文化祭後半。
二人の姿を木陰から眺め、どう声をかけるか悩んでいるとクラウさんがこちらに気付いた。パッと顔を上げ、いつものキラキラした笑顔で手を振ってくれる。
彼女に一言「じゃあ、またね」と言うと、その子の横を通り抜け、こちらに駆け寄って来てくれる。彼の肩越しに見えたその子は、今にも泣きそうな瞳で私を見た。彼が駆け寄ってきてくれるのはいつも嬉しい…けれど今回ばかりは素直に喜べない。
どうしても、恋が叶わなかった彼女を自分と重ねてしまう。
全力で慰めてあげたいけれど、知り合いでもない私にできることはない。ただ、彼女が新しく良い縁に恵まれるように願った。彼女は間違いなく私より勇敢で誠実だ。自分を偽らず話ができたのだから…幸せになってほしい。
「どうしたの?」
「…ぁ、ううん。可愛い子だなって思っただけ。行こうか。」
「…」
咄嗟に誤魔化して笑顔を返し、クラウさんの隣に並んで歩き出す。今ある幸せを、立場をわきまえて楽しもう。そう改めて思ったのだけど…。
「リーシュ君」
「なに?」
「…………手、その、手をさ…繋いで良い?」
クラウさんが控えめに聞いてきた。いつもなら勝手に引っ張っていくのに。変に勘違いしそうになる。でも、今の私はあくまでも男。いつもクラウさんが引っ張っていってくれるように、今度は私が彼の手を引いた。
「いつも聞かないで引っ張っていくのがクラウさんなのに、珍しいね」
そのまま手を繋ぎ歩き出すと、汗で滑りそうになる指先が離れないようにギュッと握り直した。すると何故か動きが硬くなるクラウさん。
「汗…ヤバいかも」
「そうかな?」
多分だけど…さっき告白されたものだから、虫除けとして私と親しげに歩きたいんだと思う。彼は顔が広くて人気者だから。
友達を失いたくないんだと思う。
そのまま手を繋ぎ、再び二人で文化祭の人混みに飛び込んだ。
歩いた先に、学生達が恐ろしい装いで脅かしてくる屋敷…『魔物の館』という企画があった。魔法が得意な生徒達の企画らしく、とても恐ろしい体験ができる!と準備段階から有名だった。
実際に中からの悲鳴が凄い。外にまで聞こえてくる。出てきた人達の中には泣いている人もいた。
だから私は、さりげなくその館を避けて通り過ぎようと試みる。クラウさんは怖がりだから。なのに、私の手を握る力が強くなった。彼の視線は、館の入り口に吸い寄せられている。
「興味あるの?」
「う、ん。興味、ある。」
全然興味ありそうに見えない。
肩が小さく震え、館の中から響いた甲高い悲鳴にビクッと体を跳ねさせる。その青ざめた横顔を見つめると心配しかない。
「やめておこう、夜寝れなくなるよ?」
「でも、これ体験できるの今日だけだよ?」
それは怖いもの見たさなの??
声には、好奇心と、ほのかな意地が混じっている気がする。
でも確かに、今日しか体験できないとなると興味が湧いてきた。すると、呼び込みの生徒と目が合ってパァッと「お客さんですか♪」と問うように微笑まれる。
「じゃあ、行ってみる?クラウさん。」
「よし!ぃ、行く!」
彼の声は少し上ずっている。せっかくの文化祭だもんね!と思い、そっと彼の背中に手を添えた。元気付ける意味も込めて。
「怖かったら、おんぶするから言ってね。」
「親子かよぉ…」
クラウさんが照れくさそうに笑い、軽く私の肩を叩く。
そして入った結果。
そこは、見たこともない異形の生き物が溢れる世界だった。
「すごいよ!クラウさん!こんなの想像もしたこともない形してる!」
興奮で声を弾ませると、クラウさんが苦笑いを浮かべる。
「リーシュ君…、雰囲気ぶち壊しだよー。」
「さ、触っても良いですか?脅かし役の人。」
「ダメに決まってるでしょー!」
私は思わず手を伸ばしかける。けれどその腕を遮るようにクラウさんが前に立つ。まるで脅かし役を守るように。脅かし役の子も喋ったらダメなのか、手で×を作る。可愛い。恐ろしい造形をして作るおてての小さな×がキモ可愛い!!
「わぁ、そんなポーズもできるの!?」
「こら!触っちゃいけません!困ってるでしょー!」
「少しだけ!少しだけ!いっぱいある腕一本だけ!」
そうして次々と現れる脅かし役を怯えさせ、私はクラウさんに引きずられて外へ出ることになった。
◇ ◇ ◇




