最後の文化祭だから。クラウとゆっくり過ごしたい。」
「…リーシュが良いなら…良いけど。でも文化祭もなんだよね?父上。」
トーナメント戦の棄権に納得した私達に驚いた伯爵様。表情を戻しつつも、また渋い顔をする。
「そうだ。リーシュは聖女様により、名誉ある立場が約束された。しかし、それを良く思わない者も多い。外部から人が入る文化祭は誰に陥れられるか分からない。我が伯爵家の評判を落としたい者もいる。」
「何でよ、今まで大丈夫だったのに。今さらそんな動きがあるってこと?」
「そういうことだ。今までは王家に仕える騎士も私の代で終わりだろうと言われていたからな。特に何もなかった。」
「まー…、ボクもそう思われるように動いてたけど…」
うーん、とクラウまで難しい顔をする。
「父上も学園時代大変だったの?」
「あぁ、そうだな。トーナメント戦は力を示すのに手っ取り早い。道具に細工がされたり、トーナメント前まで怪我をさせようとする者は現れた。しかし爵位があったからな、表だって大きな動きはなかった。しかし、リーシュは違う。まだ婚約者だ。」
「じゃあ、さっさと正式に結婚すればいいじゃん。書類でちゃちゃっと。」
「婚約してすぐ結婚などあらぬ噂が立つだろう?学園を出たら結婚が一般的なのだから」
急ぐ結婚は、確かに変な疑惑を生むのかもしれない。それでも、まさかそんな動きが予想されるとは…。
「私は今まで、意図的に怪我をさせられるような嫌がらせなどありませんでしたが…」
そう言うと、伯爵様は苦笑いをした。
「聖女様の不在時、魔物を仕留める姿が相当恐ろしかったらしいからな。敵に回したくないと思われているか…、リーシュが気がついてないか…だな。」
「気付かない事はないと思いますが…。」
私は学園であった嫌なことを思い出す。
「まさか…クラウにやたら距離が近い可愛い女の子や、クラウにおっぱい押し付けていた子達ですか!?あれは許せません。」
「リーシュにとってそれが嫌がらせなのか…想われてるなクラウ。」
「まーね。」
何故か得意気に胸を張るクラウだけど、嫌がらせに関しては許せない。嫌がらせじゃなかったとしたら本気な訳だから、もっと見過ごせない。それはライバルというものだ、倒さなければならない。
「実際、考えられるのはハニートラップというやつだ。リーシュに力で仕掛けたところで勝つのは難しい。婚約関係を壊すのが一番良いとなるだろう。クラウにもそういう罠がある可能性も考えての事だ。クラウがリーシュと結婚しなければその立場に文句を言えるのだから。」
「ふーん。」
「ライバルの女の子が、クラウの元へわんさか来る…ということですか?」
私のその言葉に伯爵様は考えるように顎に手を添える。
「いや、罠として用意されるなら男だろうな。リーシュが女性だと知らない者の方が多い。クラウは男が好きだと思われているだろうからな。」
「知らない男がわんさか誘ってくるとか恐怖過ぎるんだけど。」
「誘いに乗らなかったとしても、そう疑われる状況を作られる可能性もある。それが厄介だ。」
クラウは寒気がした!とでも言うように自分の腕をぎゅっと握った。しかし、嫌な顔をした後に気を取り直すように「はぁ」と息を吐くと、まっすぐ伯爵様を見る。
「今年の文化祭は、教育論みたいなのをまとめて展示するだけだから、ボクは構わない。…けどさ。バレなきゃいいんじゃん?」
ニヤリと楽しそうに笑うクラウ。
その表情に伯爵様は苦笑いを浮かべた。
そうして私達の文化祭計画は始まった。
部屋は変わって、ここは伯爵家の衣装を管理する部屋だそうだ。
「リーシュ、こんな服どう?こっちも可愛いんだけどさー」
「どれも可愛いけど…少し疲れたな…。」
クラウのバレなきゃいい。という発想から、私達は文化祭当日、表向きは欠席。しかし、変装して文化祭を楽しむことになった。クラウに着せ替え人形のようにあれこれ衣服を渡されて、それに着替える作業は妙な疲れがある。
「ボクはもう少し悩みたいなー、あと少しだけ…」
「ねぇ、クラウ。見た目を変えるより巨乳にした方がバレないんじゃないかな?私は男だと思われているんだし。」
「巨乳は目立つって。フツーでいいの。そのままがちょうどいいの!」
私の胸は簡単に男装できるくらいのものだけど…その。フツーって正直に言われるのは不思議と傷つく。なんとなく、胸元を締め付けるそれを外して服の中の自分の胸を確認してみる。
「フツー…」
自分の胸を少し下から持ち上げるように支えて谷間を作ってみる。こう…上手く下から寄せて上げれば、ある程度巨乳にだって見えなくもない。着ていたブラウスのボタンをいくつか外し、鏡の前に立ってみた。衣装を探して、たくさんの衣服やアクセサリーを眺めるクラウがふとこちらを見た。クラウは一瞬眉間にシワを寄せた後、私に近づいてくる。
「ちょっと、リーシュ。なにやってんの?」
「私だって、こうすると結構大きく見えるんだけどな…って思って。」
「そうする必要ないから。」
そう強めに言われて気持ちがシュンとなる。
「リーシュはボクの婚約者だから。他人の目を引くような格好は嫌なの。分かって。リーシュだってボクに女の子が寄ってきたら拗ねてたでしょ。」
「うぅ、わかった。」
軽くお説教が入り、胸を寄せてた腕をそっと下ろした。寄せて持ち上げられていた胸はふわりと元に戻る。そんな様子を見てか、クラウが少し赤くなる。
「じゃ、じゃあ次はこれ!」
「ええ、まだあるの?」
こうして私たちの文化祭準備は始まった。
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