女の子だと確かめて
クラウの体が、まるで熱い何かに触れたみたいにビクッと跳ね上がった。
私の胸元に視線を落としたまま、彼は金縛りにあったみたいに硬直してる。
「た、確かめるって……何を!? どこを!? っていうか、今の発言は色々とアウトだから!!」
クラウは顔を真っ赤にしながら、バッと私の肩を掴んで少しだけ距離を取った。けれど、その指先は微かに震えていて、紫の瞳はどこを見ていいのか分からず激しく泳いでる。
「……ダメだよ。今日は絶対にダメ。だって、ボクの中でまだ整理がついてないんだ。ついさっきまで、君のことは『男の子』だと思ってたんだよ? それが、急にこんな……大混乱なんだよ…」
クラウは言葉を切り、改めて私の夜着姿を上から下まで、今度はまじまじと見つめた。そして、すぐにまた「うわぁっ」と両手で顔を覆って仰向けにひっくり返る。
「……あんなボクの色で、可愛い姿になってるし。正直、ボクの脳内は今、情報過多でパンク寸前なんだ。こんな混乱した状態で『初夜』なんて済ませちゃったら……」
彼は指の間からチラリと私を見やり、消え入りそうな声で続けた。
「もったいない…」
もったいないとは。私が首を傾げると、クラウが補足するように言葉を続ける。
「……一生に一度のことなのに。もっとちゃんと、ボクが『女の子としてのリーシュ』をしっかり受け止めて、心の準備ができてからじゃないと……ただ、いっぱいいっぱいで終わっちゃうじゃんかぁ…」
言い分がクラウらしいというか…。
「じゃあ…早く慣れてもらわないとね」
「っ、リーシュ!?」
そう言ってから、彼に触れないように気をつけながら覆いかぶさる。この体勢なら嫌でも私が女だと実感する事だろう。彼の目の前には女性特有の肉付きがあるから。
クラウが息を呑む音が、静かな部屋にやけに大きく響いた。
私の髪が彼の頬にさらりと触れて、そこから火がつくみたいに、彼の顔がさらに赤く染まっていく。
至近距離で見つめ合うと、クラウの紫の瞳が潤んでいて、私の姿をいっぱいに映しているのがわかった。
「……っ、ちょ、リーシュ……近い、近すぎるってば……!」
「実感するために触ってみればいいじゃない」
彼は逃げ場を失ったみたいに枕に深く沈み込んで、私を押し返そうとするどころか、所在なげに宙を彷徨わせていた手を、ぎゅっとシーツに食い込ませた。
「そんな…無理ぃ!」
「クラウだって、私の手を取って胸に押しつけたじゃないか」
わざと顔をさらに近づけて、耳元で悪戯っぽく囁いてみる。
すると、クラウは「ひぅっ」と情けない声を漏らして、ぎゅっと目を閉じた。
「……女性の胸は、男を狂わせる力を持ってるんだよ!」
「狂ってくれてるの?」
「見ればわかるでしょ!」
震える声でそう言うと、彼は意を決したように目を開け、シーツを掴んでいた手で、そっと私の腰のあたりに触れた。
薄い夜着越しに伝わるその手のひらは、驚くほど熱い。
「……今日はここまで。お願い。これ以上は、本当にボクがボクじゃなくなっちゃう。……今日はこのまま、ボクの隣で大人しく寝て?」
懇願するような、少しだけ掠れたその声。
どうやら、これ以上煽るのは本当に危険かもしれない。
私は「ふふっ」と笑って、彼の体から降りて隣に転がった。
「そっか。これだけじゃ私に慣れないか」
「慣れるわけないでしょ! 急に可愛い婚約者が現れて、いきなりボクのベッドにいるんだよ!? ……あーもう、本当にどーかしてる……夢なのかな」
クラウは枕に顔を埋めてジタバタとしていたけど、やがて諦めたように「はぁ……」と長い溜息をついた。
「手を繋ぐだけ。いいね? これ以上煽ったら、ボク、明日から君の顔をまともに見られなくなるからね」
「わかった。じゃあ、今日は手だけで我慢する」
「よし、いい子」
そう言って、隣で寝転ぶ私の頭を撫でた。
「我慢できなくなったら、いつでも来て」
「その言い方……。まあ、いいけどさ」
クラウは苦笑いしながら、さっきよりも少しだけ強く、私の手を握り締めた。
私は繋いだ手の温もりを確かめながら、このもどかしくも甘い時間をもう少しだけ楽しむことにした。
◇ ◇ ◇
今日も3話は投稿できそうです。可能なら4話投稿したい…。今日もよろしくお願いします。




