文化祭の朝(クラウ視点)
文化祭の朝。
教室は柔らかな朝日を浴びて、色とりどりの布や装飾品がきらめく幻想的な空間に変わっていた。ボクは装飾班の最終確認を終え、教室の片隅でマルーナさんの占い師衣装の仕上げをする。
深紫のベルベットに施した金糸の刺繍が朝日に輝き、裾に添えた小さな銀のビーズが軽やかに揺れる。既存のものに手を加えただけだけど、更に彼女らしさがでたと思う。ボクの指先は布の感触を確かめながら、鏡に映る完成形を見つめた。
「今日も完璧♪きついところとか、動きにくいとかない?」
「問題ありませんわ。」
隣で衣装を身にまとったマルーナさんが、優雅に微笑んだ。長い髪がローブの色に映え、神秘的な美しさが漂う。
「クラウ様、このような素晴らしい衣装をありがとうございます。」
「いーよ。こういうの好きだし。」
マルーナさんの瞳は、ボクの心の奥を覗き込むように深く、なのにどこか温かい。
「マルーナさんってさ…リーシュ君のこと、好きだったりする?」
そんな言葉が自然と漏れた事に驚き、口を押さえる。こんな唐突に言葉が出てしまうなんて。頬が熱くなり、慌てて取り消そうとした。けれど、マルーナさんは動じることなく、涼やかな笑みを浮かべた。
「ええ、もちろん好きですわ。」
その一言に、胸がひどく傷んだ。マルーナさんの視線がボクの動揺を捉えて、まるで楽しむように細められた。彼女はくすりと笑い、柔らかく付け加える。
「友達として、ですわ。」
「え、ああ、そう。友達…」
その言葉に、全身から力が抜ける。なんだ、友達か…。
その時、教室のドアが軽やかな音を立てて開き、リーシュ君が現れた。朝の光を背に、ボクとマルーナさんの方へ歩いてくる。
「わぁ、マルーナさん、とても綺麗だね!夜空の月より綺麗で神秘的だよ! 」
「まぁ、嬉しいですわ。」
リーシュ君の純粋な褒め言葉。マルーナさんが上品に微笑む。確かにマルーナさんは美人だけど…ボクだって今日も可愛いのに…。もしかして、リーシュ君は美人系が好み?
自分の髪に触れると可愛い系の髪型で結ってきたのを少し後悔した。ボクが何か言われた訳じゃないのに。二人とも自然に言葉を交わしているだけなのに、その光景を見ていられなくて、そっと視線を逸らす。
心臓はズキズキと痛い。
リーシュ君は…やっぱりマルーナさんみたいな人が好き?でも、マルーナさんは貴族で…リーシュ君がもし、マルーナさんを好きでも結ばれることはない…と思う。多分。
それよりも、リーシュ君の力を必要としてるボクの家と、表向きだけでも結婚すれば貴族になれる。叶わない恋をするより、ボクを選ぶ方がお得だよ…
…
あぁ、ほんと。ボクは嫌なやつ。
胸の奥でモヤモヤが渦巻く。二人の会話を邪魔しないように、黙々と荷物をまとめ始めた。
もし好きなら、ここにいるの、邪魔だよね…?
二人の楽しげに話す姿を見ているのが嫌なだけなのに、妙に正当な理由を付けて離れようとしてしまう。そんなことを考えていると、リーシュ君が突然ボクの方をまっすぐに見つめてきた。輝く瞳に射抜かれて、その視線1つで動けなくなってしまう。
「クラウさん、見て。これ、一番綺麗にできたんだ。」
彼が差し出したのは、六本の糸が丁寧に編み込まれたブレスレット。ピンクと白と赤の糸が繊細に絡み合う。
「わぁ、お店で売ってるのみたいだね。完成度高いじゃん!すごく可愛いし!」
素直な言葉を口にすると、リーシュ君が少し照れくさそうに、でも柔らかく微笑む。
「これ、私が昨日編んだんだ。なんだかクラウさんっぽいなって思って。」
ボクっぽい? ピンクと白と赤…確かに、ボクが心惹かれる色合いだ。思わずブレスレットを手に取り、指先でそっと撫でる。糸の感触が、なんだか彼の温もりを伝えてくるようで、胸が熱くなる。
こんな欲張りなボクを、彼は…こんなに綺麗な彩りに例えるんだ。
◇ ◇ ◇




