クラウのお母様と妹。
聖女様が帰還し、マルーナさんの問題も兄が解決。ただ見守っただけなのに、5着も素敵なお洋服を貰い、遊ぶ約束もできた。
私だけ得しかしてない。
仕立て直しを待つ間、マルーナさんの屋敷でボードゲームに興じ、彼女の家族と語らい、魔物の核を売って戻ってきた兄も交え、賑やかな夕食のテーブルを囲む。その席で、兄が今回の魔物騒動の裏側を語ってくれた。
「聖女様が現れてから。王都の土地の歪みで魔物の発生源が生まれても、蓋をした状態だったんだろうな。その蓋である聖女様が移動したことで王都内の地上に出てきた。再び聖女様が戻ってきたことで地上に出た普通の魔物は消滅する。だけど、液状の魔物だけは物や地面に溶け込み生き延びた。マルーナちゃんが、今回俺に相談しなければ、この屋敷を拠点に王都は終わってただろうな。」
「なにそれスゴい。」
兄と友人が、人知れず王都を救ったのだと思うとワクワクする。まるで物語の主人公みたいだ。
マルーナさんのご家族も、少し誇らしげにゼインの話を聞いている。それは、今後は我が家の武勇伝だな!とか言いたげな表情。私もそんな兄と友人が誇らしい。
その夜は、マルーナさんのお屋敷で至れり尽くせりのおもてなしを受けた。
広々とした大理石の浴室で、薔薇の香りに包まれながら温かいお湯に浸かり、髪を丁寧に手入れしてもらった。ふかふかのベッドに潜り込むと、まるで雲の上で眠るような心地よさに包まれて、すぐに夢の世界へ落ちていく。
幸せ。
次の日には、ゼインと魔物の核を売りに行き。国からの報酬も入った。
ゼインがマルーナさん家族に気に入られ、王都滞在中はマルーナさんのお屋敷にお世話になることが決まり。
さらに次の日には貰ったお洋服を着て、マルーナさんと街へ遊びに出掛け…。
…
その間、クラウからの連絡は無く…。
寮の彼の部屋を訪ねてみたけれど、帰ってないらしく応答が無かった。国からの手紙も、私が書いた手紙もドアの下に差し込んだままとなっていたので、自分の手紙だけ回収して戻る。あの後からずっと伯爵様のお屋敷にいるのだろうか?
「寂しい。」
それでも、なんだかんだと楽しく過ごす努力をした。学園が始まれば会える…と良い方向に考えようと努力する。
クラウに会えないまま、休み最終日。
朝起きると、最後は学園の準備だけ終えたらゴロゴロして過ごそうか…などと考えていた。
顔を洗い、歯を磨いて、朝食を何にしようか考えていると、ドアの下の隙間から差し込まれたその存在に気が付いた。
見たこともない上品な封筒。
白い紙に金色の箔押しが施され、封蝋には伯爵家の紋章が刻まれている。こんな豪華な手紙が私に届くなんて、想像もしていなかった。
丁寧に封を開け、内容に目を向ける。
要約すれば、伯爵様が同僚や親戚を集めて小さな夜会を開くそうで、そこに私を招待したいという内容だった。しかも、衣装は伯爵様が用意してくれるという。
だから、当日は早めに来るように…と。
…!?
貴族の夜会!!
これってつまり、クラウのご家族に挨拶と…伯爵様のお知り合いや親戚にも会うことになるんじゃないかな!?
しかも、今日!!急過ぎないかな!?
でも、でも!こんなの、すごい!。
気分が高まり手紙を握りしめた。こんな夢のような機会が、訪れるなんて。胸が高鳴り、思わず部屋の中で小さく跳ねる。
それと同時に、マルーナさんからの助言も思い出す。彼女が、今までで一番真剣な瞳で言ってくれた助言。
「伯爵様のお屋敷に行くのなら、必ず女の子のお洋服で行くこと…。胸が強調されるもので、ですよ?そして学園の身分証明は必須ですわ」
身分証明も必要なんて、貴族ともなると警備が厳重なのだろう。
クローゼットを静かに開けると、美しい洋服がぎゅうぎゅうになって並んでいる。可愛らしいご令嬢が「少し街へお出かけしましょう♪」という時に着るようなお洋服。
「どれを着ていこう。」
こうして洋服に悩むのは楽しい。
…
この服を着て伯爵様のお屋敷に向かえば、私はクラウに『女の子』だと伝わるのだろう。
そう思うと緊張が増してゆく。
クラウは男としての私を求めているかもしれない。でも…そうだったとしても婚約は婚約だ。伯爵様は女性と知っていて私を迎え入れた。なら…女だとクラウが知った所で、その決定は変わらないだろう。
クラウを契約で逃れなくした上で、女だと明かすなんて…卑怯かも知れない。でも、言おう言おうと思ってた機会が来たんだ、と気合いを入れるように手を握った。
もし、受け入れられないと言うなら…私は一生伯爵家の為に働いて恩を返そうと思う。
「よし!行こう!伯爵家の犬になるつもりで!!」
例え犬でも彼の傍にいたい。
私は、腹を括り伯爵家へと向かった。
しかし、そこからは衝撃的な出来事のオンパレードだった。
門番に、招待状を見せたら疑われ。本人確認が取れると慌てて屋敷へ走ったかと思えば、今度は怖い顔をした伯爵夫人が現れた。その後ろをクラウの妹と名乗る子がついてやってきた。
二人は、頭からつま先まで私の姿を確認すると、とんでもなく驚いていた。二人とも私を男性だと思っていたそうだ。
「あの人は確かに『女性』だと言っていたのよ?でもクラウに聞けば『リーシュは男だよ?』と不思議そうに言うものだから男性なのだとばかり…それでね、貴女のことを調べて…その」
夫人は言い淀む。
「女性を部屋に連れ込んでいた…という証言を耳にしてね?クラウに『貴方、遊ばれているわ!』って言い争ってしまったの。」
「女性を連れ込んだのではなく…リーシュ様が女性だったのですね…お母様」
しおしおと、謝る姿はとてもクラウそっくりだった。
しかし、私を今も男性と思っているクラウにはソレがどう聞こえただろう。とんでもない勘違いを生んでいるかもしれない…早く誤解を解かなければ…。
◇ ◇ ◇
また明日、3話くらい投稿して連休に最終回目指して大量投稿していく予定です!!よろしくお願いします。




