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可愛い君♂に恋する私は「男装」していると言い出せない。〜男の娘と男装女子はすれ違いすぎる。〜  作者: かたたな


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庭を散策する。


 伯爵家で、一通り話しを終えたあと。


 罪悪感があるのか…夫人はとても友好的な姿勢だった。悪い事を想定していて、普通のが来たら良く思える現象だろうか。もともと夫人が友好的な人間の可能性もある。どちらにせよ、この初対面の結果は悪くないようにも感じる。


「クラウもやっと婚約者を決められて良かったわ。騎士になれないと諦めてからのあの子は、一時期…とても荒れていたものだから。」

「そうですね、見ていられないほどでした…」


 そんなに辛い思いをしていたのか…と二人の表情から伺える。昔あった『兄の反抗期』は洞窟に籠る猛獣のようだった。クラウだって男の子なのだから荒れたら大変だったんだろうと容易に想像ができる。


「あの頃のクラウは『自分はもう女の子として生きる…』なんて言い出して女の子だと思い込もうとしていたものね。」

「お兄様の可愛さに磨きがかかっていった時期ですね」



 ちょっと反抗の仕方が思ってたのと違った。


 その光景を思い出したのか、クラウの妹は目を伏せる。


「元はと言えば、私のせいなのです。幼い頃…緊張で、私にあまりにもお友達が出来なくて。お兄様が『練習相手になってあげるよ』って言って私のドレスを着たのです。それがあまりにも可愛らしいお姿で」

「いいえ、貴方だけのせいじゃないわ。私も『とても可愛い』と一緒に楽しんでしまったもの」


 親子揃ってクラウが大好きだな…と思った。


「でも、ちゃんと女の子の婚約者が見つけられてホッとしているのよ?私はまだ価値観の古い人間だから…」


 そう言うと、夫人は私に優しい視線を向けてくれた。その優しい表情に、こちらも自然と笑顔になる。しかし、妹の方はポッと頬を染めた。


「私は…少し、ほんの少しだけ、ドキドキしました。お兄様の選んだお相手が男性と聞いて…。お兄様はやっぱり男性もいけるのね?って思ったら…」


 頬に手を添えて恥じらう仕草を見せる。

 

 若い子は適応力があるな。


 でも、私が性別を隠していたせいでクラウの妹が目覚めそうではある。


 こうして彼女達の誤解がスッキリと解け、一息ついた私は、更に別の部屋に通された。そこで待っていたのは、まるで魔法のようなお仕度の時間。


 侍女たちが私の黒髪を大人っぽく結い上げ、紫のドレスを着せてくれる。露出は控えめなのに、胸元が美しく強調されたそのドレスは、クラウの瞳の色を思わせる深い紫色。


 鏡に映る自分が、まるで別人みたいだった。そんな私の緊張が伝わったのか、少しお話に付き合ってくれる皆さん。


「旦那様は『女性』だとおっしゃいますし…クラウ様は『男性』だとおっしゃいますし…私共も大混乱で二着の衣装を用意したのですよ?」

「ごめんなさい…」

「いいのです。私共は『どちらが来るか』で賭けて楽しんでおりましたから。私はなかなか良い取り分を得ました」


 楽しんでくれたようで良かった。「女性」が来る方に賭けた彼女が良い取り分を得たなら、クラウの主張のほうが信頼度が高かったということか…。クラウは信頼されてる…と見るべきか伯爵様の言葉足らずがいつもの事なのか…。


 考えながらしばらく食い入るように鏡に写る自分を眺める。すると、テキパキと後片付けを終えた侍女が提案をしてくれた。


「パーティーまで時間がございます。明るいうちに、お庭をご覧になられますか?薔薇が見頃ですよ。」

「このドレスを着たまま出歩いてもいいのですか!?」

「もちろんでございます。」


 お屋敷の人達は、作法も何も知らない私に優しく丁寧に接してくれる。まるで自分がお姫様になったように思えてドキドキした。


「…クラウに挨拶はできませんか?」


 そう言うと、少し表情を曇らせた。


「今…どこにいらっしゃるか分からないのです。奥様と言い争いになってからは、部屋に籠もっていらっしゃったのですが…。今はどこにも見当たりません。お支度は済んでおりますから、夜会は問題なく行われると思います。」

「そうですか…」


 ならば…お言葉に甘えて庭を歩く事にしよう。歩き回っていれば見つけられるかも知れないから。


 私は庭へ案内されると、そこには夕暮れの光に照らされた薔薇が咲き乱れる庭が現れた。


 まるで絵画のよう。噴水の水音、そよ風に揺れる花々。


 まるで夢の世界。


 更に歩けば小さな池もある。その池を覗き込むと、ソレに目が奪われた。今までに見たこともない美しい魚がいる。


「君、とても綺麗だね?」


 お屋敷の人は、夜会の準備に行ってしまった。今は私1人。周囲に誰もいないのをいいことに、泉の中で優雅に泳ぐ魚に語りかける。


 少し、物語のお姫様気分を味わいたくなったから。人がいたら到底出来ない。


 魚は今も、光の当たる角度で色が七色に輝きヒレは長く、透明だけど徐々に赤みを帯びて美しい。


「名前を教えて…?」


 なんてね…。そこまで言葉にするとさすがに恥ずかしくなった。でも物語の登場人物って、動物と話しがちだから少しやってみたくなるんだ。


 すると。


 優雅に泳ぐ魚がこちらを向きパクパクとお口を開きながら近づいてきた。言葉が通じたのかな?


「なに?魚に話しかけてんの?」

「!!」


 その魚は、こちらを見た後、池の水をちゃぷん!と少し蹴飛ばす。そして元気にどこかへ行く。そしてパクパクと戻ってくる。


「魚が…喋った。都会の魚は喋れるの!?」

「そんなわけないでしょ。」


 すいすいと戻ってきた魚を食い入るように見る。「そんなわけない」と言う声はじゃあどこから?

 

 声はクラウに似ている。人間の声を模倣するタイプの魔物か?…いや、もしかすると、クラウが周囲にいる?


 そう思うと、立ち上がった。早く会いたい。あと、女性である事を黙っていた事を謝りたくて。そして…誤解を解きたくて。色んな思いで気持ちが急いてしまい、今いる場所が不安定で、動きにくい服装をしていることを一瞬忘れてしまった。



「わっ!!」



 その時。




 池の水で濡れた石畳に靴が滑り、視界がグラリと傾いた。



 今、ドレス用の靴を履いてるんだった!!


 借り物のドレスなのにっ!



 不注意を後悔した。



 その瞬間。



 強い力で引っ張られる。

 私の目の前には、魚さんが水面を蹴った水しぶきが舞う。それなのに私に触れることなく雫は地面へと落ちてく。


 後ろに転びそうなほどの勢いでひっぱられたのに、痛みは今なお訪れず、私は温かい何かに包まれていた。


「危なかった…」

「…」


 少し、動きを止めた後、視線を上げるとさらりとしたピンクの髪が頬をかすめた。


 ぎゅうぎゅうと締め付けられながら、後ろを見ると。



「クラウ??」

「うん。」



 私の体を大切そうに抱えるクラウの姿があった。


 


 ◇ ◇ ◇

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