肝試し。
クラウさんが友人達としていた肝試し。それに便乗できることになって気持ちがウキウキと弾む。
私たちは雑談しながら実験室のある西棟の廊下を進んでいった。校舎はすっかり暗くなり、窓から差し込む月光だけが頼りの状態。更に階段を上るたびに古い木の軋む音が響く。 軋む音を聞くと、今の気持ちも相まってジャンプとかしたくなってしまう。
しかし、それは隣で怖がるクラウさんを余計に怖がらせてしまうので我慢。
「ねえ、リーシュ君は怖くないの?」
腰が引けてるクラウさんが、私の腕に軽くしがみつき、上目遣いで聞いてくる。私より少し背が高いはずの彼女。なのに顔が、今では私の肩に近い所にある。相当腰が引けているようだ。そんな彼女の声には、緊張と不安が混じっているのが分かった。
「今は怖いより、憧れてた学園生活のイベントにとてもワクワクしてる。」
話してみると少しだけ照れる。クラウさんは目を丸くして、興味津々な顔で身を乗り出してきた。
「へぇ!どんな学園生活に憧れてたの?他にはどんなことしたい?」
「他に?…制服姿で友達と遊んだり、恋人と仲良く過ごすとか。」
言い終えてクラウさんを見ると、彼女の目は暗い中でも分かるほどキラキラ輝いてた。
「それ青春だねー!ね、ね、どんな人が好みなの?」
クラウさんが私の腕を軽く揺らしながら、楽しそうに聞いてきた。こういう話が好きなのかもしれない。彼女のテンションに引っ張られて、私もつい笑っていた。
「うーん…言葉にするのが難しいな。クラウさんは何か基準はある?」
「ボクはね、可愛い人!もう、見た瞬間に胸がキュンってなるような!」
クラウさんは、私を掴んでいた手を離し、両手を胸の前で握ってキュンの気持ちを表す。しかしその手は、すぐに私の腕へ戻ってきてガッツリと掴んだ。二人の声が暗い廊下に響いて、なんだか肝試し以上に楽しい。「クラウさんらしいね。」と言うと「でしょー!」って笑い返してくる。この瞬間も、なんだかすごく青春っぽい。
そうして実験室の扉の前にたどり着いた。
肝試しのルールでは、中に準備されている「古いガラス瓶」を持ってくる必要があるらしい。きっとここら辺で脅かし役とかいるのかな?なんて予想しながら扉に手をかけ、中へ踏み込んだ。
ギギィ…
「ひぃぃ…。」
音を立てて開く扉は肝試しの雰囲気を盛り上げる。クラウさんも小さく声を出していた。
実験室は、薬品の匂いと埃っぽさが混じり薄暗い。棚には怪しげな瓶や器具が並び、月光がガラスに反射してキラキラしている。少し幻想的にも見える。慎重に進み、カウンターの上に置かれた古いガラス瓶を見つけた。
「あった。 クラウさん、これだよね?」
「それだ! 」
その瞬間。
どこからか「カタッ」と小さな音がした。
「ひゃっ!? な、なに!?」
クラウさんが悲鳴を上げ、飛びついてくる。彼女の両腕が私の体をぎゅっと抱きしめ、柔らかい髪が顔に触れて少しくすぐったい。
「クラウさん、少し苦しい。」
「わっ!!ごめん、ごめん。」
震える彼女に離れるように言うのは可哀想だけど、くっつかれても先に進めない。脅かし役かもしれないし、クラウさんが怖がるなら早く帰って終わらせてあげたい。
「 なんか、リーシュ君、あれだね。…ほんと、ボクの妹みたい。」
「そういえば、前もそんな事を言ってたね。クラウさんより少し背が低いから?」
「いや、見た目とかじゃなくて…なんか、こう…」
クラウさんは手元を見ながら考えるように指先を動かす。その後、少し恥ずかしそうに…
「柔らかい?抱き心地が。男の子ってゴツゴツしてるじゃん?それにしては、ふにゃっとしてるってゆーか?」
この瞬間、肝試しよりドキッとした。
クラウさんが、妹みたいに柔らかいと言う…。
他人とのスキンシップが多そうな彼女だからこそ、思った事なのだろう。私はここが暗くてよかったと改めて思う。焦りを隠しながら、クラウさんに落ち着いて言葉を返した。
「…そうかな?…それより、早く帰ろう。みんな待ちくたびれてるよ、きっと。」
「あ、やっば。そうだね。」
あっさり流したが、心の中で物凄く動揺していた。背中も冷や汗がだらだらだ。危なかった。
その時。
廊下の奥から奇妙な音がした。
ギキ、キキギキキィー…
風とも人の声ともつかない、不気味な響き。
影がゆらりと近づく。白い布をまとったドロリと黒い影が浮かび上がる。
「ひっ!? あれ…お化け!?」
「こっち、隠れるよ」
とっさにクラウさんの背を抱えて近くの用具室に飛び込んだ。
扉をそっと閉め、狭い空間に身を潜める。マットや古い教材が積まれた埃っぽい空間は、薬品の匂いと湿った木の香りが混じる。扉を開けられても見つからないよう、物の影に身を寄せた。狭すぎる空間で、二人の体がぴったり密着する。古いマットが背中に当たり、軋む音が小さく響く。
「こわっ…」
「大丈夫。」
さっきの影はなかなか不気味だった。幼い子供を落ち着かせるように、クラウさんの頭を優しく撫でると、震えが少し収まるように感じる。
少しは怖さを和らげただろうか?と、腕の中にいる彼女を見る。
言葉にはしないけれど、怖がりかたまで可愛らしい。
こんな必死にぎゅっとしがみついてきて、震える姿は演技でもなく本物で、とても見習いたい気持ち。学んだところで、私をこうして助けてくれる男性がいるかどうかは…分からないけど。
そうして私が「女の子らしさ」を学んでいると、古い木の軋む音と、遠くの風の唸りが、静かな空間に響く。
「ひっ…!」
ぎゅうっと抱きつく彼女の手に力が入る。腕が私の背中に回り、顔が私の胸に埋まる。温かい吐息がシャツ越しに伝わり、妙な緊張が走った。
私は今。
脅かし役であろうお化けより、男装バレのドキドキと戦っていた。




