逃げる理由って?
机から頭を上げない私の横から、マルーナさん特有の視線を感じる。それは私のことを見透かすようないつもの視線。もぅグサグサと刺さるような視線。
「リーシュ様、まだ真実をお話になっていないのですか?」
「真実って…。…ぁ、話してない。色々あって。」
よく考えれば、付与魔法どうこうの前に、キスやアレコレするなら言うべきだったかもしれない。
私が女だって…。
「失敗付与魔法でエッチになってしまったクラウ」という目の前のラッキースケベに、忘れていた…。そこまで考えているとフワリと頭に温かい重みを感じる。
「前も言いましたが、考えすぎると良い方向へ行きませんわ。貴方は素直なお言葉が可愛らしいのに。」
「うう。」
ちらりと見れば、子供を慰めるように私の頭を撫でるマルーナさん。美人に撫でられるのは不思議とお得な気分になった。
「マルーナさん…優しいね。」
「ただ優しくなんて、いたしませんわ。」
「私に優しくすると良いことがあるの?」
「ええ、あります。困った時にリーシュ様が居てくれたら心強いですもの。」
「そっか、その時はできる限りのことをするよ。」
すると、その優しい手が頭に乗ったまま止まる。
「嫌では…ありませんの?利益の為に優しくする私が。」
「何であれ優しくしてくれる人が好きだから。それに、マルーナさんは皆の話を聞いていて十分優しいよ。」
「まぁ、ちょろいのですわね。」
「そうかも。」
「やはり…貴方は素直なお言葉が可愛く、輝いていますわ。」
そこまで話すと、マルーナさんは眉を下げて、珍しく怯えたように視線を逸らす。
そして、私をまっすぐ見た。
「日を改めて…リーシュ様に相談がありますわ。」
「今はダメなの?」
「ゆっくり話せる時間がありませんから。」
そうして話していると、教室の奥から走ってくる足音が近づいてきた。かと思うと、私を撫でていた心地良いマルーナさんの手の感触が消えてしまう。
もう終わりですか?
おかわりできますか?
と思って顔をあげると、すぐ近くにクラウがいて、マルーナさんの手を遮っていた。
「あら、クラウ様。どうなさいました?」
「その、あれ、…だから。」
何か言いにくそうにモゴモゴするクラウ。
でもこれはチャンスだった。クラウの腕を掴むと、ビクリと手が震える。その手には、私の編んだブレスレット。それに、指先が触れたけれど、何の魔力も感じなかった。何の効果もないただのブレスレットだ。
「クラウ…少し話したい。ここだと他に人がいるから別の場所で。」
「…」
そう話すと、視線を泳がせ視線すらも合わせてくれない。その沈黙に胸がざわつく。
でも、もう言ってしまおう。話の流れとか関係ない。
昨日、私の髪を女の子のように結って「可愛い」と言ってくれた。薄々気がついているって可能性もある。だけど、私の言葉より先にクラウが慌てて言う。
「ボクに触ったらダメだよ、汚れるから。」
しょんぼりとした表情で、それでもいっぱいいっぱいといった様子で言うクラウ。汚れると言われても、何も汚れは見当たらない。
「汚れる?どこも汚れてるようには見えないけど。」
「…昨日、部屋に帰ってから。『夢』のこと思い出して…何度も、何度も押さえられなくて…そうしたら寝れなくて。寝不足で顔が最悪。」
前半よく分からなかったけれど「寝不足で顔が最悪」ということは分かった。それに夢と言った本人が、とても夢と思えて無さそうなことを察して私の中に喜びが込み上げる。そうしたら、自然と頬が緩んでしまって。
「ふふっ」
「…そんな可愛く笑わないでよ。あれから君が女の子にしか見えなくて…手も心も汚れてるんだ。こんなボクに触ったら君まで汚れる。」
手も心も??
掴んでいる彼の手を見てみても、汚れ一つ見つけられない。
「君を女の子として想像してするとか人間として最低だ…終わってる」
どうやら、酷い自己嫌悪が生まれる何かがあったらしい。
それに、なぜか言葉にいつもの軽快さがないような??
それは、まるで…
普通の男の子みたいな…
その時――
教室の扉が開き、教師が入ってきた。その姿は落ち着いて見えるけれど確かに空気が違った。
教室が一気に緊張感に包まれる。
「武術選択の生徒は全員、学園前の広場に集合!急ぎだ。他の生徒は王城へ避難するか、ここに残り、避難民受け入れ準備を整える。 」
教師の声に「避難民?」と生徒たちがざわつき始める。私はクラウを一瞬見て、手を離す。今はこれ以上ゆっくり話せないみたいだから。
「広場に行ってくる。クラウ、マルーナさん。また後で。」
先生の様子からしても、ただ事では無さそうな空気だった。だから急ぎで指定された場所へ向かうことにした。
◇ ◇ ◇
明日も2話は投稿出来たら良いなと思っています。よろしくお願いします!




