空っぽの部屋。
寂しい…
私のそんな気持ちが顔に出ていたのか、クラウがふと立ち止まって、私の顔を覗き込む。
「リーシュ、どしたの? なんか…落ち込んでる?」
彼の声は少し心配そうで、私は慌てて笑顔を作ろうとするけど上手くごまかせなかったみたいだった。
「ううん、…ただ、『今度』って、いつかなぁって。」
私が小さな声で呟くと、クラウは一瞬目を丸くして、それからくすっと笑う。
「そんなに落ち込まないの!」
そう言うと、クラウは私の頬を指先で撫でる。その感触に彼の顔を見る。月明かりに照らされた彼の瞳は、いたずらっぽくどこか優しい。
「婚約者が部屋に来るってさ、準備がいるっしょ?一大イベントなわけよ。」
「準備って…エッチな本隠すの?」
言ってみると、さっきまで子猫をくすぐるように優しかったクラウの指が、私の頬をつまんだ。
「リーシュのエッチ! そんなん言うんだったら寮の部屋入れないよ?」
クラウの顔がちょっと赤くなって、ムキになって言うから、私は慌てて手を振る。
「冗談! 冗談だって!」
「いや、絶対本気だったっしょ? 何の影響なのさ、それ。男の子の部屋に不用意に入ったりしてないよね?」
クラウは私の頬を解放して、腕を組んでジト目で私を見る。
「にーさん達がよく、恋人連れてくる時、エッチな本を私の部屋に隠してたから。反射的にそう思っただけで、クラウを疑ったとかじゃなくて。」
家の物置に隠せば両親に見つかってしまう。だから私の部屋に一時的に隠させてくれ!!とよく箱に入って封印されたソレがベッドの下に押し込まれたものだ。
私の言葉に、クラウは一瞬ポカンとして、それから吹き出すように笑い出した。
「ははっ! なにそれ。可哀想なんだけど!」
彼は腹を抱えて笑いながら、私の肩をポンと叩く。
「でも、クラウがもしそんな本持ってても好きなのは変わらないから。」
「そんなところ寛容にならなくていーの!」
そう言いながら、また私の頬を軽くムニッとつまむ。今度はさっきより優しくて、なんだかその感触に胸がドキドキする。こんな軽口を言い合ってるだけで、心のモヤモヤがふわっと消えていく。クラウの笑顔を見ると、さっきの「今度」がそんなに遠くない未来だって、なんだか信じられる気がした。 寮の入り口に着くと、クラウは私の手をそっと握って、ニコッと笑う。
「じゃ、おやすみ、リーシュ。今度、ちゃんとデートしよっ。」
「おやすみ、クラウ。楽しみにしてる!」
私は笑顔で手を振って、離れるクラウの背中を見送った。部屋に戻っても、クラウとのやりとりを思い出して、胸が温かくなる。ベッドに寝転がって、デートを想像しながら、幸せな気持ちで目を閉じた。
そして後日。
私達は、デートとして街へパンケーキを食べに行った。
もちろん、ちゃんと本来の性別の姿で。そうしたら「2回目ご来店記念のうさちゃんマスコット用アクセです♪」とマスコット用のグッズを渡される。
互いに顔を見合わせると「食器は一組で良さそうですね♪」なんて余計な事を言って去っていく。
あのパンケーキ屋はただのパンケーキ屋ではない気がした。
その後は念願のクラウのお部屋に行ったのだけど、ただ楽しく勉強てし終わり。部屋だとさすがの私も妙に緊張して気を紛らわそうと勉強に励んでしまった。無念。
「じゃっ、時間も遅くなってきたしリーシュを部屋まで送るよ。」
「ありがとう」
そう言って教科書を片付けていると、クラウは何故か不服そうにコチラを見た。
「リーシュは、自分の部屋にはボクを呼んでくれないんだ?ちょっとお茶でも〜とかさ」
「あぁ…」
そう言えばそうだな…と思うのだけど…。彼にとって私の部屋は厳しい気がしてならない。
「入っても良いんだけど、何もないよ?魔物の核も全部売ってしまったし」
「リーシュの部屋の見どころは魔物の核なの?」
話しながら私の部屋に行くと、クラウは「ほんとに何もないんだけど!!」と言っていた。
物を増やすと引っ越しが大変だから。…改めて部屋を眺めると、もうすぐ3年生になるんだ…と楽しかった2年生の期間を思い出した。
◇ ◇ ◇




