夢の終わり。
髪を結ってもらいながら、静かな時間が流れた。いつもなら、たくさん話題があるのに無言は珍しい。だから少しだけ心配になった。
「クラウ、体調は大丈夫?付与魔法の影響ない?」
「うん、大丈夫。なんともない。」
本当かな?
彼を見ようとした時。
「終わり!あのさ、これが今日最後の夢ってことで許してくれる?」
「?」
最後の夢、と言われ手鏡を渡された。
髪を結うことが最後の夢??不思議に思いながら鏡を覗くと、少し大人っぽく、可愛らしい髪型の自分がいた。長い髪がハーフアップにされ、三つ編みにされた髪が集められ、花のように華やかに飾る。
「…」
まさか…女だってバレた?
妙な緊張感が走る。
次に何を言われるのだろう、と身構えた。
「可愛い。」
そう言って、クラウがいつも可愛いものを見つけた時のような…。それよりも、もっと。素敵な物を見つめるような瞳でこちらを見ていた。
「これって…」
どういう意図があるの?と、聞こうとした。
そうしたら、私の頭を固定するように手が添えられると、額に彼の唇がそっと触れ…
ちゅっ
小さなリップ音を立てて離れていく。
それは、去年。私を励ます為にしたキスと似ていて…少し違う…ような気がする。
「ねぇ、リーシュ。ボクを好きになって。」
その表情はとても真剣で、私に願うように響く。
クラウを好きに?
それはもう…
「好き、だよ?」
戸惑いつつ、しっかりとそう返す。
私は心の底からの思いを言葉にのせたつもりだった。
それなのに、クラウは少し不満そうな音を返してくる。
「全く体が反応してなかった癖に…。」
「何が?」
「そーじゃなくて、もっともっともーーっと好きになってよって言ってんの。」
「今より、もっと??」
「そ!」
これ以上好きって、あるのかな?
きっと、今以上に好きになってしまったら、ドキドキで治癒医院送りにされてしまう。
「今よりもっと…それって凄いことになるよ。」
「…はぁ、やっぱり…なんでもなーい!これで夢は終わりー。って…ボクが君を振り回しただけで終わったけどさ。」
「楽しかったよ。」
「なら、いーけど。」
苦笑いした彼は、言い終えると同時に、パッと髪がほぐしてぐしゃぐしゃと混ぜてしまう。
「ちょっ、ちょっとまって。ぐしゃぐしゃだよ!」
「だいじょーぶ!今度はいつも通りかっこよくしてあげるからさー。」
そうして、今度は鼻歌混じりに髪を撫で、いつも通りに話をしながら進む。その話のなかでは、今日の文化祭で一番何が楽しかった!とか、一番美味しいのはあれだった…とか。
そこに「夢」とされた触れ合いは一切出てこなくて。
あの時間は「夢」として終わったのだと実感した。
「よし、完成!今日も格好いいよ。」
「ありがとう。」
素直にお礼を言って、見せてもらった鏡。そこには、いつも通りスッキリまとめられた自分がいる。さっきの可愛い髪型の自分は、本当に夢だったみたいだ。
「ね、ね! 最後にあの屋台のお菓子食べようよ!」
「いっぱい食べるね。」
先を行くクラウが振り返ってニコッと笑う。その笑顔に、私もつられて笑った。
「リーシュ」と呼び捨てにされるのは「夢」と呼ばれる時間の中での出来事。でも、それには気が付かないフリをする。
笑顔で差し出してくれた手に自分の手を重ねて、夢ではない彼の存在を確かめる。文化祭の喧騒に再び飛び込みながら、私はそっとクラウの手を握り返した。
繋いだ手と、私の手を気遣いながら引っ張る彼に「好きだな。」と改めて思う。
お店でお菓子を買い、彼が美味しそうにそれを頬張る。私は色々とお腹がいっぱいでお菓子は買わなかった。
「んー! おいひー」
幸せそうに頬張る彼を眺めていると、ついさっきの出来事が本当に夢だったのではないかと思えてくる。
整えられた身なりも、いつも通りの態度も。……自分にとってはあんなに大切で、心臓が痛いくらいだった時間が、何もなかったことになってしまうのは、やっぱり少し寂しい。
そんな私の視線に気づいたのか、クラウが持っていたお菓子をこちらに差し出した。
「ん? やっぱ食べるの?」
「お菓子じゃないよ。『夢』のことを考えていただけ……」
素直に白状すると、彼はみるみる顔を赤くして固まった。手元からこぼれ落ちそうになったお菓子を慌てて受け止めると、彼の口元に粉がついているのが目に入る。
私は、吸い寄せられるように指を伸ばした。
指先でそっと粉を拭い、そのまま彼の口元へ。
「はい、食べて」
促されるまま、真っ赤な顔でモグモグと咀嚼するクラウ。
私は、自分の指に残った甘い名残をペロリと舐めとった。
――すごく甘い。
ただの夢では終わらせたくない、私なりの悪あがき。
呆然と立ち尽くす彼を見て、私は少しだけ悪戯っぽく、自嘲気味に笑った。
◇ ◇ ◇
今日のストック無くなりました。GW中には終わらせたいので、ラストに向けてたくさん投稿しています。読んで下さる方、リアクション下さる方。本当に感謝です。正統派ヒーローじゃないから、読んでくれる人がいるだけで嬉しいです( ;∀;)




