最後の文化祭。
迎えた最後の文化祭。
校庭は色とりどりの屋台や飾り付けで溢れ、料理の香りや生徒たちの笑い声が響き合っていた。
長い髪をクラウが丁寧に編み込んでくれ、スッキリと結い上げ、スカートの制服に身を包んだ。鏡に映る自分は普通の女の子として立っている。
隣に立つクラウは、いつも愛らしい服から一転、多くの男子生徒が身につける制服へと変わり、すっきりとした凛々しい雰囲気。三つ編みにした髪が肩を滑り、前に垂れる。
「リーシュ、とても可愛い!」
クラウが私の髪に軽く触り、誇らしげに笑う。私は照れくさそうに肩をすくめた。
「クラウは、かっこいいよ。」
「ぅ…なんか、はっずいんだけど…。」
伯爵様と話した通り、私たちは文化祭とトーナメント戦を表向きは欠席。しかし「バレなきゃいい」ということで、変装して楽しむことにした。
しかし、色々試した結果「一般的な格好が一番目立たない」という当たり前の解決方法に収まる。私の髪は、一目見て「女の子」と分かるように丁寧に編み込まれ。いつも目立つクラウはシンプルなものに。クラウには珍しく地味だけど、キリッと男の子らしい雰囲気。
初めて、婚約者と過ごす文化祭。
こうして本来の姿で楽しめるとは思わなかった。
「じゃ、行こっか!」
「うん。」
指を絡めて手を繋ぎ、賑わいの中へ飛び込み溶け込んでいく。文化祭で売り出された食べ物を分け合いながら屋台を巡り、ゲームでふざけ合ったり、展示物を眺め、まるで子供のようにはしゃいだ。
誰も私たちに気づかず、自由に振る舞えるのが楽しくてたまらない。
そして、食べ物を受け取る為に離れた手が、食べ終えると当たり前のように繋がれる。それが愛しい。
「トーナメント見ながら休憩しない?」
「うん。」
クラウの提案に、私は頬が緩みながら頷いた。
「なに、その顔。可愛いー」
そう言って緩んだ頬をクラウの指先が滑る。
色々な罠を考慮して棄権したトーナメント戦。見るだけなら良いだろうと屋台でジュースを買い、会場の一角に座って観戦する。選手たちの鋭い動きに、会場は熱気に包まれていた。
「リーシュ、何か食べてるときの真剣な顔するよね。」
「そんな事言われると食べにくくなる。 」
しかし、私たちはほとんどトーナメント戦を見ず、笑い合っていた。もう周囲の音なんて聞こえなくて良い、クラウの声さえ聞ければ!と本気で思う。
するとアナウンスが響く。
「準決勝、圧倒的な強さで勝ち上がった彼から、宣言です!」
優勝者は宣言をすると、観客の皆が協力してくれる雰囲気がある。一番人気の宣言は「お金が欲しい!」と言うもの。宣言すると、観客席の皆で箱にお金を入れて帰るのだけど、コレがなかなかの金額になるらしい。
過去には「母親の病気を治す手助けをしてください!」と宣言し、多くの費用と専門の医者への紹介が行われ治ったというのもあったとか。
「今回もお金かな。」
「あの学生貴族っぽいし…どうかな。」
話し終えると、すぐに持っているジュースへと視線を向ける。その間に、準決勝進出者の宣言が行われた。彼は侯爵家の跡取りで、自信に満ちた笑みを浮かべる長身の青年。授業で何度か会ったことがある。
「優勝したら、リーシュに求婚したい! 彼の強さと美しさに、俺は心を奪われた!後ろ楯のため、愛のない婚約をしたと噂を聞いて、いてもたってもいられない。チャンスが欲しい!」
会場が歓声とどよめきで溢れた。
私は、二色に分かれているジュースの混ぜ具合をどうするか悩み、氷をスプーンでジャカジャカとつついていた。これくらいの混ぜ具合?いや、もっとか?完全に混ぜると味のコントラストが…。
クラウはジュースを持つ手の力を強め、鋭い視線を会場に投げる。
「…リーシュ、行こう。」
クラウの声は低く響き、私は我に返った。「え?なに?」と言ううちに、彼は私の手を握り、半ば強引に立ち上がらせられると会場から連れ出した。
私はぼんやりしながら、ちょっと強引なシチュエーションも良いな、と考える。そんな私に振り返らず、足早に人混みを抜けていった。
中庭にたどり着くと、喧騒が遠くなり、木々のざわめきだけが響く静かな場所が広がった。
ここまで来るとやっとクラウは立ち止まり、深く息を吐いた。彼の目はまだ険しいが、私を見ると少し柔らかくなる。
「リーシュ、あいつのこと…知ってる?」
「あいつって、さっき勝ち残った生徒?…武術訓練で何度か模擬戦をした…かな?」
クラウは私の言葉に肩の力を抜き、ほっとしたようだったが、すぐに眉を寄せた。
「リーシュのこと、本気で狙ってんじゃん。…ムカつく。」
その言葉に、ジュースを混ぜてた私も何となく宣言の内容を把握した。
中庭の木陰で、そっとクラウに抱き寄せられる。その抱き寄せる姿は宝物を守る子供みたいで勝手に嬉しくなった。遠くで文化祭の喧騒が響く中、私はふと思いついた。
「ねえ、クラウ。決勝でもし彼が勝ち残ったら、私が乱入して彼を倒すのはどうかな。優勝させなければ宣言もできないから。」
クラウは目を丸くして、呆れたように首を振った。
「それやったら、棄権した意味がなくなるじゃん! 父上の話では文化祭来ることもダメって話なのに。」
「じゃあ、顔を隠して『謎の選手』として乱入すればバレないし、棄権の約束も守れる!」
クラウは一瞬ぽかんとした顔をして、呆れたようにため息をついた。
「…ほんと無茶なこと考えるね。でも…悪くないかも。学園の物置にいっぱい衣装あるから、それで試してみる?」
クラウの目がキラキラと輝き、いたずらっぽい笑みが広がる。私は拳を握ってうなずいた。
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