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可愛い君♂に恋する私は「男装」していると言い出せない。〜男の娘と男装女子はすれ違いすぎる。〜  作者: かたたな


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沢山の我儘



 まだ日の高い中庭の木陰で改めて座ると、クラウが私の後ろで髪を結い始めた。


 私達の間を通りぬける風は優しい。


 心地良いこの空間が心をほんのり癒してくれた。


 最近は互いに忙しくて、こうした時間がなかった。この感覚が懐かしくて、少しだけ目頭が熱くなる。


「リーシュはさ、すこーし他人の話を真に受けすぎなところ、あるよね?」


 その言葉に、ドキリとしてしまう。

 それに関して、反論は少しも出てこない。ブームを真に受けて男装しちゃう辺り、すぐ真に受けてしまう自覚がある。


「素直なのはリーシュの良いところだよ。でもさ、何か思う事があれば、一番にボクの言葉を思い出して信じて欲しい。」

「クラウの言葉?」


 クラウは私の髪を結いながら、小さな子供に言い聞かせるようにゆっくり、しっかりと言う。


「ボクは、リーシュが大好きで大切ってこと。」


 なんだか色々と頭のなかを覗かれたような気分になった。ヒヤリとして彼を見ようとすると「動かないで。」と元に戻される。


「色んな噂が飛び交っててさ、全部聞いたらキリがないんだよね、最近。」

「そうだね」


 今、私達には色んな噂が飛び交っている。


 リーシュの猛アタックで婚約が成立した。騎士の家系であるクラウにとって、それは断れなかった。最近は一緒にいる姿をみないから不仲。互いに愛がない。クラウは各家庭に行き始めたのはより良い条件を見つける為…。


 耳にした噂を出せばキリがない。


 噂を耳にして、また心が沈んでいるとクラウの柔らかい声が届く。


「だからさ、何か聞いてもリーシュのことを大切に想う人の言葉を一番に信じて欲しいんだ。」

「私を大切に想う人?」


 そう聞こえたかと思うと、後ろで私の髪を結っていたクラウが体を少し傾けてコチラを見てくれる。その瞳には自信が溢れて輝いている。


「それってボクでしょ?リーシュを大切に思ってる」

「…うん。」

「次に…リーシュの家族やボクの家族とか?将来的には聖女様もかなー、一応未来の仕事仲間だし。」


 

 その言葉で、私の頭のなかがスッキリと整理された。胸に手を当てて「そっか」と呟く。


「でも、ボクの言葉がおかしい!って思う事も…この先あると思う。だから…その時はもっとよく話し合おう。ちゃんと聞くから。」

「うん…。」


 体から消え去ったモヤモヤ。彼の言葉がするりと頭に入る気がする。


「ってことでさ、リーシュ。ボクに何か言うことない?」


 はい、終わり!と丁寧に結われた髪を離して言うクラウ。その眼差しはキラキラと何かの期待を感じた。今から言う言葉が、彼の求める言葉なのか自信は無いのだけど、私は気持ちをポツリと言葉にした。


「クラウが…好きだよ」

「へ!?ぁ、うん。ボクも好き」


 そのひと言を受け止めてくれたクラウには、安心して気持ちを言って良いんだ…って思えた。そうしたら言葉がどんどん溢れてきた。


「クラウの対応に不満はないのに、クラウに近づく可愛い女の子に嫉妬して、もっとクラウに可愛いって思われたい…って、ここで膝を抱えて落ち込むくらい…クラウのことが大好き…」


 そう言うと、クラウは目をまん丸にしていた。そして、ふっと吹き出して笑う。


「…ぷっ、ははは。なにそれ、やっばい可愛いんだけど!!」

「こっちは…真剣なのに。」

「うん、うん!良くできました、リーシュ良い子~♪気持ち言えてえらいね~♪」


 そうして、ぎゅうぎゅうと抱き締めてくれる腕からたくさんの幸せな気持ちを貰った。彼の笑顔は、私の不安をいつも吹き飛ばしてくれる。私は彼の背中に手を回すと、その幸せの存在を確かめながら力を込めた。


「ね、リーシュはさ、ボクに言える我が儘、何か無いの?いつもボクばっかり無理言って振り回してんじゃん。たまには、さ。」

「…わがまま?わがままを言っていいの?」

「そ!叶えたい。叶えられることならね」


 突然聞かれて、何も出ない…なんてことはなくて。考えれば考えるほどいっぱい出てきてしまった。


「どうしよう、いっぱいある。」

「その中で、いっっっちばん我が儘だってリーシュが思うものって何?そういうの知りたいなぁ。」


 うーん、と考える間も彼に回す腕は緩めず、クラウの首元に顔を埋める。するとクラウはくすぐったそうに体をよじった。


「じゃあ、…言ってもいい?」

「うん。」

「正式に…もし、結婚できたら…」

「もし、じゃないの。絶対なの、結婚は。やめるって言ったら大暴れしてやる。」

「ふふっ、…じゃあ。結婚したら。帰ってきた時に一番に抱き締めてほしい。」

「ん???」

「もし、子供がいたら…こう、上手く横に並ぶから。まとめて抱き締めて欲しい。帰ってきたら一番に、まとめて。でも、できれば真ん中は私がいい。」

「なに?今から子供に嫉妬してる?」


 そう言われてから、ハッと気がついた。


「…そうかも。」

「もぉ~~~~!」


 緩んでいた私を包む彼の腕に、更に力が込められた左右に揺らされる。少し苦しいけれど、それが嬉しい。


「でも、それが我が儘なの?」

「私の感覚だと、とても我が儘だよ。」

「…なんで??」


 その「なんで?」の疑問に具体的に話すかどうか悩みながら少しずつ話し始めた。


「私の故郷は、帰ってくると、みんな一番大切な人を抱き締めに行くことがほとんどなんだ。毎日命がけで帰ってくるし。一番大切な存在が、今日も生きてるって実感したいんだって。」

「うん…それで?」

「私の両親は互いに一人だけなんだけど、何人か妻や夫がいる人はいるから。一番に抱き締めて貰うって特別なの。」

「はあ!?そんなどろどろな人間関係なの!?リーシュの故郷って!?」


 驚きでなのか、体が離れ、私の顔を覗くように見る。


「表面上はそんなにどろどろしてないよ。協力しないと生きていけないし。」

「価値観違いすぎて驚くんだけど。」

「だよね。私も王都に来て色々と驚いてる。」


 ははっ、と軽く笑う。


「一番に抱き締めて欲しいって言うのは一番に想っていて欲しいってことだから…それは贅沢というか。我が儘?」

「それが贅沢とか…リーシュの両親は他の人に行かなかったんでしょ?」

「うん、…だから憧れてるのかな?そんな関係に。それでね、私が幼い頃…一番に抱き締めて欲しくて、帰ってきて早々に両親に近寄って『ギュッてして!』って言った事があるんだ。」

「なにそれ可愛い。」

「ふふっ、子供の頃だから。両親は『ちょっと待ってね。』って言って、お父さんはお母さんを一番に抱きしめに行っちゃうの。それは少し寂しくて。だから、私たちに子供がいたら一緒に抱き締めて欲しい。私がその場にいなければ、こっそり一番に抱き締めてあげてもいい。」

「なるほどねー。」


 私は遠い記憶を思い出す。


「そういえば、その時だったかも。」

「その時って?」

「ゼインが、初めて狩に出て、帰ってきた時に私を一番に抱き締めてくれたんだ。その時『私はゼインみたいな人と結婚する!』って、言った気がする。」

「…やけるなー。」

「でも、それって帰ってきたら一番に抱き締めてくれる人って事だから。クラウが…そうなってくれるんでしょ?」

「もちろん。」


 少し笑ってから、どことなく嬉しそうに微笑むクラウ。


 一人でただただ不安になるのはやめようって思った。こうして話しを聞いてくれる彼の言葉を信じ…自分を大切に思ってくれる人達の言葉だけ心に大切にしまっておこう。



 ◇ ◇ ◇


今夜の完結に向けていっぱい投稿予定です。

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