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可愛い君♂に恋する私は「男装」していると言い出せない。〜男の娘と男装女子はすれ違いすぎる。〜  作者: かたたな


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着飾る婚約者。


 クラウの腕の中で、時間が止まったかのように感じていた。


 彼の温もりと、強い力で私を抱きしめる感触に、心臓がドクドクと鳴り響く。


 いつもは女の子のような可愛らしい服装のクラウが、今日は婚約発表のために男性らしい服装をしていた。

 濃紺の上着には繊細な刺繍が施され、すっきりとしたシルエットで大人の雰囲気を感じる。胸元にはシルクの白いシャツが上品に収まり。普段、可愛いく編まれるピンクの髪は、ひとつにスッキリと纏められ、男性が身につけるシックなリボンが飾る。


 私の理想がそのまま出て来たのかな??本当に夢の世界なのでは!?と驚くほど綺麗で格好いい男性の姿がそこにあった。私の頬が熱くなり、言葉を忘れてしまう。そんな私の視線に耐えかねたのか、ほんのり頬を赤くして視線を逸らす。


「足、捻ったりしてない?」

「あし?」


 紫の瞳が私をじっと見つめている。その真剣な目に、心臓がさらにうるさくなる。


「う、うん、大丈夫みたい。ありがとう。少しびっくりして…。」

「ビックリしたのはこっちなんだけど…」


 私はなんとか声を絞り出し、ドレスの裾を握りしめた。

 自分の声がちゃんと届いているか不安になる。クラウは私をそっと立たせると、ほっとしたように息をついた。


 私たちは向き合う形で立つけれど、クラウの手は、まだ私の肩に軽く触れたまま離れる気配がない。


 彼の視線が私のドレスを、結い上げられた髪を、そして顔を何度も行き来し、まるで信じられないものを見るように私を見つめた。


 紫のドレスが夕陽に照らされ、胸元の谷間がほのかに強調され、慣れないスースーする感覚と視線に恥ずかしくなって視線を逸らす。


「本当に、リーシュなんだよね?」

「そうだけど…。クラウ、とても似合っているね?格好いい!」


 互いに変わりようが劇的すぎる。


 私はその視線に耐えきれず、頬を両手で押さえながら小さく笑った。けれど、クラウは真剣な眼差しで私の肩に手を置いて覗き込む。


「リーシュ…縮んだ?」

「普段はもう少し底の厚い靴を履いているから。」


 ドレスの裾から少し足を出せば、高いヒールには慣れない私でも履けるヒールのほとんどない靴が顔を出す。せっかく配慮して貰ったのに石の上で滑ってしまったけれど。


 しかしクラウの表情はどこか真剣で、肩に触れる手に力がこもった。


「正直に話して欲しいんだけど、父上に…女の子になる薬飲まされたとか?…それとも禁術で?」

「そんな物騒なことはないよ。」

「じゃあ…父上に強要されて女装させられてる?」

「伯爵様への疑いがすごい。」



 伯爵様は息子のためならそれほどの事をやらかす可能性を秘めているのだろうな。



「私は、最初から女なんだ。今まで誤魔化して…ごめんなさい。」



 そう改めて言うと、彼は本当に信じられないと言うように私を見る。


「あんなに強いのに!?」

「それは、ごめん」


 なぜか謝ってしまった。強い女性なんて嫌だろうか…。視線を泳がせるけれどクラウから落胆の空気は感じられなかった。


 むしろ…


「凄い…めっちゃ凄いよリーシュ!?」


 褒めるような?喜びのような響き。ひとまずホッと胸をなで下ろした。もっと早く言えばよかった…と思うけれど、私からすると言えるタイミングなんて無かった。男友達を求めていて、更には婿を希望していると思っていたから。


「嫌になったりしない?」


「『言ってよ!!』とは思う。でも嫌になるわけないじゃん…驚いたけど、こっちは…もう、生きてて良かった!ってくらいドキドキしてんの。」

「そっか、良かった。」


 私は、彼の背中に手を回して、好きと伝えるように力を込めた。



「今のクラウは、かっこいいね。いつもの可愛い姿も好きだけど。」

「ホントに!?やった!」


 私の言葉に、すぐに照れくさそうに笑った。


「リーシュにそう言ってもらえるなら、頑張った甲斐があった…」


 彼はそう言いながら、髪をひとつに纏めるリボンに触れ、はにかんだ笑顔を見せる。その仕草があまりにも好青年で、胸は更に熱くなった。格好いいのに、笑ったらいつものクラウで、その差にドキドキとしてしまう。


「…この後、みんなの前で婚約発表になるけどいい?」

「うん。でも…」

「でも?」


 少し心配そうにこちらを見るクラウ。


「髪…乱れてないかな。」

「なんだ…そんなこと?」


 たくさん歩き回って、池に落ちそうになって、強く引き寄せられて…。せっかく綺麗に整えて貰った髪が急に心配になった。


「じゃー、ボクが結うよ。あっち向いて座ってくれる?」

「いいの?ありがとう。」


 私は素直に座ると、クラウに背を向けた。


 視線の先にはちょうど池があって、今もその魚はパクパクと口を動かして優雅に泳ぐ。


 髪を彼に預けながら、私は手探りで木の実を見つけ、ポイっと池に投げた。


「あまりご飯あげないで。」

「っぁ、そうだよね、ごめん。とても良く食べるから…。」

「そーなの。その子、いろんなの食べるからダイエット中なの。」



 美しい魚さんの思わぬ事実を知った。




 ◇ ◇ ◇



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