紹介される相手。
私達のやり取りを見て、伯爵様が穏やかな笑みを深めた。
さっきまで息子を勧めてきたというのに、この優しい笑顔は??と不思議な気分になる。
息をついた彼の指が、私の腕をぎゅっと握ったまま体を離すのだけど、仕草が可愛すぎてたまらない。
「手が汚れるよ?戻ってきたばかりだから臭いと思うし。」
「そんなの今はいーから。ホント心配したんだから!ボロッボロのマントだけ何回も帰ってきて。その度に死んだかと思ったじゃん!!」
「たくさん投げたから。」
その時の気持ちを思い出したのか、ポロポロと涙を流すクラウに申し訳ない気持ちになった。危険と判断したら投げるように言われたマントだから、マントだけ帰ってきて心配になったんだと思う。
先輩に手紙だけでも託しとけば良かった。
「ちょうどいい。リーシュにお前との婚約をと話していた。こんなにも仲が良いなら問題ないだろう?」
…
「「…え?」」
伯爵様の言葉が頭の中で反響する。
クラウに。
「お前との縁談」って言った!?
まさか、伯爵様の息子って…クラウなの!? 伯爵様の息子だなんて、まったく想像していなかった。
伯爵様みたいにゴリゴリの感じを想像していた。
この伯爵様の遺伝子がクラウに…
不思議なものだ。
そう思いながら伯爵様とクラウさんを見比べた。クラウがゴリゴリに鍛えたら伯爵様みたいになるのだろうか。お母様の遺伝子が強いのだろうか。
えと、じゃあ…クラウと婚約できるの?
そう思って彼を見ると、その瞳に困惑が浮かび、私から手を離さず少し後ずさった。
「な、な!!」
「?」
わなわなと震えるクラウ。
それをニコニコと見つめる伯爵様。
温度差がすごい。
「なに余計なことしてくれてるのさ!!」
「っ!」
クラウの大きな声が広場に響く。その言葉に伯爵様は不服そうに目を細めた。あ、その仕草クラウに似てる。
「余計なこととはなんだ!お前が婚約者も決めずフラフラとしているから親である私もだな…」
「それが余計だって言ってるんだよ!ボクの気持ちをもっと考えてよ!」
「縁談の話をすれば、話もろくに聞かず『嫌だ』と言うだけだろう!」
「嫌だから嫌って言うのは当たり前じゃないか。押し付けないで欲しいな。」
「嫌だ、嫌だと言うだけでは何も進まんだろ。いつまでも可愛いままではないのだぞ。」
「まだ暫くは可愛いですー!」
「親からしたらいつまでも可愛い。だが、他人から見たら普通の男だろう?」
「いいの!ボクはボクを好きになってくれる人を自分で見つける。そこに父上の手助けなんていらないの!」
すぐ目の前で勃発した親子喧嘩。
強い意思を持った眼差しで伯爵様を睨むクラウ。この伯爵様にこんなにも反抗できるのは凄い。さすが息子。
そして、伯爵様はクラウが可愛いんだなってのが分かる。
しかし、長引く親子喧嘩の中で、縁談を拒否された私はいたたまれなかった…。いつまで続くのか分からないこの喧嘩を、存在感を薄くして見守る事しかできなかった。
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