プロポーズ
「リーシュ!?どこ行くの!」
「どっか…雰囲気が良いところ!!」
クラウの腕を掴み、少し走って、回りを見渡して、それでまた少し走った。
くそぅ!!伯爵家のお庭はどこもロマンチックで綺麗だから迷う!!
ええい!!ここだ!!とやってきたのは、夜会の会場近くで素敵に飾り付けされた庭だった。既に人が集まりきった会場からもよく見える素敵な場所だ。
もうここしかない。
「ありがとう、クラウ。私からもちゃんと言わせて。」
何か警戒を滲ませる視線でこちらを見るクラウ。そんなクラウの手を優しく引いて、だいぶ暗くなってきた辺りを見渡しながら夜会会場の灯りが一番綺麗に照らす場所まで歩いて来た。
夜会会場ではそれぞれ歓談と音楽を楽しんでいて、こちらを気にする人はいない。今のうちだ!!
薔薇の咲き誇る庭園には、いまだに私達二人が存在するだけ。それは幻想的でとてもロマンチックな舞台がここに整っていた。
クラウの前に膝を着くとドレスがフワリと整えられた草の上に広がる。ドレスにこっそり忍ばせていた魔物の核。取り出すと、大きな魔物の核を手に、まっすぐクラウを見た。
それは夜会の明かりに照らされて、手のひらに赤い炎を収めたと錯覚するほど神秘的に輝く。この魔物の核は光に照らされる方が美しいから少しでも明るい場所へ来て見せたかった。
夜会の会場から聞こえる音楽がさらに優しく私達を包んでくれるような気がした。私は軽く深呼吸してから、彼に向けてしっかりとした声で語りかける。
「貴方を守り、災いを払う剣として、この通り私はとても優秀で役に立ちます。貴方のためならこれ以上の敵だって恐れることはありません。」
「え、リーシュ??急にどうしたの?」
困惑するクラウの反応に少しだけ笑いそうになるのを堪えて、私は言葉を続けた。
「だから、どうか貴方に寄り添うことをお許しください。この命は貴方のものです。しかし、もし、貴方が私を愛してくれるなら、何倍もの愛を生涯捧げます。だから、どうか。貴方の隣に立ち共に歩むことを許して下さい。愛しています、クラウ。」
笑顔で魔物の核を差し出しながら言い終えた。しかし、クラウの困惑が見てとれる。だからこそっと補足する。
「私達、国境の狩人に古くから伝わるプロポーズ。どうかな?」
「!?プロポーズ!?これ、魔物の核だよね?売ったらスッゴい高そうなんだけど!?」
「うん、高い。三年間の学費くらい。」
「…貰って…いいやつ?」
「貰ってくれないとプロポーズ失敗になる。貰ってくれたら売ってもいいよ。それはクラウに送ったものだから」
「いや、売らないし!?じゃ、じゃあ…貰う。絶対貰う。絶対返さないけどいいの?」
「いいよ。」
クラウは私の手からそれを持ち上げる。すると「重っ」って言いながら大切そうに両手で包んだ。プロポーズって成功すると分かっていても緊張するんだな…と軽く息を吐いた。
「クラウ、ここからは私の素直な気持ち。」
「ええ!な、何!」
さっき渡した魔物の核を、返さないからね!とでも言いたげに抱き締めるクラウ。まだ私の気持ちが完全に伝わってない気がした。
「クラウ、謝らなきゃいけない。」
「…」
「クラウにとって『良い男友達』でいようと思ってた。でも、実はクラウが男性って知った時から…意識しちゃって、本当の意味で友達ではなかった。」
「…それって…。」
「ずっと前から、クラウが好きだった。」
言葉を口にするのはとても恥ずかしい。ドキドキと高鳴る心臓を必死で押さえても治まる気配なんてなかった。だけど、クラウに確実に気持ちを言葉で届けなければ、という一心で彼の瞳を見る。
クラウは目を真ん丸にして驚いていた。
「うそ…」
「今嘘なんて言わないよ。」
「え!?だって、そんな…いつから!?」
「二年生になって、クラウがみんなの前で男だって言った辺りから?」
「はぁ!?結構気づくの遅くない!?それまでボクを女の子だと思ってたの!?」
「だって、クラウ可愛いから…」
そうしていると、会場の方で大きな拍手が聞こえた。「夜会が始まったのかな?」とそちらを見れば、招待された皆がこちらを温かい眼差しで見ている。その中にはもちろん、伯爵様と夫人の姿もあり、その後ろでクラウの妹が、ぐっと手を握って瞳をキラキラと輝かせていた。
「みんな見てたの!?どこから!」
「公開プロポーズしちゃった。」
「っは、わ!!嘘!?」
私はクラウの手を握り、照れるね?と笑う。クラウは男性らしい格好をしているのに一瞬頬を膨らませた姿は、いつもの可愛いクラウだった。
私達は胸の奥で高鳴る喜びを感じながら、屋敷の光輝く会場へと足を踏み出す。
クラウと伯爵様の計画した婚約発表は、私の公開プロポーズにより「伯爵家の息子が、聖女様の不在時に成果を上げた学生から猛アプローチを受けて婚約となった。」なんて噂を広めることとなる。
夜会の音楽が再び流れ始め、ゲストたちが再び歓談に戻る中、私たちは両思いだったと知るきっかけとなった。
そして、その夜。
伯爵様の侍女達に導かれるまま、やけに念入りに洗われた。その後、やっと通して貰えた部屋は客室と言うより誰かの部屋?という雰囲気を醸し出していた。
「間違いでは、ありませんよね?ここで寝てもいいんですか?」
念のため、そう確認すると。
「もちろん、間違いではありません。」
とにこりと微笑まれた。
だって、この部屋。
ほのかに、クラウの甘い香りがする。
◇ ◇ ◇
昨日、操作ミスで1話多く投稿してしまいました。今日はあと1話投稿予定です。




