無かったことになる初めてのこと。
文化祭で、好きな人とキス。
それって、とても甘酸っぱい青春。
クラウさんの気持ちが、どこまでなのか?は分からないけれど、どうでもいい相手と「試しにキスしてみようよ!」なんてならないと思う。
試しにキスするには問題ない程度に好き、ということが判明したも同然なんだ。
それはとても誇らしい。
いや、でも、家格の差から、このキスを理由に婚約等を迫らないと判断されたとか?
もう、何でもいいや。
ドキドキするような嬉しい気持ちがいっぱいだった。
「…それでいいなら。目、閉じてくれる?」
気持ちを隠して淡々と言うと、彼の大きな瞳が一瞬更に大きく見開かれ、すぐに狼狽えたように声を上げた。
「ボ、ボクが…目を閉じて待つ方!?」
「クラウさんからしてくれるの?」
聞くと彼は両手で顔を覆い、モゴモゴと呟いた。
「待って……。どっちが恥ずかしくないか、考える…。」
「どちらも恥ずかしいと思うけど。」
「ううっ」と唸り、意を決したようにギュッと目を閉じた。
「よし! 来て!」
目を閉じたクラウさんの唇がきゅっと結ばれ、立ったまま何かを受け止めるように手を広げる。近付いて、クラウさんの頬に手を添えると、彼の体がピクッと反応し、唇がわずかに動いた。
「可愛い。」
「観察しないでよ! 待ってる方も、ものすごく恥ずかしいんだからぁ。」
「ごめんね。」
笑いながら謝ると、それがクラウさんにとって、からかいと取られたみたい。頬をプクっと膨らませた。手のなかで膨らむ頬っぺは柔らかい。
「なんか、なんか不公平だよ! 今度はリーシュ君が目を閉じて待ってて!」
「わかった。」
彼の頬から手を離し、素直に瞼を閉じた。
まぶたの裏でドキドキが響く。クラウさんの指先が頬に添えられて、気配が近くに感じられるのに何も見えないこの感覚。確かに少し恥ずかしい、でもどこかワクワクする。しかし、数秒待っても何も起こらず、そっと目を開けた。すると、目の前のクラウさんとバッチリ目が合う。
クラウさんの瞳は少し潤んでいて、戸惑ったような表情を見せる。
「無理そうならやめる?」
「なに? リーシュ君、嫌になったの?」
「来なかったから。」
「い、今。しよーと思ってたし。」
その拗ねた顔があまりにも可愛くて「ふふっ」と笑ってしまった。クラウさんがジトッとした目で睨んでくる。
「もう、笑ってたらできないじゃん。」
「ふふっ、ごめん、なんだかにやけちゃって。顔が戻らない。確かに…少し恥ずかしいね。二人とも目を開けてたらどうかな。」
「それもそれで恥ずかしいよ。」
クラウさんは、そう言うけれど視線を合わせたまま試しにそっと近づく。するとクラウさんが慌ててギュッと瞼を閉じた。
「このまましていいの?」
「聞かないでよ、もう。」
そう言って、クラウさんが目を開けた瞬間。その瞳に引き寄せられるように近づき、瞼を閉じる。
そして。
ほんの一瞬だけ。
温かい彼に触れた。
一瞬すぎるのと、緊張でよく分からなかった。それなのに幸せな気持ちが胸を一杯にする。離れると、クラウさんの驚いたような視線と目が合う。
「っ、ぅ、ぁ…。」
「クラウさん、大丈夫?」
「…き、急に、来たから!」
「急じゃないと思うんだけど。」
苦笑いしながら、でも自分の頬も熱いのに気付いた。クラウさんは両手で顔を覆い蹲る。
「ううっ、…顔、見れない。」
「うん。」
「リーシュ君の、キス顔見ちゃった…」
「見られちゃった。」
恥ずかしいけれど、私以上に照れている人が側にいると妙に冷静になれる。不思議なものだ。
「これで、雰囲気わかった?」
「な、何も分からなかった…一瞬のうちにすべてが終わってたし。」
わぁ~…と頭を抱える彼は、こんなに小さくなるんだな…と思うほど小さく丸まっていた。
「じゃあ、もう一回?」
普段なら、こんな風に言わないと。だけど、どうせ夢になるなら『忘れられない夢』になったらいいって思った。
「へ!?」
もっと、彼の中に何かを残したい。
クラウさんから言い出したこの提案。今だけ、彼の言葉に乗じて思い出を残したくなった。冗談混じりに聞けば「もー無理!」とか言われるかと思ったけれど、今の彼はそうじゃなくて。
「も、もう一回。」
「うん。」
クラウさんが、自分から「もう一回」と言う。その事に少しだけ驚いた。どういう風の吹きまわしなんだろう?少し考えそうになったけど、考えすぎると夢が覚めてしまうかもしれない。
だから今は、叶わない恋の思い出を1つでも多く心に刻むことに集中した。
◇ ◇ ◇
下手に投稿スケジュールを考えるのはやめて、出来たら随時投稿していく方向に変えようと思います(・_・;)!!投稿が多い日、少ない日とあるかも知れませんが1日最低1話は投稿していきます。




