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可愛い君♂に恋する私は「男装」していると言い出せない。〜男の娘と男装女子はすれ違いすぎる。〜  作者: かたたな


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まさかの提案。


 カチャン。


 教室の扉の鍵が閉まる音。


 その音を特に気にかけることはなかった。

 ここの扉は内鍵だし、さっきの温室みたいに人が入ってくるのも面倒だから。多分、クラウさんも疲れたんだろうな…ゆっくりしたいんだと思う。考えながら、窓際まで歩くと壁を背に寄りかかった。

 窓際は、文化祭の賑やかな灯り見えて眺めがいい。その賑わいを眺めながら、文化祭恒例の星形の照明を取り出した。


 まだ願い事を書いていないそれを、指先でくるりと回すと、温かい光が広がる。クラウさんも星形の照明を取り出し、机に置いた。二つの明かりが部屋を程よく照らす。


「今年の願い事…どうしようかな?クラウさんは決めた?」

「んー?いや…。今年の願い事は、星とは別の存在に叶えて欲しいなー?なんて。」

「へー?じゃあ、今は書かないんだ。」

「うん。」


 悩んでいる私とは裏腹に、彼はどうするか決まっているみたい。私も早く決めたい。再び悩んでいると、彼がカーディガンのポケットに手を突っ込んで少し照れくさそうに口を開いた。


「さっき、中庭で…告白されてたの…見たよね?」

「…ちょっとだけ。」


 クラウさんは小さく笑って、床をつま先でつついた。


「どう…思った?」


 …



 ん?



 どう思った??



 告白されている友人を見た感想として、適切なものはなんだろう?そして告白の場面を見られて感想を求める友人は、何を求めてるのだろう??


 素直に言っていいのかな?マルーナさんは素直が一番と言っていたし…他に言葉も浮かばないからいいか。


「どうって…。相手は可愛い子に見えたけど…家格も合うって言うのに断るなんて理想が高いんだなって。」

「う゛!!」


 何故か攻撃を受けたように苦しい声をあげるクラウさん。今日の彼は、いつもと違う気がする。これは文化祭だからかと思っていたのだけど違うのだろうか。


「理想は…高いのかも…。」

「クラウさんっぽいね。」

「それ、悪口じゃん?」

「悪口じゃないよ。クラウさんなら、とびきり可愛い子連れて『可愛いー』って言ってるのが合ってると思う。」

「なにそれー。」


 少し笑ってから星の照明を見る。

 去年の願い事は何だかんだで叶った気がしていた。恋ができて、こうして好きな人と文化祭を楽しめているのだから。じゃあ…今回願うのは何だろう?この恋は叶わないのに。叶わないからこそ、こうして神頼みする?クラウさんと両想いになりたいって…。星を持つ手に力を込めて悩んでいると、クラウさんが隣に来た。


「その、さっきのは断ったんだけど…恋人や婚約者になるって、さっきの温室の彼らみたいなことするんだよね…。なんか、想像できなくて。自分がああなるところ。」


 少し陰りがあり、いつもより少し大人びて見える。確かに可愛いもの大好きな彼から、ああいう色気のある事柄は想像つかない気がする。


「リーシュ君。」

「?」


 彼はポケットから手を出し、それをどうしていいか分からないみたいに動かした後、私の制服を指先で頼りなく掴んだ。


「……ボクと、できるかな。その……、試しに」


 視線が私の目ではなく、唇へと落ちた気がする。


「……キスできる?」



 …


 …


 …聞き間違い…かな?


 …でも、確かに聞いた。キスって。


 それは私にとって耳を疑うような内容だった。


 キス?


  クラウさんと?



  理解が追い付かず、ただクラウを見つめるけれど…冗談で言っているようには見えない。


「クラウさんと?」

「ぅ、うん、ボクと。」


 クラウさんは少しうつむき、視線を資材の転がる床に落とした。いつもは明るい声が、ほんの少し低くなる。


「…ほら、想像しやすいでしょ? 誰かと付き合ったら、さっきの温室のカップルみたいなことするわけだし…。試しにやってみれば、そうなりたい!って思えるかどうかの基準になる。ほら、練習にもなるし…お、お得じゃん!リーシュ君、恋人欲しいって言ってたし。練習はとても役に立つ…と思う。」

「確かに。」


 少しだけ早口で言うクラウさん。

 私は私で「確かに」ってなんだ。平静を装って頷いたけど、内心は大荒れだった。クラウさんとキス…?



 いいのかな?そんなことしてしまって。



 願ったりかなったりだけども。



 考えながら、隣に座る彼の顔を覗き込む。すると、視線を合わせる彼の瞳がこちらの様子を伺うように細められた。


 どうやって? 目を閉じるの? 誰が先に?



「えっと…、えっとね…」



 クラウさんが首を傾げ、ちょっと心配そうに見てくる。


「嫌なら…別に、無理にじゃないよ?あくまでも…試しだから」

「…ううん、ただ…初めてだから、どうしたらいいかな、って…考えてて。」

「へ!?」


 クラウさんの目がパッと見開かれる。暗い部屋でも星の照明のせいで表情がよく見える。


「あ、そ、そういう!?そういうやつね!」


 彼が言い出したのに、その慌てふためく姿が面白くて思わずクスッと笑った。自分の鼓動をなんとか落ち着けながら、続ける。


「そう、初めてだし…クラウさんにとって、初心者のキスが参考になるかな? って。」


 私はやる気満々。

 でも、いざやってください!どうぞ!とされるとキスの導入部分が全く分からない。彼もそうなのか、真っ赤な顔で髪をいじり始めた。


「別に…誰かとの為の練習したいわけじゃなくて…ボクは…君とできたら…!」


 言葉が詰まり、モゴモゴと視線を泳がせる。


「とにかく、ボクも、初めてだから。だから大丈夫。なんとなくの雰囲気?が掴めれば、それで。」


 クラウさんは恥ずかしそうに唇を噛んだ。雰囲気…出せるのかな?初心者の私に?なんて考えていたら、その沈黙がクラウさんにとって居心地が悪かったらしい。妙な雰囲気に耐えかねたように、クラウさんが勢いよく言った。


「じゃ、じゃあさ! もし初めてとか気になるのなら、 ここであったことは…二人の秘密で、なかったことにすればいいじゃん! 夢だよ夢!そしたら次が本番。次こそがファーストキスじゃん!」

「ふっ、ははっ」


 笑いながらクラウさんを見る。めちゃくちゃな話だけど、彼も彼なりに何か考えがあるように見える。何か力になれるならなりたい。彼は貴族だから、それが未来の婚約者の為だろうと想像出来るのは悲しいけれど、こんな機会を逃すことはしたくない。


 それに、私がどんなに下手でもそれは無かった事になる初めてのキス。


 例え、本気だったとしても。無かった事にできる。


 この瞬間だけ友達という枠を越えることができる。


 私の気持ちは最初から決まっていた。




 ◇ ◇ ◇

明日は4話投稿予定(たぶん夜頃)です。読んで下さる方、リアクションを下さる方、いつもありがとうございます。もし良ければ☆評価頂けますと更に励みになります。

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