2人だけの教室
「もー…、予想外の展開だったんだけどー。怖がって仲を深めるものじゃないの?こーゆーの。あんな恐ろしいものを守る日が来るとは思わなかった。」
「ごめんね?でも凄かった!入って良かったよ、ありがとうクラウさん。」
「いーけど…」
クラウさんが肩をすくめ、額に落ちた髪を指で払う。
自分の想像を遥かに越えた造形に、気分が高まった私と、そんな私を押さえるのに疲れたクラウさん。
休憩も兼ねて、三年生になると出場が認められる武術と魔法のトーナメント戦を観覧した。
石造りの観客席に腰を下ろし、汗と魔法の火花が飛び交う試合を眺める。勝者にも敗者にも、惜しみなく拍手を送った。しかし、心の中では「来年、私はこれやんなきゃダメなのかな?」と思うとゲンナリする。文化祭がほぼ戦って終わってしまう。
ふとクラウさんを見ると、いつもの無邪気な笑顔を見せてくれる。さっきの告白なんて、まるでなかったかみたいな…。それがなぜかモヤモヤとした。それは彼女と私を重ねてしまったからだと思う。
「ねぇ、リーシュ君」
「?」
そう呼ばれてそちらを見ると、ブラウスのボタンを2個目まで外している仕草が見えた。
「ぁ、暑い、よねー?」
「さっき、はしゃいじゃったから。天気も良いから余計に暑く感じるかもしれない」
暑いと言っても、聖女様の不調の時よりは全然涼しい。でも、何で今になって暑さの話題?と思っていると、体を寄せて私の腕に自分の腕を絡めてきた。余りにも近いから私の角度からだとブラウスの中が見えそうになる。相変わらず綺麗な肌してるな。
「ええと、暑いとさ…」
「うん」
「こう…どう、かな?ボクと…」
「…??…クラウさんと…?」
何がどうなのか分からなかった。私は何かの言葉を聞きそびれてしまったのだろうか?それが何を指しているのか聞き返しても、彼は「あー…」とか気まずそうにする。
「ボクと…甘い時間を過ごしたり?」
その言葉で私は思い出した。
「…ぁ、そっか!!」
「うわっ、え?伝わった?」
私は彼の手を引いて、急いでその場所を探す。
「え、ぁっ、リーシュ君。そんな急がなくても、ボク大丈夫だし!積極的なのは嬉しいけど、ここまでとは予想外っていうか!」
慌てるクラウさんだけど、これはスピード勝負だ。手を引いたまま急ぎ足で返事をした。
「ううん、急がないと。こんな機会滅多にないから」
「だ、ぃじょうぶ、だし。急がなくても…気が変わるとか…無いし…」
そう言うと、彼は顔を真っ赤にしていた。相当暑いみたいだ。でも、幸いにも目的地は近くにある。私達は、沢山あるお店のテントへ足を運んだのだった。
「え?誰もいない教室とかじゃなくて…こっち?」
「教室…ああ、そうだね。ゆっくり食べれる場所は後で探そう?」
「へっ!?ゆっくり食べる場所!?ゆっくり時間をかけて食べられちゃうの!?」
「うん、アイス買ってから。売り切れちゃうから」
「ぅ、ん??あいす???」
クラウさんはアイスという存在を忘れたかのような返事を返してくる。
「アイスをご馳走する約束。クラウさんから言い出し難かったよね?ごめんね。あの時は助けてもらったのに…」
「ぁっ…あー、あの時。あったね。暑かった日」
「王都で有名なお店のアイス、今回の文化祭で出店してるって話題だから。トッピングは好きなの選んで良いよ」
「え!やった!!」
好きなトッピングと聞いて、クラウさんは元気に私の前を歩き出した。私の手を引いて元気に歩く姿はいつものクラウさんで安心する。
そうして無事に私達はアイスを買った。
アイスを買って、ゆっくり食べれる場所を探すと他にも魅力的な文化祭の出し物があってアイスを片手に遊んで回った。
ゆっくりできる場所を見つけた頃には、アイスはなくなっていた。
そうしてフラフラとやってきたのは去年も訪れた温室。ガラス張りの温室は、ほとんど人が訪れない静かな場所。色とりどりの花々が柔らかな光に照らされ、穏やかな空間が広がっていた。ベンチに腰を下ろすと、二人で疲れを吐き出すようにため息がでた。
「はー! 満喫したねー!」
クラウさんが大きく伸びをして、笑顔で言った。髪が少し乱れ、沈みかけた夕陽の光にキラキラと輝いている。
「うん、楽しかった。」
去年の文化祭は、クラウさんのガイドの元でアタリの部分だけ楽しんだ。今年の文化祭は、クラウさんとアタリもハズレも楽しむことができた。
どれが一番面白かった?と二人で、それぞれの分野に分けて一番を決めていたとき。
ギィ…
奥の扉が軋む音を立てて開く。
「ん? 誰か来た?めずらしー」
クラウさんが首を傾げ、二人で視線を向ける。
そこには、見るからに熱々のカップルが現れた。男子生徒が女子生徒の腰に手を回し、彼女は彼の胸に顔を寄せて甘い笑みを浮かべている。
二人はこちらに全く気付かない。
世界に二人だけしかいないかのように見つめ合っていた。
男子生徒が女子生徒の頬にそっと触れ、ゆっくりと顔を近づける。唇が重なり、最初は柔らかだったキスが、すぐに熱を帯びた。
女子生徒が彼の首に腕を絡ませると、男子生徒は彼女を木の椅子に押し倒す。
空気が一気に甘く、濃密なものに変わる。
私たちは目配せし、音を立てずにそろーっと温室を後にした。その間も、恋人達の互いを求める熱い言葉が聞こえた。
やっとの思いで外に出ると、顔を見合わせてクスクスと笑い出した。
「気まず過ぎるでしょ!何で後から来た奴に場所譲らなきゃいけないのさ!」
「うん、驚いた。」
つられて笑うけれど、胸の奥ではあのアツアツカップルを羨ましくも思う。
いいなぁ、恋人や婚約者と文化祭…。
あの人達は互いしか見えない程、愛し合っているのだろう。
温室の外を出て、あてもなくゆっくり歩いていると、文化祭の準備に使っていた資材置き場にしている教室にやってきた。
「ここならゆっくり話せそうだね。」
「そーだね。」
どちらが言い出した訳でもないのに、誰もいない静かな所を求めていた。私が教室に入ったのを確認してから、クラウさんが入ってくる。
その時。
カチャン。
静な部屋に、鍵の音が響いた。
◇ ◇ ◇




