兄が来た。
ギィ、パタン。
扉の閉まる音が響いた時。
目を覚まし、重い瞼を上げた。真っ白の天井と、一応知っている部屋。ここは医務室で、あのまま寝てしまったんだ…と少しずつ思い出す。
周囲を見れば、マルーナさんがベッドの側に置かれた椅子に座っていた。
「起きましたのね。調子はどうかしら?」
マルーナさんの顔をぼんやりと見ながら体を少しずつ動かしてみる。すると驚くほど調子がいいことに気がついた。
「とても体が軽い。」
「それなら良かったですわね。医務室の先生が魔力切れだろうと言っておりました。お体を清潔にする魔法と共に、お着替えも先生がして下さいましたわ。」
医務室の先生が着替えを!?と服の中を確認すると、魔物の核を忍ばせた装備はそのまま。核の存在も確認できてホッと息を吐いた。きっと胸元は、先生が気を使って外さないでいてくれたのだろう。
「ずっとクラウ様が側にいたそうです。今、ちょうど朝食を取りに行かれました。『起きたらきっとお腹空かせてるから。』って。私はその間だけここで見張っていてと言われましたわ。」
「見張りって。逃げるとでも思われてるみたい。」
「きっと、思ってますわよ?何かあったのではありませんか?」
「え?なんでだろう。」
なんで私が逃げるなんて…。
それにしても、ずっと側にいてくれたんだ、クラウ。…嬉しい。嬉しいけれど…。今どういう状態だろう。
自分の姿を確認すると、治癒医院で入院する人が着る、病衣姿だった。ワンピースみたいに足元まで長い形だけれど、男女ともに着れるもの。
ベッドから降りて、体を軽く動かすと病衣がワンピースのように揺れる。
「女の子みたいですわね。」
「そう見える?」
マルーナさんの言葉にドキドキしながら向き合う。医務室にあった鏡を見ながら体を確認すると、お風呂に入った後のように綺麗だった。香りも石鹸のような?少し消毒液にも似た香りがする。
これも先生の魔法なのだろうか。
「筋肉質になるのが嫌だったんだ…。でも、そんな私に両親が、筋力補助の魔法を教えてくれなかった理由が分かった気がする。魔力切れがこんなになるなんて。自分では不調に気がつかなかった。」
「気がついたクラウ様に感謝ですわね。」
「うん、本当に。」
「それにリーシュ様は頼られると、それに答えようとしてしまうところがありますもの。無理して魔物の前で倒れたら終わりですわね。」
「…うん。」
そうして話していると、扉がガチャリと開く。
振り返ると、3つのトレイを器用に抱えてクラウが立っていた。朝食の香りが、医務室の消毒液の匂いと混じり合う。
「ご飯とうちゃーく!マルーナさん、リーシュは…」
その瞬間、バッチリと目が合った。
クラウの瞳が私の姿を捉えると、大きく見開かれる。彼の手がトレイを握る力が一瞬緩み、皿がカタリと鳴った。
「おはよう。ずっと側にいてくれたって聞いたよ。ありがとう。」
「起きてる!!よかった。」
満面の笑顔でそう言ってくれたクラウ。その後ろから、足音が近づき、ひょっこりと見知った人物が現れた。
「お、リーシュ、ここにいたかー!運良く名前が聞こえてさ、覗いてみて正解だったな。会えずに帰るところだった。」
クラウの後ろからやって来たのは、背の高い体格の良い青年。陽に焼けた肌に、冒険者のようなマントを羽織る人物は、私の五人の兄の中でも一番年の近い兄、ゼインだ。
「ゼイン?なんでここに?」
聖女様の帰還時に付いて来ていたのは知っていたけれど、そこはすっとぼけた。
今は男女兼用の病衣を着ているので、身内に男装バレをする悲劇も生まれない。安心して会話ができる。
「国境近くに聖女様が来ただろ?それはいいんだけど、その護衛が縄張りに入ったもんだから揉めてな。俺と。」
「縄張りにまで?聖女様の護衛は大丈夫だったの?」
「ダメにしたから俺がここまで付いて来たんだ。来てやったから敬えって態度が鼻について、つい、な。俺らは頼んでないってのに。それでも親父に『責任もってお前が行け』って言われてさ。」
「そっか。ゼインの縄張りに入ってしまったのは運が悪かったね。仲間でも罠を見抜くのは難しいから…」
「お前もよく引っ掛かってたよなー、俺を追いかけてきて。」
「あれは、少し油断しただけで…」
事情を聞いていると、話に付いてこれない友人二人が気になり、そちらを向いて紹介することにした。二人も興味深そうにこちらを見てくれた。
「クラウ、マルーナさん。この人はゼイン。罠を仕掛けるのが得意な狩人で…」
「リーシュの初恋の相手なんだぜー♪」
5番目の兄だよ。と言おうとしたら、故郷のノリでネタをぶっ込んで来た。
◇ ◇ ◇
GW中に完結目指して投稿中。本日【6話】用意出来ました!!リメイク前よりだいぶ内容が好きになってきて「こっちの方が青春っぽい恋愛でいいな。」となってます。




