盗み聞きする本心?
考えているうちに、伯爵様が先生たちの話を終えてクラウに近づく。
彼らは、ちょうど私のいる窓際近くまでやってきた。撤収作業の邪魔にならないように壁際に来たのだろう。とても運がいい。
「婚約を拒否したかと思ったのだが…いいのか?」
「いいに決まってる。もう決めたから。…それに、騎士になれる相手を連れてこいって言ったのは父上だよ。」
クラウの言葉に、伯爵様の動きが止まる。何かを思い出すように瞼を閉じて…開いたとき。
「…ああ、あの時か。あれは、お前が騎士になれない事を落ち込んでいるようだったから。…気持ちを軽くしようと、代役でも良いというつもりで言ったのだが。」
「…はぁ!?なにそれ。てっきりボクに失望したのかと。だから婿なんて言い出すんだって…。」
「失望などしない。自分の子は健やかに生きてさえくれればそれでいいと思う、それが親だ。しかし、お前は可愛いからな…少し期待はした。」
伯爵様…クラウが大好きだなぁ。
胸がほんわかと温かい気持ちになった。
「ボクが剣を捨てた時も?ボクに呆れてたんじゃないの?」
「あの時は、良かれと思って教えていた事が、そんなにもクラウを追い詰めていると思い知った。それで心底自分を責めたものだ。」
「もー…なにそれ。」
はぁ~~と深く息を吐いたクラウの姿は、心底安堵したように見えた。互いに言葉足らず過ぎるのだろうか。
「良かったね、クラウ」
小さくそう呟いてみる。彼には届かない声だけど、彼の悩みが解決したのだから嬉しかった。だけど…、これなら婚約もやっぱり無しになるのでは…。
「…でも、クラウが幸せならいいか。婚約が白紙になったとしても…」
はぁ、と深いため息がでて、床に座り込む。それでも、クラウや伯爵様から取り消しの言葉を言われるのを待つより、今、取り繕わない二人の言葉を聞いて心構えをしておきたい。
そうして、引き続き会話を聞くけれど、いくら待ってもその話題にはならず。
婚約の話は進められていく。
「一刻も早く、婚約を進めたいんだよね。伯爵家にとって、あんなに良い人材、他にいるはずがない。」
「それほど惚れ込んでいるのか?帰還の際も仲睦まじくしていたな」
「な!?ちがっ、ぅ。伯爵家として…あれだから…。仲はいいと思うけど。急ぎたいのは、リーシュが押しに弱いからだよ。のんびりしてたら別の誰かにふらふら~って流されそう。」
「そうなのか?」
「そーなの。」
流されやすいとか不服だな。
さすがに婚約なんて、クラウにしか了承しない…とは思う。
「……よかろう。あの者を迎えることは、伯爵家にとって最良の選択であると断言できる」
「でしょ?」
「説得には成功したのか?」
「そこは…上手く言いくるめたっていうか」
「…まぁ、了承を得たならいいだろう。あの者は今回の件で仲間からの評価も高かった。他家から余計な横槍が入る前に、早急に手続きを進めるとしよう」
「うん。そうして。」
その会話を最後に、二人は場所を移動してしまい、私の盗み聞きもここまでとなった。
ただ、忙しそうに作業をする人々のざわめきを聞きながら。私はただの天井を眺める。
「伯爵家として…か。クラウも貴族なんだな。」
家の為の婚約。
とりあえず、婚約は大丈夫そうだとホッとする。彼が近いうちに誰かと婚約し、結婚をしなければならないのなら、その相手が自分で良かった…とも思う。
家のため…
家のためか…
「婚約できただけでも…よし。そう思おう。スゴいじゃないか。本来なら諦めるしかないのに婚約なんだから!」
足に力を入れて、自分を奮い立たせるように声にする。好きな人と婚約が進む喜びと、特別な愛がある訳ではない現実に胸は複雑な気持ちでいっぱいだけど。
悪くない結果だ。喜ぼう!
そうして、兄とマルーナさんのいる医務室へ戻ることにした。
…
「ただいまー」
再びやって来た医務室では、兄がマルーナさんに紐で縛り上げられていた。
「リーシュ様、お話は終わりましたの?」
兄を紐で縛り上げながら優雅に言うマルーナさん。妙に嬉しそうな兄が少し気持ち悪い。
「終わったんだけど…どういう状況?よくゼインを縛り上げられたね?驚いた。」
「ふふっ、護身用に人を拘束する方法を聞きましたの。ゼイン様が相手役をして下さったのですわ。でも、うっかり全身を拘束してしまって。」
「はぁ、はぁ、素質がありすぎる。こんな拘束初めてだ。抜け出せねえ。」
兄が上手く乗せられて、私たちを追わないように拘束されていたのだと理解した。
◇ ◇ ◇




