もうすぐ3年生。
もうすぐ三年生への進級を控えたこの時期。
学園はどこか浮き足立った雰囲気で満ちていた。
机の上で広げられた教科書のページは、風にそよぐように揺れ、それを手で押さえる。
「ボクさ、三年生になったら教育を学ぶことに決めたんだ。」
その心地よくも強い意思を感じる彼の言葉に耳を傾ける。
「そっか、いいね。クラウは教えるの上手いから。」
私の言葉に、クラウはふっと笑みをこぼした。彼の指が教科書の表面を軽く撫でる。
私は聖女様と魔物対策に取り組むことが決まり、伯爵様もまだまだ騎士として現役。伯爵家の立場は揺るがず、良い方向へ向かっている。
その上で、クラウは進路に悩んでいた。さっきの言葉で道が定まったのだと分かり、私も嬉しい気持ちになる。
「ずっと考えてたんだ。ボクに何ができるって。皆に助けられて、与えられるばかりのボクに。」
「クラウ…」
そんな言い方に心配になり彼の手を握る。
すると、大丈夫!と伝えてくれるように強く握り返してくれる。
「与えられるばかりのボクだからこそ、出来ることがある。与えてもらったものを、今度は与えていけばいいって思ったんだ。まー、貰い慣れてるボクだし?こうしたら受け取りやすいってのもある程度わかるから。」
「だから教育科?」
「そう。父上から教わったことや時間を無駄にしたー…って気持ちがずっとあって。でも、それを無駄にしないのは教わったことを誰かに伝えることだ!って気づけた。」
「伯爵様、喜びそうだね。」
そう言うと、クラウは少し照れたように…しかし嬉しそうに話してくれる。
「父上には、昨日相談したんだ。そしたら突然走って執務室を出ていっちゃって。怒らせた?って思った。そしたら母上が『嬉しい涙流してるからそっとしてあげて』ってフォローにきた。」
「良かったね。」
なんとなくその場面を想像したら面白くて、クラウの笑顔が嬉しくて私も笑っていた。すると、クラウは私の手を優しく握って言う。
「リーシュのお陰。」
「私?」
「チキンの話。凄いって伝えるのに一緒に食べるしかないって。父上の剣や統率力は本当に凄いんだ。尊敬…してるんだよ。それをボクが全てダメにした気分になって、引き継げない自分が許せなかった。でも、それを別の人達に伝えることはできる。」
「ふふっ、はははっ」
「え?、なに?」
「こんな言葉聞いたら、そりゃ泣くよねって思って。」
「もぅ…」
クラウはそう言うと、そっと私を抱き締めた。私の顔は一瞬で熱くなり、頬がカッと赤くなる。クラウはそんな私を見て、くすっと笑った。
「ボクは、卒業したら家庭教師になりたいって思う。」
「貴族の子供達に勉強とか剣術教えるあれ?学校の先生とかじゃなくて?」
「うん。」
力強く頷いて、顔を見る。
「リーシュ、言ってたでしょ?ずっと一緒にいたいって。だから拘束時間の短い家庭教師なの。リーシュに行ってらっしゃい!って見送って、お帰りって言えるように。」
「クラウ~~~っ嬉しい!!」
そうして、今度は私がぎゅうっと抱き締めた。
「ボクは、やっと前に進める。リーシュのお陰。すっっっごい頑張るからさ、見てて。この先も近くで。」
「もちろんだよ!」
私まで伯爵様みたいに泣きそうになった。でも、クラウの「嬉しい!」と思う希望に満ちた気持ちがたくさん伝わってきて、涙より嬉しい気持ちが勝っていた。
そうして三年生に進級した私達。
学園生活最後の年。
私は学園でも、伯爵様からも騎士について学んでいた。将来共に仕事をするのは騎士達だからいろいろ知る必要がある。
3年生になってから、騎士を志す生徒達と同様に学ぶ日々。
しかし、この日は新たな課題に直面していた。
今回の授業は、対人戦。
更には無傷で捕縛する技術の習得だった。魔物を仕留めるのは得意でも、相手を傷つけずに制圧するなんてやったことがない。剣を振るうたびに力加減に迷い、動きがぎこちなくなる。
「っ…またダメだ…」
訓練場で木剣を握り、相手役のクラスメイトに挑むけれど、剣を落とせず逆に押さえ込まれる。汗と土で汚れた顔を上げると、相手が苦笑いで手を差し伸べてくれた。
「相手を傷つけないって意識しすぎて動きが硬いぞ。」
その言葉に、私はうなだれる。
騎士は人の犯罪も取り締まる。ただ強いだけじゃダメ。敵を殺さず無力化する技術が求められるのに、どうしても上手くいかない。そんな落ち込む私を、遠くから見ていたクラウが、軽やかな足取りで近づいてきた。
「リーシュ、ボクが相手役してもいい?」
ピンクの髪を一つに結び、動きやすい訓練着に着替えたクラウが、木剣を手にニコッと笑う。
◇ ◇ ◇




