二人の朝
朝の光が、カーテンの隙間から柔らかく部屋に差し込む。
クラウの部屋は、昨夜の甘い空気がほのかに残り、甘い香りに包まれている。ふかふかのベッドに包まれた私の身体は、温もりと安心感に満たされていた。
そっと目を開けると、すぐ目の前にクラウのピンクの髪が見える。私が寝ている間に彼の頭をしっかり抱え込んでしまっていた。クラウの顔を少し覗くと長い睫毛が静かに揺れている。穏やかな寝息と、無防備な表情で私の胸元に頬を寄せていた。
可愛い。
クラウの温もりが私の手を握ったまま、確かにここにある。
よし。
このまま二度寝しよう…おやすみなさい。
と、思っていたら…クラウの睫毛が小さく揺れ、ゆっくり目が開く。
「ん…」
寝ぼけた声が、かすかに甘く響く。クラウが目をこすりながら、私をぼんやり見つめた。
「おはよう、クラウ。」
「おはよー」
私が小さく笑いながら言うと、クラウの目をしっかりと開く。そして離れようとする頭。私は離すまいと力を込めた。
すると、一旦離れたクラウの顔は、私の胸にポフンと戻ってくる。さっきより胸に顔を埋めた状況となった。
顔を胸元に埋めてるから見えないけれど、その耳はみるみる赤くなり、もぞもぞと動くのが少し気持ちいい。
「リーシュ、近いっ!離して、これはまずい。」
距離を取ろうとするけど、私は逆に身を寄せる。夜着の薄い布越しに、クラウの体温がほのかに伝わり安心感がいい。部屋の甘い香りと朝の静けさが、すべてを特別なものに感じさせる。
「離したらベッドから出ようとするから。離さないよ。」
ぷはっ、と私の胸元から顔を上げて、クラウが小さな声で抗議する。
「今日は学校だよ、起きたなら準備しないと。」
「やだ…行きたくない。クラウとベッドにいたい。」
クラウが本気で抵抗するなら離すのだけど、それをしない。こちらの要望を聞こうとする姿勢がありがたい。その姿勢に甘えてそっと握ると温かい指先が私の手と絡む。
寝起きでフワフワの彼に我慢できず、頬にそっとキスをする。柔らかい肌に唇が触れた瞬間ビクッと震え、私を見た。
「り、リーシュ! 朝だから…!」
「朝だから、だよ。今しか独り占めできないのに。もっと一緒いたい。離れたくない、クラウの婚約者になったんだもん。」
クラウの紫の瞳が照れと戸惑いが混ざった表情で私を見つめる。すると、クラウが私の肩を押してベッドに押し倒す。背中がふかふかのマットレスに沈み、クラウの顔がすぐ近くにくる。ピンクの髪が私の頬をなで、甘い香りが濃くなる。
「リーシュって、こんなワガママ言うんだ?」
クラウの声は低く、熱を帯びている。
紫の瞳が私の目を捉え、心の奥まで見透かすようだ。クラウの手が私の肩を押さえたまま、そっと髪を指先で梳く。柔らかい感触に、目を閉じる。
「だって、ずっと、すごく好きだった。」
今まで押さえ込んできた気持ちが溢れて行き場を失っている。そんな私を見てクラウの表情がふっと柔らかくなる。
肩を押さえた手が緩み、代わりに私の頬にそっと触れる。指先が唇の端をなぞった。
「うん…ボクもリーシュが好き。」
クラウが小さな声で言うと、そっと私の額に唇を寄せる。軽いキスが、温かく、優しく、額に残る。口にはまだくれないんだな…と思う。
「クラウ…お休みしよ?ね?」
「だーめ。このままじゃ、ボクらダメ人間になる。」
私が言うと、クラウがくすっと笑う。朝のクラウはなかなか色気がある。
「ダメになりたい。」
「甘えん坊だね。クールなリーシュはどこ行ったの?」
「家出して、故郷に帰った。」
「呼び戻して来てくれる?そのリーシュも、ボクの大好きなリーシュだから。」
「…浮気だ。」
「全部リーシュなのに?」
クラウの声は甘く、クスクスと笑う声がする。
「大好きなリーシュ。どーしたら学校行く気になってくれる?」
「…」
クラウが額を私の額にくっつけて囁く。紫の瞳が近くて、私だけを見ているようで、胸が熱くなる。
「こうして諭されてると、クラウってお兄ちゃんなんだなって感じる。」
「ボクも、駄々こねられて、リーシュって妹気質だなって思った。」
私はクラウの髪をそっと撫で、微笑む。
「ボクもリーシュとこうやってたいよ。でも、学校でリーシュのこと、みんなに自慢したいんだ。ボクの婚約者、最高に可愛いって。」
クラウの言葉に、ガバッと起き上がった。そうだ!私はクラウの婚約者だって、胸張って言えるんだ。
「学校行く!!」
クラウにぎゅっと抱きつき、胸に顔を埋める。
「じゃあ、準備しようか。リーシュの可愛い制服姿、早く見たいし。」
「私が可愛い制服を着てくの?」
「嫌じゃなければね。ボクの貸したげる。」
クラウが私の髪を撫でながら言う。
「やったぁ」
今日から女だと堂々としても良いんだ。
そして婚約者がいる、私の憧れた学園生活が始まるんだ!
このベッドから出たくないと思っていたのに、私は上手くクラウに乗せられて、あっさりベッドから降りた。
「着替えたら、髪、やろっか。」
「いいの?嬉しいな。」
ちょろい私を眺めながら、それでも呆れることのない婚約者の姿に幸せいっぱいで学園の身支度をした。
◇ ◇ ◇




