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可愛い君♂に恋する私は「男装」していると言い出せない。〜男の娘と男装女子はすれ違いすぎる。〜  作者: かたたな


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聖女様との面会。



 この日、私は本当に聖女様と面会することになった。


 そこにクラウと伯爵様も同行すると知らされ、安心と不安が入り交じる。

 私達学生は学園の制服が正装だから…と綺麗な制服を着て行ったのだけど…。



 …行った先で、まさか兄もいるとは!!



「お前、なんだ?その男みたいな服装。」


 聞かれて冷や汗がダラダラと流れた。学園で男装してる家族には隠したい事実がバレてしまう。


「ほら、あれだよ。剣を扱うには…この方が動きやすい…から。でも、私達学園は制服が正装って聞いて…ほら、うん。」

「あー、確かにいざって時にヒラヒラした服装じゃ動きにくいか。」


 そうして、含みのある笑みを浮かべた兄のゼイン。何かを予見してたのだろうか、その話し合いの場は大荒れとなった。大きな会議室にいた聖女様はいい。聖女様との話し合いなのだから。しかし、その場にいた騎士の数の多さと圧が凄い。


 聖女様の隣で、偉そうな人が偉そうに話す。

 それは、聖女様の護衛としての提案だったのだけど…。



「護衛なんて狩人がするわけないだろ。うるさいのは親父だけで十分なんだ。他の誰の下に付くつもりもない。それが、この国でも、聖女様であっても同じだ。」



 提案された護衛役を、兄によってあっさり却下される。



 あー、終わったなぁ…と考えながら、私は涼しい顔を張り付けて、影のように成り行きを見守った。まぁ、兄がこう言うのも分かるほど偉そうだったから。


 騎士たちの間に緊張が走り、形だけ柄に添えられていた手に力が入るのが見えた。ゼインが呼ばれている時点で、こうなる予感はしていた。


 ゼインは狩人としての誇りが高いから。

 更には上の兄達に揉まれ負けず嫌い。


 そんなゼインに、聖女様の補佐官を名乗る人物が聖女様の護衛任務を提案し、拒否されて声をあげた。


「さっきから何だ、その態度は! 聖女様の御前だぞ!」

「そっちこそ。俺は対等な立場で来ているつもりだ。それを聖女様の護衛だ喜べって?ふざけるなよ。」

「くっ!」


 ピリつく騎士たち。しかし、騎士達へも睨みを効かせるゼイン。


「お前らみたいな平和ボケした奴らが、俺を押さえられるってのか?いーんだぜ、やっても。だが王家に長く仕えたいなら止めとけ。手足一本は吹っ飛ばす。」

「…」


 その言葉に、会場は静まり返った。

 相変わらずハッタリが上手い。


 ゼインは面倒を嫌う性格だから争うつもりは無いだろう。実際に争ったなら、こちらだって無傷では済まない。良いこと無い。罠をしかけていないゼインなら尚更なのだけど、彼の縄張りに入って散々な光景を目にしただろう騎士達から、戦意は削がれた気がする。


 代わりに助けを求める視線を感じたけれど、私の視線は聖女様の足元。床を見ている。


 私は妹なもんで、弱い立場なんです。止めることは求めないで下さい。と心の中で謝った。


 すると、すくっと聖女様が椅子から立ち上がる。


「ほらね、言ったでしょ?ゼインさんは無理だって。ごめんね、ゼインさん。みんな私を保護したい気持ちが強すぎて。交渉するって聞かなくて。」

「聖女様がわかってくれてるなら良いんです。」


 ゼインの声は意外に柔らかく、聖女との距離感は気安いものだった。彼女の人徳か、ゼインの親しみやすい一面か、二人の会話はまるで旧知の友のようだ。


 聖女は穏やかに続けた。


「私が長く王都を離れて、魔物に対抗する王都の抵抗力に問題がたくさんあることが分かっているの。想定より加護も弱くなる速度が速かった。私の力も年々弱まってる可能性がある。力も子に遺伝しないみたいだし…。だから、今から国境の狩人達の協力をお願いできないかなって。」

「残念だけど、国境の狩人にそんな物好きはいない。こんな弱い癖に偉そうな奴らばかりの所に仲間を送りたくもない。」

「んー、だよねー。私も無理強いはしたくないし…できない。でも情報共有くらいはなんとかできないかな?って。」


 両手を合わせて、お願い!とポーズを取る聖女様。

 私は思わずゼインのマントを引っ張った。「私がいるよ!」と目で訴える。ゼインはちらりと私を見て、不思議そうに首をかしげた。


「リーシュ、やんの?」


 うん、うんと頷く。あくまでも聖女様とお話中のゼインなので声は出さずにいた。ゼインは一瞬考え込み、聖女に向き直った。


「聖女様、こっちでも良いですか?」

「もちろんだよ!リーシュさんがいいなら助かるー♪今回の功績はすごかったもの。」

「光栄です!聖女様。」


 私が元気に言うと「狩人の誇りはねーのかよ。」と呆れて肘でつつかれた。


「リーシュが、そこの家の人間と婚約したから。王都にずっといると思うし。適任っちゃ適任だが…。」


 親指をくいっ上げて、脇に控える伯爵様とクラウの方を指差すゼイン。


「王都のお貴族様に嫁ぐなら、剣と無縁の茶ばかり飲む生活が出来るのかと思ったんだがなー。違うのかー。」


 そのゼインの言い方には非常に嫌味が含まれていた。全方向へ煽る兄。多分、私が故郷で稽古を嫌がってたことを知っているからこう言うのだと思う。兄からしたら剣を嫌う妹なのかもしれない。


 でも私はムキムキになるのが嫌だっただけ…。

 故郷でモテモテだった華奢な女の子に憧れていただけで…。


「そうね…伯爵家から大切なお嫁さんを借りることにはなってしまうのだけど…魔物対策の指導とか。実際に魔物が現れたら、手を借りたい気持ちは正直あるわ。ほら、私がまた移動しなければならないかもだし?突然力が弱まるとか、緊急時には備えたいの。」


 そうすると腕を組み、難しい表情をするゼイン。

 私も、そのことを深く考えた。


 聖女様がいる今は良い。


 だけど、聖女様に何かあってから対策を考えるのでは遅い。そう思うと、私は今やるべきことは決まっている。


 聖女様はゼインと話を続ける。


「今、私に力があるうちに対策が必要で。騎士が育てばリーシュさんの出番は無くなると思うし。」

「そーならいいんすけどね。」


 何かトゲのある言い方に、私はまたゼインのマントを引っ張った。


「ゼイン。私は結婚するからこそ、魔物対策の手助けになることをしたい。家族が魔物の被害に遭わない場所にしたいから。」


 私の思いが伝わったのか、組んでいた腕を下ろし、はぁ、とため息をついた。


「ここじゃ確かにそうかもな、リーシュが良いなら俺はもう何も言わない。けど、すっげーめんどくさそうな奴らばっかだぞ。ここ。」


 めんどくさそう…それには同意するから何も言い返せなかった。少し呆れたように言うゼインが、聖女様へ向き直り真剣な眼差しで見据える。


「だけどよ、聖女様。昔からの契約で俺らには自由が認められている。わかるよな?」

「もちろん!今後も無理強いはしない。リーシュさんの卒業後は、共に対等な立場で魔物対策を考えて行けたらと思うの。辞めたくなったら辞めて良い。」

「よし聖女様。こいつをあんたに任せたぜ。誰でもない、あんただけにだ。」

「まっかせーなさーい!元社畜の私が良い職場環境を整えるわ!」


 二人でどんどん進む会話。

 恐る恐る伯爵様とクラウの方を見ると、伯爵様は嬉しそうに微笑み、クラウは少し難しそうな顔をしていた。




◇ ◇ ◇

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