何でこんな所に?
暗い学園。
その階段の踊り場で、とてもいいジャンプで驚いた人影は…多分クラウさん。
「うわっ!? リー、リーシュ君!? な、なんでここに!?」
声を聞くと、ちゃんとクラウさんだった。
慌てて立ち上がり、スカートの裾を整える彼女の声は少し上ずっていて、普段の明るい雰囲気とはどこか違う。顔は薄暗くてよく見えないが、どこか緊張しているようだ。何でこんな所にいたのだろう?何か事件に巻き込まれてなければいいけど… 。
「どうしたの、クラウさん? こんなところで蹲って…。何かあった?具合悪い?」
クラウさんは、やっと私だと認識したのか深く息を吐く。そして頼りない声を漏らしながら、少し言いにくそうに事情を話してくれた。
「今、クラスメイトと肝試ししてて…。なんか…実験室に置いてある『古いガラス瓶』を取ってくるって話になって…。」
「肝試し?いいね、楽しそう。 」
何かあったわけではなさそうで安心した。それにしても、クラスメイトと肝試しか…。
それってすごく青春っぽい!!
確か…学園の実験室は、魔法薬の調合や錬金術の授業で使われる場所。夜になると薄気味悪い雰囲気になると話題になっていたのは知っている。しかも、大昔にヤバい実験をしていた生徒がいたと嘘か本当か分からない話もある。
…どうヤバい実験だったのかは、あやふやだけど…とにかくヤバいそうだ。
「二人組で…ってなったんだけど、集まった人数的に『1人余る』って話になってね?どーせ暗いだけの学校でしょ?なんて思って『ボク1人でも大丈夫だしー』って言っちゃって。」
「へぇ、クラウさん勇敢。」
二人組のところを1人で良いなんて強いなぁ。なんて思っていると、その笑顔がどこか引きつっている。
「だ、ダメかも。」
「ダメなの?」
「来てみたらさ、想像越えたね。」
その反応は素直で良い。こういう素直さも愛されポイントなのだろう。
「じゃあ、一緒に実験室行こうか?本来は二人組なんだよね? 」
「え!? リーシュ君、行く!? 本気!?」
クラウさんの目が一瞬キラッと光り、身を乗り出してくる。
「いいよ、教室に荷物を取りに来たついでだから。それに友だちと肝試しなんてワクワクする。」
「リーシュ君…神だよぉ、ありがとう!!」
その言葉に、クラウさんの表情が一瞬柔らかくなったはずだった。しかし、何かを思ったのか真剣な表情になる。それは、さっき声をかけた瞬間のような…警戒する表情?
「あのさ、今話しているリーシュ君は本物のリーシュ君なんだよね?」
「本物だけど。」
「本物が自分は本物だって言う?」
「言わないの?」
突然の謎の疑惑に、笑いがこみ上げる。そうか、私になりすました『何か』だったら…と思うと不安なのだろう。だけど、本物だと証明するのもなんだか難しい。困っていると、クラウさんは何か閃いた!と言うように表情をパッ!と明るくさせた。
「じゃー、手触れるか試して良い?ちゃんと触れて、冷たくなければ生きてる。」
「こんなにイキイキとしてるのに心外だな。」
「無表情でイキイキって言われてもなー。」
素直に握手を求めるように手を出すと、クラウさんは長い袖から手を出して私の手に触れた。それは、ヒヤリとしていて私より少し大きめの手。
「クラウさんの方が冷たいじゃない。クラウさん、偽者なの?」
「本物だし!!肝試しの緊張で汗びっちょりなの!」
そう言うとすぐ袖に手を引っ込めてしまった。大きい上着をヒラヒラさせ、袖でパシパシと肩を叩かれる。怒り方も可愛らしい。
元気そうでよかった。
「よしっ、リーシュ君がいれば百人力……いや、千人力だよ! じゃあ、行こうか。……あ、離れないでね? 絶対だよ?」
クラウさんは私の服の裾を所在なげに掴むと、意を決したように階段を上り始めた。
私達の行く先はどこまでも静まり返っている。
窓から差し込む月光が、長い廊下に奇妙な影を落とし、肝試しらしい雰囲気が出ていた。自分たちの足音だけがやけに大きく響く。
「……ねえ、リーシュ君。さっきの話の続きなんだけどさ」
「さっきの話…肝試しの?」
「そう。なんでも、その実験室で『声』を小瓶に閉じ込めた生徒がいたんだって。その瓶を開けると、ずっと昔の悲鳴が聞こえてくる……とか」
クラウさんは自分で話しておきながら、ぶるりと肩を震わせた。掴まれている裾が、心なしか強く引かれるのを感じる。
「悲鳴のコレクションか。錬金術の課題としては、なかなか独創的だね。そういう趣味の人かな?」
「感心してるところ悪いけど、ボクは今、猛烈に後悔してるよ……」
私達の肝試しは、こうして幕を明けた。
以前完結した『モテないと騒ぐ君が好き』が、今日の完結済注目度ランキング3位になりました!ありがとうございます!!種類別とはいえ、こんな高い順位に入ったのは小説を書いていて初めてです。とても嬉しい。読んで下さる皆様、そして評価を下さった皆様、本当にありがとうございます!




